消費者契約法で無効とされた敷引特約。退去費用への影響とその相場
賃借人Xは平成14年7月に賃貸人Yと契約を結び、敷金40万円を支払いましたが、退去時の敷引特約が消費者契約法に違反していると主張し、裁判所はその特約を無効と判断しました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成14年7月、賃借人Xと賃貸人Yは、月額4万5000円の賃料で賃貸借契約を交わし、賃借人Xは敷金として40万円を支払いました。
この契約書には、賃借人が退去する際、敷金から20万円を差し引いて返還する特約が記載されていました。
賃貸借契約はこの特約に基づいて行われ、賃借人Xは約束通りの賃料を支払い、契約通りの住環境を享受していました。
しかし、この特約が後にトラブルの原因となるのです。
- 契約締結: 平成14年7月
- 月額賃料: 4万5000円
- 敷金: 40万円
- 特約: 明け渡しの1か月後に20万円を差引いて返還する
トラブルの発端
賃借人Xは平成17年8月15日に物件を退去しましたが、その際に敷引特約に基づいて敷金から20万円が差し引かれたため、返還金額が少なくなりました。
これに対し、賃借人Xはこの特約が消費者契約法に違反し無効であると主張し、敷金から物件の毀損部分を差し引いた39万8425円の返還を求めました。
一方、賃貸人Yは物件の原状回復費用が敷金以上にかかったとして、賃借人Xに対し46万8745円の損害賠償を反訴請求しました。このようにしてトラブルが発端しました。
- 賃借人Xの請求: 敷金40万円から毀損部分を差し引いた39万8425円の返還
- 賃貸人Yの反訴: 敷金以上の原状回復費用を要し、その費用相当額から敷金を控除した46万8745円の損害賠償請求
裁判および判決
裁判所は敷引特約が消費者契約法に反して無効であると判断しました。
賃貸借契約において賃借人に二重の負担を課すことになり、消費者である賃借人の権利を制限するものとされました。
そのため、敷金の一部返還が認められ、賃貸人Yの損害賠償請求は棄却されました。
ただし、賃借人Xの通常の使用を超える損傷部分については、敷金から13万735円が差し引かれることが認められました。
この判決により、賃借人Xは最終的に敷金の一部を取り戻すことができたのです。
- 敷引特約: 賃借人の権利を制限し、消費者契約法10条に違反し無効
- 損害賠償請求: 賃借人Xの通常の使用を超える部分について敷金から13万735円(消費税別)を差し引くことを認める
- 判決結果: 賃借人Xに敷金の一部返還、賃貸人Yの反訴請求は棄却
まとめ
平成14年に賃貸借契約を結んだ賃借人Xは、敷引特約に基づき退去時に敷金から20万円が差し引かれることに異議を唱え、消費者契約法に反する旨を主張しました。
裁判所はこの特約が賃借人に二重の負担を課し、消費者の権利を侵害するものであると判断し、無効としました。
最も重要な点は、敷引特約が消費者契約法に基づき無効とされたことで、賃借人Xは敷金の一部を取り戻すことができたことです。
この事例は、消費者としての権利を守るために契約内容をしっかり理解し、不当な特約に対して声を上げることの重要性を示しています。