特約で高額な退去費用。敷金返還請求権が有効になったケース
賃貸契約における特約が後々のトラブルに発展し、裁判での争いとなった事例について、賃借人がクリーニング代を負担する特約が有効と認められた経緯を説明しています。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成9年9月27日に、賃貸人Yさんは木造モルタル2階建ての一戸建て住宅を賃借人Xさんに貸し出しました。
当時、Xさんは賃貸契約の敷金として27万円を支払いました。
そして、その後平成17年10月6日に、この賃貸借契約は賃料月額13万円、期間2年とし、賃借人が退去するときに専門業者のハウスクリーニング代を負担するという特約を含んで更新されました。
この特約は、賃貸借契約書に明記され、明確に説明されました。
- 賃貸契約開始日:平成9年9月27日
- 敷金:27万円
- 賃料月額:13万円
- 契約期間:2年(平成17年10月1日から平成19年9月30日まで)
- 特約:明け渡し時に専門業者のハウスクリーニング代を負担
トラブルの発端
賃貸借契約が終了する際、賃借人Xさんは平成19年4月30日に物件を返却しました。
Xさんは敷金27万円の返還を求めましたが、賃貸人Yさんは本件特約に基づき、クリーニング代や内装工事費などの費用を敷金から控除すると主張しました。
これに対してXさんは、通常の使用を超えた損耗に対する費用の請求は不当であると反発し、敷金の全額返還を求めて支払督促を申し立てました。
この対立が訴訟へと発展しました。
- 敷金の返還請求額:27万円
- クリーニング代:6万3000円
- 通常損耗を超える損耗の内装工事費用:8万430円
- 和室2室のクロスの張替え費用
- 和室障子の張替え費用
- 建具ダイノックシート張替え費用
- 畳2枚の張替え費用
裁判および判決
裁判では、賃貸借契約の特約が有効であるかどうかが争点となりました。
裁判所は、ハウスクリーニング代は特約に基づき賃借人の負担であると認定しました。
しかし、他の内装工事費については特別損耗のみを補修する義務があるとし、賃貸人Yさんが求めた全ての費用は認められませんでした。
結果として、クリーニング代と一部の内装工事費を控除した12万6570円を賃借人Xさんに支払うよう命じられました。
裁判所は賃貸借契約と特約の明確な内容に基づいて、公正な判断を下しました。
- 最高裁判所平成17年12月16日判決を引用
- 本件特約(ハウスクリーニング代負担)は有効
- 賃借人Xの負担する損耗は特別損耗のみ
- 通常損耗を超える損耗についてのみ補修義務あり
- 敷金12万6570円の返還を賃貸人Yに対して命じる
まとめ
この記事では、賃借人と賃貸人の間で賃貸契約時に交わされた特約がトラブルの発端となった事例を取り上げています。
特に、賃借人が退去時にクリーニング代を負担する特約が裁判で有効と認められた点が重要です。
賃借人が敷金の全額返還を求める一方で、賃貸人は特約に基づく費用の控除を主張し、結果としてクリーニング代と一部の内装工事費を控除した額の支払いが命じられました。
この事例は、賃貸契約時の特約が後々のトラブルにどのように影響するかを示す重要な例として理解できます。
賃貸契約を交わす際には、特約の内容を明確にし、双方が合意の上で契約を結ぶことの重要性が強調されています。
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