敷金返還請求権が無効?不公正な敷引特約と高額な退去費用
平成14年、賃借人Xさんが賃貸人Yさんと賃貸契約を結び、保証金50万円を支払いました。しかし、特約に基づき40万円を差し引かれることに納得できず、平成19年にXさんは返還を求めました。裁判所はこの特約が無効であると判断し、保証金の一部を返還するよう命じました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成14年6月、賃借人Xさんは賃貸人Yさんと賃貸契約を交わし、毎月の賃料10万円で借りることになりました。
この時、Xさんは50万円の保証金を支払いました。
契約書には「解約時には保証金から40万円を差し引く」という特約が記載されていました。
Xさんはその後、平成16年と平成18年に契約を更新し、Yさんと良好な関係を保ちながら生活を送っていました。
このような契約内容と特約の存在が、後にトラブルの火種となるとは、誰も予想していませんでした。
- 平成14年6月に月額賃料10万円で賃貸借契約を締結
- 保証金50万円を差入れ
- 保証金解約引として40万円を保証金から差引く特約が付されている
- 契約は平成16年と18年に更新され、平成19年3月31日に物件を明け渡す
トラブルの発端
平成19年3月31日、賃借人Xさんは契約満了に伴い、物件を明け渡しました。
その際、Xさんは保証金50万円の返還を求めましたが、賃貸人Yさんは「解約時には40万円を差し引く」という特約を理由に、保証金の返還を拒否しました。
この対応に対し、Xさんは特約が消費者契約法に違反しているとして、保証金全額の返還を求めることに決めました。
一方、Yさんは消費者契約法が適用されないことや特約が京都の慣習であることを主張し、特約の有効性を訴えました。
こうして、両者の対立が激化し、裁判に至ることになりました。
- 修繕対象箇所: ベランダ、玄関ドアのポスト、浴槽、浴槽のフタ、排水口のチェーン、襖の桟、クッションフロア及びじゅうたん
- 経過年数を考慮して修繕費用を決定
- 入居期間4年10か月を考慮し、修繕費用等は見積額の1割を負担させる
裁判および判決
京都簡易裁判所で行われた裁判では、まず賃貸人Yさんが「事業者」に該当するかが問われました。
裁判所は、Yさんが一つの部屋を貸しているだけでも継続的な賃貸は「事業」にあたると判断しました。
そして、保証金解約引特約について、債務不履行がない場合でも40万円を返還しないのは消費者契約法に反するとして、特約を無効としました。
また、修繕費用についても経過年数を考慮し、自然損耗以外の費用のみを差し引くとしました。
その結果、賃借人Xさんは善管注意義務違反の範囲内で保証金の一部を差し引かれ、残額が返還されることになりました。
- 賃貸人が所有不動産を継続して賃貸することは「事業」にあたる
- 消費者契約法10条に基づき、保証金解約引特約は無効
- 保証金50万円の内、32万177円を返還
- 解約引率8割が京都の慣習と認めるに足りる証拠はない
- 修繕費用等について、賃借人Xの負担は見積額の1割とする
- 賃借人Xの善管注意義務違反により自然損耗以外のものについてのみ保証金から差引きを認める
まとめ
この事例は、賃貸借契約における特約が消費者契約法に違反するかどうかが争われたものです。
賃借人Xさんが契約終了後に保証金の返還を求めた際、賃貸人Yさんは特約に基づき返還を拒否しました。
しかし、裁判所は消費者の権利を保護し、特約が無効であると判断しました。
この判決は、賃貸借契約において不公正な特約が消費者に対して不利に働くことを防ぐ重要な一例となりました。
結果として、Xさんは保証金の一部を取り戻すことができました。
この事例を通じて、契約内容を十分に理解し、消費者としての権利を守ることの重要性が強調されています。
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