消費者契約法10条で敷金返還請求権を訴える!敷金返還を拒む貸主への対策
この記事では、賃貸人と賃借人の間で発生した敷金返還に関する裁判の経緯を解説しています。賃借人は退去後に敷金の返還を求めましたが、賃貸人が修繕費用を理由に拒否したため裁判に至り、最終的に賃借人の主張が認められました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成18年10月1日、賃貸人Yは賃借人Xに本件居室を賃料月額21万8000円、共益費月額2万3000円、期間2年(ただし10か月の仮住まい)で賃貸する契約を結びました。
賃借人Xは敷金として43万6000円を賃貸人Yに支払いました。
また、契約には賃借人が負担する原状回復の詳細が規定されていました。
具体的には、障子・襖・網戸の張替え、畳表替え、ルームクリーニングなどが賃借人の費用負担で行われると明記されていました。
さらに、退去時の通常損耗および経年劣化による修繕費用も賃借人が負担することが規定されていました。
この契約に基づき、Xは居住を開始しました。
- 賃料月額: 21万8000円
- 共益費月額: 2万3000円
- 期間: 2年間(仮住まい期間約10か月)
- 敷金: 43万6000円
- 賃借人の原状回復義務: 障子・襖・網戸の張替え、畳表替え、ルームクリーニング
- 退去時の通常損耗・経年劣化費用負担: 壁、天井、カーペット、日焼けによる変化
トラブルの発端
平成19年4月末、賃借人Xは賃貸人Yに対し、同年5月30日限りで本件賃貸借契約を解約する旨を通知しました。
そして、5月30日にXは本件居室を明け渡しました。
しかし、賃貸人Yは、Xが負担すべき原状回復費用として48万3000円を主張し、そのため敷金の返還を行いませんでした。
これに対し、賃借人Xは敷金の返還を求めて提訴しました。
トラブルの発端は、この原状回復費用の負担に関する双方の意見の相違にありました。
賃貸人Yは契約通りの負担を求めた一方で、賃借人Xはその妥当性を疑問視しました。
- 賃貸人の主張する原状回復費用: 48万3000円
- 賃借人負担の項目: 通常損耗及び経年劣化による修繕費用、障子・襖・網戸・畳等の張替え費用全額
- 特約の有効性に関する問題点: 賃借人が修繕費用負担を具体的に認識できなかった、単価表がなく明確な合意がされていない
裁判および判決
裁判所は、平成21年1月16日に、賃借人Xの主張を認め、敷金43万6000円の返還を命じました。
裁判所は、本件賃貸借契約における原状回復の特約が、通常損耗および経年変化について賃借人に過度な負担を強いるものであり、消費者契約法10条に反し無効であると判断しました。
さらに、契約条項が具体的かつ明確でないため、賃借人がその内容を十分に認識することが困難であったとも指摘しました。
これにより、賃貸人Yが主張した修繕費用は認められず、賃借人Xの請求が認められました。
この判決により、Xは敷金全額の返還を受けることができました。
- 通常損耗補修特約が合意されたとは認められない
- 賃貸借契約の19条5号及び25条2項は賃借人に不利な特約であり、有効ではない
- 仮に特約があったとしても、消費者契約法10条に該当し無効
- 賃借人Xの請求(敷金43万6000円の返還)を認める
まとめ
最も重要な点は、賃貸借契約の内容が具体的かつ明確であることの重要性です。
賃借人Xは、退去後に敷金返還を求めましたが、賃貸人Yが修繕費用を理由に返還を拒否したことで裁判に発展しました。
裁判所は、契約の内容が賃借人に不当な負担を強いていたと判断し、賃借人の主張を認めました。
この事例は、賃貸借契約において賃借人の権利を守るために、契約内容が具体的で明確であること、そして賃貸人が正当な理由なく賃借人に過度な負担を負わせることがないようにすることの重要性を強調しています。
特に高齢者にとって、契約内容を十分に理解し、不当な負担を避けるための知識が大切です。
この判決は、賃貸人と賃借人の間の公平な取引を促進するための重要な前例となりました。
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