損害が認められない場合の退去費用。解約手数料特約が無効とされたケース
平成12年に賃借人Xと賃貸人Yの間で賃貸借契約が締結されましたが、特約条項を巡るトラブルが発生しました。最終的に裁判所は、消費者契約法に基づき解約手数料や原状回復費用の特約は無効と判断し、賃借人Xに負担がないと結論付けました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成12年5月、賃借人Xは賃貸人Yと月額4万1000円の賃貸借契約を結びました。
この契約には、20万円の保証金の差し入れが含まれており、Xはこれを支払いました。
契約書には、契約を解約する場合には2か月分の賃料相当額の解約手数料を支払う特約があり、また物件の汚損や損耗、模様替えなどの費用は賃借人が負担する特約も含まれていました。
この契約は平成14年6月に更新されましたが、その後Xは平成16年4月に解約を申し入れました。
- 賃料: 月額4万1000円
- 保証金: 20万円
- 解約手数料特約: 賃料の2か月相当額を支払う旨の特約
- 原状回復特約: 賃借人が本件物件の汚破損、損耗、附属設備の模様替えその他一切の変更を負担する特約
- 更新: 平成14年6月に契約更新
トラブルの発端
Xが平成16年4月に解約を申し入れた際、賃貸人Yは契約の特約条項に基づき、4万4000円の解約手数料と9万9780円の原状回復費用、さらに3万円の清掃代を保証金から差し引くと通知しました。
これに対し、Xは特約が消費者契約法に反して無効であることや、清掃費用について特に汚損していないことを理由に負担しないと主張し、保証金の返還を求めて提訴しました。
一審でXの主張が認められましたが、Yはこれに不服として控訴し、反訴も行いました。
- 解約手数料: 4万4000円
- 原状回復費用: 9万9780円
- 清掃代: 3万円
裁判および判決
京都地方裁判所は、解約手数料特約について、契約終了後の空室による損失補填を目的とするものであり、契約が解約申入れから45日間継続することを指摘し、中途解約による損害が賃貸人Yに生じるとは認められないため、消費者契約法により無効としました。
また、原状回復特約については、通常の使用による損耗の原状回復費用を賃借人が負担する部分は信義則に反して無効とされました。
以上のことから、清掃費用についても賃借人Xは負担する必要がないとされました。
- 解約手数料特約: 中途解約に伴う違約金条項と解釈され、消費者契約法9条1号により無効とされた
- 原状回復特約: 通常の使用による損耗に対する原状回復費用の賃借人負担部分が消費者契約法10条により無効とされた
- 清掃費用: 通常の使用による損耗を原状回復する義務は賃借人にはないとされた
まとめ
この記事のまとめとして、賃貸借契約の特約条項が消費者契約法によって無効とされた点が最も重要です。
平成12年に賃借人Xと賃貸人Yが契約を交わし、特約により解約手数料や原状回復費用が賃借人に課されました。
しかし、Xが解約を申し入れた際、Yは特約に基づきこれらの費用を保証金から差し引くと通知しました。
これに対しXは、特約が消費者契約法に違反していると主張し裁判を起こしました。
裁判所は契約終了による空室損失の補填や通常の使用による損耗を賃借人に負担させることが信義則に反するため、特約は無効であると判断しました。
この判決により、賃借人Xは特約に基づく負担を免れることができました。
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