耐用年数を超えた製品一覧!賃貸に10年以上住んだ場合の退去費用相場は?

賃貸住宅に長期間住んだ後の退去時、「エアコン交換費用15万円、クロス張替え費用30万円」といった高額な請求を受けて驚いた経験はありませんか?
10年以上同じ物件に居住していた場合、設備や内装材の多くが法定耐用年数を超えており、本来は大家負担となるべき費用を請求されるケースが後を絶ちません。
しかし、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、耐用年数を超えた設備について明確な基準が示されています。
この記事では、長期居住した賃貸の退去時に発生する費用負担の正しい考え方と、耐用年数を超えた製品の具体的な取り扱いについて詳しく解説します。
適切な知識を身につけることで、不当な退去費用請求を回避し、公正な費用負担で退去手続きを進めることができるでしょう。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
耐用年数による費用負担の基本的な考え方とその法的根拠
10年以上の長期入居における退去費用の責任の所在は、各設備の「耐用年数」を基準として、「経年劣化による価値の減少」なのか「入居者の故意・過失による損傷」なのかによって判断されます。
民法第606条および第621条では、賃借人には「善管注意義務」があり、通常の注意をもって物件を使用する義務がある一方、賃貸人には通常の使用による損耗の修繕義務があるとされています。

- 民法第606条(賃貸人による修繕等)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
- 民法第621条(賃借物の返還等)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、設備ごとに具体的な耐用年数が定められており、10年以上の入居では多くの設備が耐用年数を超過します。
壁紙・カーペット(6年)、エアコン(6年)、給湯器(6年)などは既に耐用年数を超えており、入居者負担はゼロまたは大幅に減額されます。
一方、フローリングは経年劣化を考慮せず、設備の故障による交換は入居期間に関わらず貸主負担となります。
つまり、賃貸に10年以上住んだ場合の退去費用相場は、耐用年数を超えた製品が多数存在するため、通常の使用による損耗については大幅に軽減され、故意・過失による損傷のみが入居者負担となる仕組みです。
賃貸に10年以上住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
賃貸を10年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
10年間居住した物件では、ほとんどの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、10年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約167-200% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約125-167% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約67-125% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-33% |
エアコン | 8〜10年 | 約100-125% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約83-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-17% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約83-125% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-17% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約67-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-33% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約50-67% | 市場価格の約33-50% |
この表から明らかなように、壁紙、畳、ふすま・障子、クッションフロアなどの内装材はすべて耐用年数を大幅に超過しており、原則として借主負担はゼロとなります。
また、エアコン、給湯器、キッチン設備などの主要設備も耐用年数に達しているか超過している状態です。
このため、通常の使用による劣化については貸主負担となり、退去費用の相場は最小限に抑えられる可能性が高いでしょう。
退去時の清掃費と、明らかな故意・過失による損傷がない限り、追加費用は発生しにくい状況と言えます。
退去費用の相場としては、清掃費のみの場合で約3〜5万円程度と予想されます。
賃貸を15年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
15年間居住した物件でも、すべての内装材と多くの設備が耐用年数を大幅に超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、15年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約250-300% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約188-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約100-188% (超過済み) | 市場価格の約0% |
エアコン | 8〜10年 | 約150-188% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約125-150% (超過済み) | 市場価格の約0% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約125-188% (超過済み) | 市場価格の約0% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約100-150% (超過済み) | 市場価格の約0% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約75-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-25% |
この表から明らかなように、壁紙、畳、ふすま・障子、クッションフロアなどの内装材は耐用年数の2倍以上経過しており、借主負担はゼロです。
さらに、エアコン、給湯器、キッチン設備に加え、トイレ設備、便器・浴槽までも耐用年数に達しているか、非常に近い状態です。
多くの場合、これらの設備は耐用年数をすでに過ぎており、通常使用による経年劣化と判断されるでしょう。
つまり、原状回復義務の範囲はかなり限定され、特別な損傷がない限り、退去費用は主に基本清掃費(約3〜5万円)程度に留まる可能性が高いです。
場合によっては、長期入居者への配慮として清掃費の減額や免除が行われることもあります。
賃貸を20年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
20年間居住した物件でも、ほぼすべての設備と内装材が耐用年数を大幅に超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、20年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約333-400% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約250-333% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約133-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
エアコン | 8〜10年 | 約200-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約167-200% (超過済み) | 市場価格の約0% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約167-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約133-200% (超過済み) | 市場価格の約0% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約100-133% (超過済み) | 市場価格の約0% |
内装材はもちろん、エアコン、給湯器、キッチン設備などの主要設備も耐用年数の2倍以上経過しています。
さらに、トイレ設備、便器・浴槽なども耐用年数を超過しており、配管や電気設備(15〜20年)も更新時期を迎えています。
20年という長期間の居住後は、物件全体がリノベーションや大規模修繕を必要とする状態になっていることが一般的です。
このため、通常の使用による劣化については完全に貸主負担となり、借主の原状回復義務はほとんど発生しません。
特別に故意または重過失による破損がない限り、退去費用は基本清掃費のみ(約3〜5万円)となるケースが多いでしょう。
むしろ、多くの家主は長期入居者に対して感謝の意を表し、清掃費を免除するケースも少なくありません。
賃貸を25年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
25年間居住した物件では、物件内のあらゆる設備や内装材が耐用年数を大幅に超過し、建物自体の法定耐用年数(木造で22年、鉄筋コンクリート造で47年)に近づいているか超えています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、25年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約417-500% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約313-417% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約167-313% (超過済み) | 市場価格の約0% |
エアコン | 8〜10年 | 約250-313% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約208-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約208-313% (超過済み) | 市場価格の約0% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約167-250% (超過済み) | 市場価格の約0% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約125-167% (超過済み) | 市場価格の約0% |
この表から明らかなように、すべての内装材と設備は通常であれば数回の交換サイクルを経ているはずの期間です。
キッチン、浴室、トイレなどの水回り設備は多くの場合、機能的な問題を抱えている可能性が高く、配管や電気設備も更新が必要な状態です。
こうした状況では、次の入居者のために物件は全面的なリフォームが必要となるため、借主の原状回復義務はほぼ皆無と言えます。
退去費用は基本清掃費(約3〜5万円)も免除されるケースが多く、特別な事情がない限り、追加費用の請求はないと考えられます。
むしろ、25年もの長期入居に対して、家主から謝意が示されることもあるでしょう。
賃貸を30年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
30年間居住した物件では、建物自体が木造であれば法定耐用年数(22年)を大幅に超過し、鉄筋コンクリート造であっても法定耐用年数(47年)の半分以上が経過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、30年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約500-600% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約375-500% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約200-375% (超過済み) | 市場価格の約0% |
エアコン | 8〜10年 | 約300-375% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約250-300% (超過済み) | 市場価格の約0% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約250-375% (超過済み) | 市場価格の約0% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約200-300% (超過済み) | 市場価格の約0% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約150-200% (超過済み) | 市場価格の約0% |
この表から明らかなように、この期間中、通常であれば内装材は約5回、主要設備は3回程度の交換サイクルを経ているはずです。
30年という超長期の居住期間後は、物件はほぼ確実に全面的な改修か建て替えが検討される状態にあります。
このような状況では、退去時の原状回復という概念自体があまり意味をなさず、借主への費用請求は基本的に発生しないと考えるべきです。
むしろ、30年もの間安定した賃料収入をもたらした借主に対して感謝の意が示され、敷金は全額返還されることが一般的でしょう。
清掃費についても免除されるケースがほとんどで、退去費用は実質ゼロとなる可能性が高いです。
賃貸に10年以上住んだ場合の退去費用相場を知るポイントと賃貸借契約書に記載のある注意すべき条項例
長期居住者の賃貸借契約書には、通常の契約とは異なる特殊な条項が記載されていることがあり、退去時のトラブルを避けるために事前の確認が重要です。
契約書の記載内容によっては、法的な耐用年数に関わらず特別な負担が発生する可能性があります。
特に注意すべきは「特約事項」の記載で、ハウスクリーニング費用の借主負担、畳の表替え費用の借主負担、鍵交換費用の借主負担などが明記されている場合があります。
これらの特約は、合理的な範囲内であれば有効とされるため、契約時の確認が重要です。
また、「原状回復義務」の解釈についても、通常損耗を超える範囲の定義が契約書に詳細に記載されている場合があります。
長期居住による建物の老朽化を理由とした特別な修繕義務や、設備更新費用の一部負担などが規定されている場合もあるため、国土交通省のガイドラインとの整合性を確認し、不合理な条項については専門家に相談することが重要です。
- 10年以上の居住では壁紙や畳の耐用年数を超過し、通常の劣化は貸主負担となる
- 15年を超えると設備類も耐用年数を超過し、経年劣化による交換は貸主負担
- 20年以上の長期居住では借主負担項目は極めて限定的になり、退去費用は大幅に軽減される
- 契約書の特約事項は法的な耐用年数に関わらず有効な場合があるため事前確認が重要
- 減価償却により長期居住者の実際の負担額は新品時の10%から20%程度に軽減される
長期居住における退去費用に関するよくある質問
まとめ

この記事では、10年以上の長期居住における賃貸の退去費用について、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいて詳しく解説してきました。
最も重要なのは、各設備や内装材の耐用年数を正確に把握し、入居期間との関係を明確にすることです。
長期居住では、エアコン、クロス、給湯器など主要な設備の多くが耐用年数を超過するため、原則として大家負担となることが一般的です。
また、耐用年数を超えた製品については、入居者の故意・過失による損傷がない限り、経年変化として扱われることを理解しておくことが重要です。
退去時に不当な費用請求を受けた場合は、ガイドラインを根拠とした適切な交渉を行い、必要に応じて消費生活センターなどの専門機関に相談しましょう。
適切な知識を身につけることで、公正な費用負担で円滑な退去手続きを進めることができます。
