賃貸アパートを退去する際、部屋を入居時と同じ状態に戻す「原状回復」は、賃貸借契約において重要な義務の一つです。しかし、原状回復の範囲や費用負担については、入居者と大家さんの間で認識の違いが生じやすいポイントでもあります。
ここでは、国土交通省が定めている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に掲載してある事例を分かりやすく整理してお伝えしています。
退去時のトラブルを防ぎ、スムーズな引渡しを実現するための参考としてご活用ください。
-
[事例13]特約条項に規定のないクリーニング費用等の賃借人による負担が認められなかった事例
賃貸借契約終了後に賃貸人が賃借人に対して原状回復費用の支払いを求めたが、特約条項がなかったため、裁判所が賃借人の負担範囲を限定した事例です。特に、フロア張替えや室内クリーニング費用の負担が争点となりました。 -
[事例14]通常損耗を賃借人の負担とする特約が否認された事例
賃貸借契約終了時に賃借人が通常損耗(経年劣化や通常使用による減価)に対する原状回復費用を負担するかどうかが争われた事例です。賃貸人は、契約書の特約に基づき通常損耗も含めた原状回復費用を賃借人に請求しましたが、裁判所は特約の解釈を誤ったとして、通常損耗分は賃借人の負担ではないと判断しました。 -
[事例15]通常損耗分を含めた原状回復義務の特約が有効とされた事例
賃借人が賃貸人との間で締結した賃貸借契約において、通常の使用による損耗(自然損耗)を含む原状回復費用を賃借人が負担する旨の特約が有効かどうかが争われた事案です。裁判所は、特約が公序良俗に反しない限り有効であると判断し、賃借人の控訴を棄却しました。 -
[事例16]敷引きの特約は有効とされたが修繕費用は通常の使用による自然損耗分を除く 7 万円余に減額された事例
賃借人Xが賃貸人Yに対し、敷金の一部を敷引金として控除する特約(敷引約定)の有効性及び修繕費用の控除額を争った事案です。裁判所は、敷引約定の有効性を認め、修繕費用のうち賃借人Xが負担すべき金額を限定しました。 -
[事例17]経過年数を考慮した賃借人の負担すべき原状回復費用が示された事例
賃貸借契約終了後の原状回復費用を巡る紛争です。賃借人Xは、賃貸人Yが請求する原状回復費用の一部について、過失を認めつつも、経過年数を考慮した減価償却を主張しました。裁判所は、経過年数を考慮した残存価値の算定を行い、賃借人Xが負担すべき金額を具体的に算定しました。 -
[事例18]ペット飼育に起因するクリーニング費用を賃借人負担とする特約が有効とされた事例
賃借人がペットを飼育したことに伴う原状回復費用について、賃貸借契約に特約があった場合、その特約が有効かどうかが争われた事例です。裁判所は、ペット飼育に伴う消毒費用を賃借人負担とする特約を有効と判断し、クリーニング費用の一部を賃借人に負担させました。 -
[事例19]「50%償却」と「賃借人の負担義務を定めた特約」の規定のあった事例
賃貸借契約終了時に賃借人が負担すべき原状回復費用を巡る争いです。賃貸人Yは、賃借人Xに対し、リフォーム費用として52万7572円を請求し、敷金の返還を拒否しました。これに対し、賃借人Xは、敷金47万円のうち23万5000円の返還を求めて提訴しました。裁判所は、賃借人Xが負担すべき原状回復費用を4万950円と認定し、敷金の返還額を19万4050円としました。 -
[事例20]過失による損傷修復費用のうち経年劣化を除いた部分が賃借人の負担すべき費用とされた事例
賃借人が退去した際の原状回復費用を巡り、賃貸人と賃借人が対立した事案です。賃貸人は、賃借人が負担すべき損耗として壁クロスや床カーペットの修復費用を請求しましたが、裁判所は、その大部分が経年劣化や通常使用による損耗であり、賃借人が負担すべき範囲を超えると判断しました。 -
[事例21]賃貸人は敷金の精算は管理会社に一任されると主張したが敷金から控除されるべき費用はないとされた事例
賃借人Xが賃貸人Yに対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸人Yは、賃借人Xが退去時に必要な手続きを履行しなかったことを理由に、敷金全額を修繕費用に充当しました。しかし、裁判所は、賃貸人Yが控除すべき費用を具体的に主張できなかったため、敷金の一部返還を認めました。 -
[事例22]設備使用料等の合意が、公序良俗に反し無効とされた事例
賃借人Xが賃貸人Yとの間で締結した賃貸借契約において、敷金の返還と「設備協力金」および「設備使用料」の不当利得返還を求めた事案です。裁判所は、修繕費負担特約の無効性と設備使用料の公序良俗違反を理由に、賃借人Xの請求を認めました。