賃貸のカビによる退去費用の相場は?

賃貸住宅を退去する際、「カビの発生による清掃・修繕費用」を理由に高額な請求を受けて困惑した経験はありませんか?
多くの入居者は、カビが自分の責任なのか、それとも建物の構造的な問題なのかの判断に迷います。
「カビ除去費用5万円、壁紙交換費用15万円」といった請求を受けて驚いた方も少なくないでしょう。
この記事では、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、カビ被害に関する正しい費用負担の考え方を解説します。
どのような場合に入居者負担となり、どのような場合に大家さん負担となるのか、その境界線と具体的な対処法について理解を深めましょう。
例えば、2年間住んだアパートの浴室にカビが発生した場合、清掃費用や壁紙交換費用は本当に入居者が負担すべきなのでしょうか?

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
カビ被害の責任区分を理解するための基本知識とその法的根拠
賃貸のカビ被害における責任の所在は、「通常の住生活による自然発生」なのか「入居者の換気義務違反や善管注意義務違反による発生」なのかによって判断されます。
建物の構造的問題や自然発生のカビと、入居者の管理不備によるカビでは負担者が異なります。
民法第606条および第621条では、賃借人には「善管注意義務」があり、通常の注意をもって物件を使用・管理する義務があるとされています。
カビについては、適切な換気や清掃を行う義務が含まれます。

- 民法第606条(賃貸人による修繕等)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
- 民法第621条(賃借物の返還等)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の住生活により発生したカビは貸主負担とされています。
しかし、換気を怠った結果生じたカビや、結露を放置したことによるカビは入居者の善管注意義務違反として入居者負担となります。
建物の断熱不良や雨漏りなど構造的問題が原因のカビは貸主負担となりますが、入居者が適切な換気や清掃を怠った場合は入居者負担となります。
カビ除去費用の相場は、軽微なものであれば数万円程度ですが、壁紙交換や専門業者による除去が必要な場合は10万円以上になることもあります。
つまり、賃貸のカビによる退去費用の相場は、カビの発生原因が通常の住生活による自然発生なのか入居者の管理不備によるものなのかで決まり、適切な換気と清掃を行っていれば多くの場合で入居者負担を回避できます。
賃貸でカビが発生した場合の退去費用はどちらが負担する?

貸主が退去費用を負担するケース
賃貸物件の構造的な問題や設備の不備が原因でカビが発生した場合、貸主(大家)が退去費用を負担することになります。
この場合の判断基準は、借主の通常の使用範囲を超えた建物の欠陥や管理不備にあります。
具体的には、換気設備の故障、配管からの水漏れ、外壁の防水性能の劣化、断熱材の不備などが原因となったカビの発生が該当します。
また、入居前から存在していたカビや、適切な管理をしていたにも関わらず発生したカビについても貸主負担となります。
借主は入居時の状況を写真で記録し、適切な換気や清掃を行っていたことを証明できる資料を保管しておくことが重要です。
国土交通省のガイドラインでも、通常の使用による劣化は貸主負担と明記されています。
借主が退去費用を負担ケース
借主の生活習慣や管理不備が直接的な原因でカビが発生した場合、退去費用は借主が負担することになります。
これは賃貸借契約における善管注意義務違反と判断されるためです。
代表的なケースとして、長期間の換気不足、水回りの清掃怠慢、結露の放置、洗濯物の室内干しによる過度な湿度上昇などがあります。
特に浴室やキッチンでの水気の処理を怠った場合、周辺の壁紙や床材にカビが発生し、張り替えや補修が必要となります。
また、ペットの尿や汚物の処理不備、観葉植物の過度な水やりによる湿度上昇も借主負担の原因となります。
借主は入居中から適切な換気と清掃を心がけ、異常を発見した際は速やかに管理会社に報告することが責任回避の鍵となります。
カビによる退去費用相場を知るポイントと賃貸借契約書に記載のある注意すべき条項例
賃貸借契約書には、カビに関する責任の所在を明確にする特約条項が記載されていることが多く、これらの内容を事前に確認することが重要です。
契約書の特約事項は法的な効力を持つため、借主は必ず理解しておく必要があります。
よく見られる条項として「借主は適切な換気を行い、カビの発生を防ぐ義務を負う」「結露やカビによる損害は借主の負担とする」「水回り設備の清掃怠慢によるカビは借主責任」などがあります。
また「カビ発見時の速やかな報告義務」「専用部分の湿度管理責任」といった予防的な義務も定められています。
一方で「建物の構造上の欠陥によるカビは貸主負担」「設備故障起因のカビは除外」という貸主責任を明記した条項もあります。
契約前にこれらの条項をしっかりと確認し、不明な点は仲介業者や管理会社に質問して、後のトラブルを防ぐことが大切です。
- カビの原因が建物の構造的問題や設備不備の場合、退去費用は貸主負担となる
- 借主の管理不備や生活習慣が原因のカビは、借主が退去費用を負担する必要がある
- 賃貸借契約書の特約条項にはカビに関する責任分担が明記されているため事前確認が重要
- 「適切な換気義務」「結露・カビ対策責任」などが借主義務として契約書に記載されることが多い
- 契約前に不明な条項について質問し、カビ発生時の責任範囲を明確にしておくことが必要
賃貸でカビが発生した場合の退去費用の相場

部屋の広さによるカビが発生した場合の退去費用の相場
賃貸物件の広さによって、カビ除去や修繕にかかる費用は大きく異なります。
一般的に、広い部屋ほど作業面積が増えるため、費用も比例して高くなる傾向があります。
1Kや1Rの単身者向け物件では、カビ除去と壁紙張り替えで5万円から15万円程度が相場となります。
2DKや2LDKのファミリー向け物件では、affected範囲が広がるため15万円から30万円程度の費用が発生します。
3LDK以上の大型物件では、カビの範囲次第で30万円を超えることも珍しくありません。
ただし、部分的なカビ除去であれば数万円で済む場合もあります。
費用を抑えるためには、カビの早期発見と適切な対処が重要で、症状が軽いうちに専門業者に相談することで大幅な費用削減が可能です。
掃除箇所によるカビが発生した場合の退去費用の相場
カビが発生した箇所によって、必要な修繕内容と費用が大きく変わります。
場所ごとの特性を理解して、適切な対策を講じることが費用抑制につながります。
浴室のカビ除去は比較的軽微で、専門クリーニングであれば2万円から5万円程度で済みます。
しかし、壁紙のカビは張り替えが必要で、6畳程度の部屋で8万円から12万円の費用がかかります。
床材のカビは最も深刻で、フローリングの張り替えが必要な場合は15万円から25万円程度の高額な費用が発生します。
天井のカビは作業の難しさから、6万円から10万円の費用がかかることが多いです。
キッチンや洗面所周辺のカビは、設備の取り外しが必要になることもあり、10万円から20万円の費用が見込まれます。
予防的な定期清掃により、これらの高額な修繕費用を避けることができます。
- カビの原因が建物の構造的問題や設備不備の場合、退去費用は貸主負担となる
- 借主の管理不備や生活習慣が原因のカビは、借主が退去費用を負担する必要がある
- 1K・1Rで5万円〜15万円、2DK・2LDKで15万円〜30万円が退去費用の相場
- 浴室のカビ除去は2万円〜5万円、壁紙張り替えは8万円〜12万円が目安
- 入居時の状況記録と適切な換気・清掃により、高額な退去費用を予防できる
賃貸でカビが発生した場合の退去費用に関するよくある質問
まとめ

この記事では、賃貸でカビが発生した場合の退去費用について、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいて解説してきました。
重要なのは、カビ被害が「建物の構造的問題による発生」なのか「入居者の管理不備による発生」なのかを正確に判断することです。
多くの場合、カビ被害は建物の断熱性能不足や換気設備の問題により発生するため、大家負担となることが一般的です。
また、被害発見時の迅速な対応や専門業者による原因調査の重要性を理解し、適切な証拠保全を行うことが大切です。
退去費用に関して疑問や不安がある場合は、消費生活センターや住宅紛争処理支援センターなどの専門機関に相談することをお勧めします。
カビ被害は建物の居住性に関わる重要な問題であるため、適切な知識を身につけて公正な費用負担で解決を図りましょう。
