【賃貸アパートの退去費用】広さ・間取り別の原状回復費用の相場は?

賃貸アパートの退去費用は間取りや築年数によって大きく変動します。
最も重要なのは法的根拠に基づいた適正な負担区分の理解でしょう。
また、アパートは構造上マンションと異なる特徴があり、相場にも違いが生じます。
さらに、国土交通省ガイドラインの正しい理解により、不当な請求を回避できるのです。
そこで本記事では、賃貸アパートの間取り別退去費用相場と法的根拠に基づいた適正負担について詳しく解説いたします。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
アパート退去費用の法的根拠と建物特性
アパートの退去費用は民法と国土交通省ガイドラインに基づき決定されますが、建物構造により相場が異なります。
ここではアパート特有の建物特性と、それに伴う法的ポイントについて詳しく解説していきます。
民法による原状回復義務とアパートの特徴
アパートでも民法第621条による原状回復義務が適用されますが、建物構造の違いにより修繕費用相場が変動します。
特に木造アパートでは遮音性や耐久性がマンションと異なるため、損耗の判断基準に注意が必要なのです。

- 民法第621条(賃借物の返還等)
- 賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷を原状回復する義務
- 通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗は除外
- アパート特有の建物構造による影響
- 木造・軽量鉄骨造が主流で材料費が比較的安価
- 築年数が古い物件が多く経年劣化の影響大
- 民法第622条の2(敷金)
- 通常損耗については敷金からの控除は認められない
- 建物構造による耐用年数の違いを考慮

アパートでは建物構造の特性を理解することが適正負担の判断に重要です。木造アパートの場合、フローリングの耐用年数は22年、軽量鉄骨造では27年となり、これが減価償却計算に影響します。また、築年数が古いアパートでは経年劣化による損耗が大きいため、通常損耗の範囲も広く解釈される傾向があります。退去時の負担判断では、建物の築年数と構造を必ず確認してください。
アパート特有の設備と負担区分
次に、アパート特有の設備面での負担区分について詳しく確認しましょう。
- 入居者負担となる項目
- 故意・過失による床材・壁材の損傷
- タバコによる変色・臭いの除去
- ペットによる傷・臭いの修繕
- 手入れ不足によるカビ・汚れ
- 貸主負担となる項目
- 日照による畳・クロスの変色
- 家具設置による床のへこみ
- 画鋲・ピンの小さな穴
- 設備の老朽化による故障
- アパート特有の注意点
- 遮音性が低いため騒音トラブルが起きやすい
- 換気性能が劣る場合があり結露・カビが発生しやすい
- 設備が簡素で修繕費用が比較的安価



アパートでは建物の構造的特徴により、通常損耗の範囲が広く解釈される場合があります。特に木造アパートでは湿気による影響を受けやすく、適切な換気を行っていてもカビが発生することがあるため、必ずしも入居者の過失とは限りません。退去時の立会いでは、建物の構造的な問題と入居者の管理責任を明確に区分し、不当な負担を避けるよう注意してください。設備の老朽化による故障は確実に貸主負担となります。
間取り別退去費用の相場とアパート特性
アパートの退去費用相場はマンションより安価な傾向にありますが、築年数や管理状況により変動します。
重要なのは間取りごとの適正相場を把握し、過大請求を見抜くことでしょう。
ワンルーム・1K(15~25㎡)アパートの退去費用
ワンルーム・1Kアパートの退去費用相場は1.5万円~6万円程度で、マンションより安価な傾向があります。
- ハウスクリーニング費用
- 相場:12,000円~20,000円
- 法的根拠:契約書の特約事項による
- アパート特性:設備が簡素で作業時間短縮
- クロス張替え(故意・過失分のみ)
- 相場:1㎡あたり700円~1,000円
- 法的根拠:故意・過失による損傷のみ入居者負担
- アパート特性:材料費がマンションより安価
- 床材修繕
- 相場:畳1枚2,500円~4,000円、フローリング1㎡1,500円~2,500円
- 法的根拠:明らかな損傷部分のみ
- アパート特性:築年数による減価償却が大きく影響



ワンルーム・1Kアパートでは築年数が退去費用に大きく影響するため、必ず建築年を確認してください。築20年以上の木造アパートでは、フローリング等の減価償却がほぼ完了しているため、故意・過失による損傷があっても入居者負担は最小限となります。ハウスクリーニング費用についても、設備が簡素なアパートでは作業時間が短く、マンションより安価が適正です。相場を大幅に超える請求には根拠の明示を求めましょう。
1DK・1LDK(25~40㎡)アパートの退去費用
続いて、1DK・1LDKアパートの退去費用相場について詳細に確認していきましょう。
- ハウスクリーニング費用
- 相場:20,000円~35,000円
- キッチン・浴室の簡易設備による費用減
- 法的根拠:特約による入居者負担のみ
- 設備関連費用
- エアコンクリーニング:6,000円~10,000円
- 換気扇クリーニング:2,000円~4,000円
- 法的根拠:故意・過失による損傷のみ
- 鍵交換費用
- 相場:8,000円~15,000円
- 法的根拠:防犯上の理由による貸主負担が原則
- アパート特性:シンプルな鍵システムで費用安価



1DK・1LDKアパートでは設備がマンションより簡素なため、清掃・修繕費用も相応に安価であることが適正です。特にキッチンや浴室がユニット式の場合、清掃作業が簡易化されるため、高額なクリーニング費用は不当である可能性があります。エアコンについても、アパート用の簡易機種では分解清掃が不要な場合が多く、通常清掃の範囲内で対応可能です。設備の実態に応じた適正費用を確認し、過大請求には具体的な根拠を求めてください。
2DK・2LDK以上(40㎡以上)アパートの退去費用
最後に、2DK・2LDK以上の広いアパートでの退去費用相場をご紹介します。
- ハウスクリーニング費用
- 2DK・2LDK:35,000円~60,000円
- 3DK・3LDK:50,000円~80,000円
- 法的根拠:契約書の特約事項による
- 床材・壁材の修繕
- フローリング:1㎡あたり1,500円~3,000円
- クロス:1㎡あたり700円~1,200円
- 法的根拠:故意・過失による損傷部分のみ
- 設備関連費用
- 複数エアコンクリーニング:15,000円~30,000円
- キッチン・浴室設備:10,000円~20,000円
- 法的根拠:通常使用を超える損傷のみ



広いアパートでは部屋数が多い分、各部屋の築年数と使用状況を個別に確認することが重要です。アパートの場合、全面張替えが必要でも材料費・工賃がマンションより安価なため、請求額もそれに見合った金額であることを確認してください。特に築年数が古いアパートでは、経年劣化による価値減少が大きいため、減価償却計算により入居者負担が大幅に軽減される場合があります。複数業者の見積もりを求め、相場との比較検討を必ず行いましょう。
アパート特有の交渉ポイントと費用削減術
アパートの退去費用交渉では、建物特性を活かした法的根拠を示すことで効果的な費用削減が可能です。
重要なのはアパート特有の構造的特徴と築年数を考慮した適正負担額の算出でしょう。
築年数による減価償却の効果的活用
アパートでは築年数が古い物件が多いため、減価償却による負担軽減効果が特に大きくなります。
- 木造アパートの減価償却年数
- 建物本体:22年
- クロス・カーペット:6年
- フローリング:建物に準じて22年
- 軽量鉄骨造アパートの減価償却年数
- 建物本体:27年
- 内装材:建物構造に応じて設定
- 設備機器:個別耐用年数適用
- 築年数別負担軽減例
- 築10年:フローリング価値約55%残存
- 築15年:フローリング価値約32%残存
- 築20年以上:フローリング価値ほぼゼロ



築年数の古いアパートでは減価償却による負担軽減効果が絶大で、適正に計算すれば入居者負担が1円になることも珍しくありません。特に築20年を超える木造アパートでは、フローリングの残存価値がほぼゼロのため、故意・過失による損傷があっても材料費のみの負担となります。管理会社が減価償却を適用していない場合は、建築年と構造を確認し、国土交通省ガイドラインに基づく適正計算を強く求めてください。これだけで数万円の負担軽減が可能です。
アパート特性を活かした交渉戦略
次に、アパート特有の建物特性を活かした具体的な交渉方法をご紹介します。
- 建物構造による材料費の違いを指摘
- アパート用の安価な材料使用の確認
- マンション相場との比較資料提示
- 複数業者からの見積もり取得
- 経年劣化による影響の主張
- 築年数に応じた通常損耗の範囲拡大
- 建物の構造的問題による損傷の区別
- 入居時写真との比較による証明
- 設備の簡素性を根拠とした費用妥当性の検証
- クリーニング作業の簡易性指摘
- 設備交換費用の適正性確認
- 工期短縮による人件費削減要求



アパート特有の特徴を活かした交渉では、建物の実態に即した適正費用を主張することが重要です。特に「マンション仕様の高額請求をアパートに適用する」不当性を具体的に指摘することで、大幅な費用削減が期待できます。管理会社に対しては、アパートの建物仕様・使用材料・設備内容を詳細に確認し、それに見合った適正価格での修繕を求めてください。感情的にならず、客観的な根拠に基づいた冷静な交渉が成功の鍵となります。
トラブル発生時の段階的対処法
アパートの退去費用トラブルでは、建物特性を踏まえた段階的なアプローチが効果的です。
重要なのは各段階で適切な根拠を示し、相手方との建設的な解決を図ることでしょう。
アパート管理の実態確認
- 建物の築年数・構造の正確な把握
- 過去の修繕履歴・管理状況の確認
- 類似物件での修繕費用相場の調査
- 請求内容の詳細分析と法的根拠の検証



アパートでは建物の実態調査が交渉の成否を左右するため、まず正確な情報収集を行ってください。築年数は登記事項証明書で確認し、建物構造は現地確認または重要事項説明書で把握できます。過去の修繕履歴は管理会社に開示を求め、必要に応じて近隣のアパートオーナーや不動産業者からも相場情報を収集しましょう。この段階での情報収集が後の交渉で決定的な武器となります。
書面による具体的反論
- 減価償却計算による適正負担額の再算出
- アパート特性による費用妥当性の検証
- 国土交通省ガイドラインの該当条項引用
- 複数業者見積もりによる相場比較資料の添付



書面による反論では、アパート特有の根拠を明確に示すことが重要です。特に築年数による減価償却計算は具体的な数値で示し、「築○年のため残存価値は○%、適正負担額は○円」と明確に記載してください。また、アパートの建物仕様に応じた適正単価を近隣相場と比較して提示し、過大請求の不当性を客観的に証明しましょう。書面は内容証明郵便で送付し、法的効力を高めることをお勧めします。
専門機関・公的窓口の活用
最後に、管理会社との直接交渉で解決しない場合の相談先をご紹介します。
- 消費生活センター
アパート退去費用の専門相談
事業者との仲介・調整
類似事例に基づくアドバイス - 自治体の住宅相談窓口
賃貸住宅トラブルの専門対応
法的手続きの詳細案内
地域の相場情報提供 - 不動産業界団体の相談窓口
業界標準に基づく判断
管理会社への指導要請
調停・仲裁制度の活用



専門機関への相談時は、アパートの建物特性と請求内容の不当性を具体的に説明できるよう準備してください。消費生活センターでは同種のトラブル事例を多数扱っているため、アパート特有の問題についても適切なアドバイスが期待できます。相談前に建物の写真・契約書・請求書・交渉記録を整理し、時系列で問題点をまとめておくと効率的な相談が可能です。必要に応じて複数の機関に相談し、多角的な解決策を検討しましょう。
アパート退去時のトラブル予防策
アパートでは建物特性を踏まえた予防策により、退去時のトラブルを効果的に防ぐことができます。
重要なのは入居時からアパート特有のリスクを理解し、適切な対策を講じることでしょう。
入居時のアパート特性確認事項
まず、アパート入居時に確認すべき重要事項について詳しく解説します。
- 建物の構造・築年数の正確な把握
- 木造・軽量鉄骨造等の構造確認
- 建築年月日の登記情報での確認
- 過去の大規模修繕履歴の確認
- 建物の現在価値の推定
- 経年劣化箇所の詳細記録
- 既存の傷・汚れの写真撮影
- 設備の動作不良・劣化状況
- カビ・結露の発生箇所
- 管理会社との確認書面作成
- 契約書の特約条項の詳細確認
- 原状回復の範囲と負担区分
- ハウスクリーニング費用の取扱い
- 修繕費用の単価・計算方法
- 禁止事項・制限事項の内容



アパートでは築年数が退去費用に決定的な影響を与えるため、入居時の建物調査は特に重要です。築年数の古いアパートほど経年劣化による通常損耗の範囲が広がり、入居者の負担範囲が狭くなります。入居時写真は必ず日付を写し込み、管理会社立会いのもとで撮影してください。また、既存の損傷について「築年数相応の経年劣化」として書面で確認を取ることで、退去時のトラブルを大幅に削減できます。
居住中のアパート特性に応じた管理
- 木造アパート特有の注意事項
- 湿気対策による結露・カビ予防
- 床材への水分浸透防止
- 騒音配慮による近隣トラブル回避
- 定期的な換気・清掃の実施
- 設備トラブル時の適切な対応
- 故障・不具合の速やかな報告
- 修繕前後の状況記録
- 老朽化による故障の区別
- 管理会社との対応記録保持
- 退去準備の計画的実施
- 原状回復範囲の事前確認
- 建物特性に応じた清掃計画
- 修繕が必要な箇所の洗い出し
- 適正負担額の事前計算



アパートでは建物の構造的特徴により、管理上の注意点が異なります。特に木造アパートでは湿気による影響を受けやすいため、適切な換気を心がけても発生するカビ・結露は建物の構造的問題として扱われる場合があります。設備の故障時は必ず管理会社に書面で報告し、老朽化による自然故障と入居者の過失による故障を明確に区別してもらってください。退去時の負担を最小限に抑えるため、日頃から建物の特性を理解した適切な管理を心がけましょう。
- 築20年木造1DKアパートの実例
- 当初請求:フローリング全面張替え8万円
- 減価償却適用後:入居者負担約1万円
- 交渉結果:7万円の負担軽減
- ポイント:築年数による価値減少を具体的に主張
- よくある不当請求パターン
- マンション相場をアパートに適用
- 減価償却を考慮しない全額請求
- 経年劣化を入居者負担とする誤認
- 建物特性を無視した画一的請求
- 効果的な対抗策
- 築年数・構造に基づく適正計算
- 近隣アパートの相場調査
- 複数業者からの見積もり取得
- 法的根拠を明示した書面反論



アパートの退去費用トラブルでは、建物の実態に即した適正負担の主張が最も効果的です。築年数の古いアパートほど減価償却による負担軽減効果が大きく、適正に計算すれば大幅な費用削減が可能です。管理会社の画一的な請求に対しては、建物特性・築年数・使用材料等の具体的根拠を示して反論してください。冷静かつ論理的な対応により、法的に正当な権利を確実に守ることができます。
まとめ


本記事で解説したアパート特有の相場と法的ポイントを活用することで、適正な退去費用での退去が実現できます。
まず、重要なポイントを再確認し、実際の退去時に効果的に活用してください。
アパートでは築年数による減価償却効果が特に大きく、適正計算により大幅な負担軽減が可能なのです。
また、建物構造による材料費・工賃の違いを理解することで、過大請求を見抜くことができるでしょう。
さらに、間取り別の相場把握により、請求額の妥当性を客観的に判断できます。
一方で、不当な請求に対してはアパート特性を根拠とした具体的反論が効果的でしょう。
そのため、入居時からの適切な記録管理と建物特性の理解により、トラブルを予防することが最も重要なのです。
最後に、困った際は専門機関への相談を活用し、アパート特有の問題について適切な解決を図りましょう。
- 築年数による減価償却効果の活用
- アパート特性に應じた適正相場の把握
- 建物構造による費用差の理解
- 入居時記録による予防対策
- 法的根拠に基づく効果的交渉
- 専門機関の積極的活用

