補修費用負担の契約書に明記がない?賃借人の主張が認められたケース
平成10年2月1日、賃借人Xは賃貸人Yと賃貸借契約を結び、敷金を支払いました。契約解約後、敷金の未返還分を巡ってトラブルが発生し、賃借人Xは裁判を起こしました。裁判所は賃貸借契約の内容を精査し、賃借人Xの主張を認め、未返還分の返還を命じる判決を下しました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成10年2月1日、賃借人Xと賃貸人Yは特定優良賃貸住宅に関する賃貸借契約を交わしました。
月額の賃料は11万7900円で、契約時に敷金として35万3700円を賃貸人Yに支払いました。
本契約書の22条2項には、住宅明け渡し時に原状回復義務が定められており、負担区分表に基づいて補修費用を賃貸人Yの指示に従って支払うと記載されています。
賃借人Xはこの内容を理解し、書面で確認を行っています。
- 契約日:平成10年2月1日
- 賃貸物件:特定優良賃貸住宅
- 賃料:月額11万7900円
- 敷金:35万3700円
- 契約書22条2項:住宅引渡し時に原状回復義務と負担区分表に基づく補修費用の負担
トラブルの発端
賃借人Xは平成13年4月30日に賃貸借契約を解約し、住宅を賃貸人Yに返還しました。
その際、賃貸人Yは敷金から通常損耗に対する補修費用として30万2547円を差し引いた残額を返還しました。
しかし賃借人Xは、通常損耗に対する補修費用を負担することに納得できず、未返還分の敷金および遅延損害金を求めて訴訟を提起しました。
このようにして、敷金の返還を巡るトラブルが発端となりました。
- 通常損耗の補修費用:30万2547円
- 補修費用の負担について、契約書や説明会に具体的な明記なし
裁判および判決
裁判所はまず、賃貸借契約の内容に基づき、通常損耗に関する補修費用の負担について検討しました。
賃貸借契約の条項自体には具体的な内容が明記されていないため、賃貸人Yが口頭で説明したかどうかや賃借人Xがその内容を認識していたかが争点となりました。
裁判所は、賃借人Xが通常損耗補修特約を認識し、合意していなかったと判断し、原判決を破棄して差戻しました。
この結果、賃借人Xの主張が認められる形となりました。
- 通常損耗の補修費用を賃借人に負担させるためには、明確な特約が必要
- 契約書や負担区分表には通常損耗補修特約の具体的明記なし
- 賃貸人による口頭説明もなし
- 賃借人の請求を棄却した控訴審判決を破棄し、原審に差戻し
まとめ
この事例では、賃借人Xが賃貸人Yとの賃貸借契約を結び、敷金を支払いましたが、契約解約後に通常損耗に関する補修費用を巡ってトラブルが発生しました。
賃借人Xは補修費用の負担に納得できず、未返還分の敷金を求めて裁判を起こしました。
裁判所は、賃貸借契約の内容や賃貸人Yの説明が不十分であり、通常損耗補修特約が明確に合意されていなかったと判断し、賃借人Xの主張を認めました。
最も重要な点は、契約内容が明確でない場合、賃借人が予期しない負担を強いられることがないよう、契約時に明確な説明と合意が必要であるということです。
これにより、賃貸借契約において双方が納得の上で合意することの重要性が改めて確認されました。