【賃貸アパートに10~30年】設備・内装材の耐用年数と退去費用相場は?

賃貸アパートに10年以上住む場合、退去費用は大幅に軽減されます。
なぜなら、ほとんどの設備や内装材が法定耐用年数を超過するからです。
また、国土交通省ガイドラインでは、耐用年数を超過した設備の交換費用は入居者負担が原則0円とされています。
つまり、長期居住により退去費用を大幅に抑制できるのです。
そこで本記事では、10年以上の長期居住における設備・内装材の退去費用相場を、法的根拠とともに詳しく解説いたします。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
長期居住における退去費用の法的根拠と制度
長期居住者の退去費用は、国が定めた明確な法的根拠により大幅に軽減されます。
ここでは退去費用を決定する重要な法的制度について、詳しく解説していきます。
国土交通省ガイドラインによる耐用年数制度
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、設備・内装材の耐用年数が明確に定められています。
このガイドラインは法的拘束力はないものの、裁判所や調停機関で広く採用される基準となっているのです。

- 原状回復の定義と範囲
- 入居者が通常の使用を超えて損耗・毀損させた場合のみ修繕義務
- 経年劣化・通常損耗は貸主負担の原則明示
- 耐用年数と残存価値の算定方法
- 設備・内装材ごとの具体的な耐用年数設定
- 残存価値1円まで減価する計算式明示
- 入居者負担軽減の仕組み
- 長期居住により退去費用が大幅減額
- 耐用年数超過時の入居者負担0円原則

国土交通省ガイドラインは賃貸トラブルの解決基準として全国的に活用されています。このガイドラインの耐用年数は、建物や設備の実際の使用可能期間を考慮して設定されており、長期居住者の権利保護に大きな効果を発揮します。退去時にガイドラインを根拠として費用算定を求めることで、適正な退去費用の実現が期待できるでしょう。
民法における賃貸人の修繕義務と負担区分
次に、退去費用の法的基礎となる民法の規定について確認します。
- 民法第606条(賃貸人の修繕義務)
- 賃貸人は目的物の使用に必要な修繕をする義務
- 経年劣化による修繕は原則として賃貸人負担
- 民法第621条(賃借人の原状回復義務)
- 通常損耗及び経年劣化を除く原状回復義務
- 故意・過失による損耗のみが賃借人負担
- 民法第622条の2(敷金返還義務)
- 未払債務控除後の敷金返還義務
- 正当な根拠のない費用控除の禁止



2020年4月の民法改正により、敷金返還義務と原状回復の範囲が明文化されました。特に「通常損耗及び経年劣化を除く」という文言が法律に明記された意義は大きく、長期居住者の権利保護が法的に強化されています。これにより、10年以上居住した入居者は、経年劣化した設備の交換費用を負担する法的義務はないことが明確になったのです。
賃貸に10年以上住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
10年以上の長期居住では、多くの設備が耐用年数を超過し、退去費用が大幅に軽減されます。
ここからは、居住期間別の具体的な退去費用相場を、法的根拠とともに詳しく説明していきましょう。
賃貸を10年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
10年間居住した物件では、ほとんどの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、10年居住時の退去費用相場を示したものです。


設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 10年居住時の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
クロス(壁紙) | 6年 | 耐用年数大幅超過 | 0円(貸主負担) |
カーペット | |||
クッションフロア | |||
畳表 | |||
エアコン | |||
ガスコンロ | |||
インターホン | |||
照明器具 | |||
戸棚・収納 | 8年 | ||
網戸 | |||
シャワー水栓 | 10年 | 耐用年数到達 | 残存価値1円のみ |
洗濯機用防水パン | |||
給湯器 | |||
流し台 | 15年 | 残存価値あり | 新品価格の33% |
洗面台 | |||
換気扇 | |||
便器・便座 | |||
給排水設備 |



10年居住では、内装材のほぼ全てが耐用年数を超過し、入居者の負担は原則0円となります。特に最も費用のかかるクロス貼替えや床材交換が貸主負担となる効果は絶大です。仮に故意による損傷があった場合でも、耐用年数超過分については負担義務がありません。ただし、給排水設備など15年耐用年数の設備については、残存価値に応じた負担が生じる可能性があります。
賃貸を15年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
15年間居住した物件では、すべての内装材と多くの設備が耐用年数を大幅に超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、15年居住時の退去費用相場を示したものです。


設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 15年居住時の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
クロス(壁紙) | 6年 | 耐用年数大幅超過 | 0円(貸主負担) |
カーペット | |||
クッションフロア | |||
畳表 | |||
エアコン | |||
ガスコンロ | |||
インターホン | |||
照明器具 | |||
戸棚・収納 | 8年 | ||
網戸 | |||
シャワー水栓 | 10年 | ||
洗濯機用防水パン | |||
給湯器 | |||
流し台 | 15年 | 耐用年数到達 | 残存価値1円のみ |
洗面台 | |||
換気扇 | |||
便器・便座 | |||
給排水設備 |



15年居住では、賃貸物件内の設備・内装材のほぼ全てが耐用年数を迎え、退去費用は極めて少額となります。最も費用負担の大きい水回り設備(流し台・洗面台・便器等)も耐用年数に到達し、入居者負担は残存価値1円のみです。長期居住者にとって最も費用メリットの大きい時期といえるでしょう。この時期の退去では、通常の清掃費用以外はほとんど負担する必要がありません。
賃貸を20年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
20年間居住した物件では、ほぼすべての設備と内装材が耐用年数を大幅に超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、20年居住時の退去費用相場を示したものです。


設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 20年居住時の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
クロス(壁紙) | 6年 | 耐用年数大幅超過 | 0円(貸主負担) |
カーペット | |||
クッションフロア | |||
畳表 | |||
エアコン | |||
ガスコンロ | |||
インターホン | |||
照明器具 | |||
戸棚・収納 | 8年 | ||
網戸 | |||
シャワー水栓 | 10年 | ||
洗濯機用防水パン | |||
給湯器 | |||
流し台 | 15年 | ||
洗面台 | |||
換気扇 | |||
便器・便座 | |||
給排水設備 |



20年居住では、賃貸物件内の全ての設備・内装材が耐用年数を大幅に超過し、入居者の退去費用負担は原則0円となります。これは長期居住者にとって最も有利な状況で、物件の価値向上に長年貢献した入居者への適正な評価といえます。この時期での退去では、故意による重大な損傷がない限り、設備関連の費用を請求される法的根拠はありません。
賃貸を25年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
25年間居住した物件では、物件内のあらゆる設備や内装材が耐用年数を大幅に超過し、建物自体の法定耐用年数に近づいています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、25年居住時の退去費用相場を示したものです。


設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 25年居住時の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
クロス(壁紙) | 6年 | 耐用年数大幅超過 | 0円(貸主負担) |
カーペット | |||
クッションフロア | |||
畳表 | |||
エアコン | |||
ガスコンロ | |||
インターホン | |||
照明器具 | |||
戸棚・収納 | 8年 | ||
網戸 | |||
シャワー水栓 | 10年 | ||
洗濯機用防水パン | |||
給湯器 | |||
流し台 | 15年 | ||
洗面台 | |||
換気扇 | |||
便器・便座 | |||
給排水設備 |



25年居住では、建物自体が木造の法定耐用年数(22年)を超過し、入居者の退去費用負担はほぼ皆無となります。この段階では、建物の価値維持に長期間貢献した入居者への敬意として、故意による著しい破損以外の費用請求は法的にも道義的にも不適切です。むしろ長期居住への感謝の意を示す貸主が多く、円満な退去が期待できるでしょう。
賃貸を30年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
30年間居住した物件では、建物自体が木造であれば法定耐用年数を大幅に超過し、鉄筋コンクリート造でも法定耐用年数の半分以上が経過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、30年居住時の退去費用相場を示したものです。


設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 30年居住時の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
クロス(壁紙) | 6年 | 耐用年数大幅超過 | 0円(貸主負担) |
カーペット | |||
クッションフロア | |||
畳表 | |||
エアコン | |||
ガスコンロ | |||
インターホン | |||
照明器具 | |||
戸棚・収納 | 8年 | ||
網戸 | |||
シャワー水栓 | 10年 | ||
洗濯機用防水パン | |||
給湯器 | |||
流し台 | 15年 | ||
洗面台 | |||
換気扇 | |||
便器・便座 | |||
給排水設備 |



30年居住は極めて稀なケースで、入居者の退去費用負担は法的にも実質的にも存在しません。この段階では建物全体が老朽化しており、むしろ貸主が感謝を込めて退去時の礼金を支払うケースもあります。30年間の居住は建物価値の維持と地域コミュニティへの貢献という観点から、社会的にも高く評価されるべき行為なのです。
長期居住者の退去費用トラブル予防と対処法
長期居住者であっても、適切な知識と準備なしには不当な退去費用を請求される可能性があります。
そのため、法的根拠に基づいた予防策と対処法を理解することが重要なのです。
退去時の書面による根拠提示の重要性
まず、退去費用の算定において最も重要なのは、書面による法的根拠の提示です。
- 国土交通省ガイドラインの提示
- 該当設備の耐用年数と居住期間の対比表作成
- 耐用年数超過による負担軽減の法的根拠明示
- 民法条項の具体的引用
- 第621条(通常損耗・経年劣化除外)の明記
- 第622条の2(敷金返還義務)の適用
- 居住期間の詳細記録
- 入居年月日と退去年月日の正確な記録
- 居住期間の年数・月数計算書作成



退去時の交渉では、感情論ではなく法的根拠に基づいた客観的な資料提示が極めて重要です。国土交通省ガイドラインは公的な基準として高い説得力を持ちます。また、民法の条項を具体的に引用することで、法的な権利意識を明確に示すことができます。事前に資料を準備し、冷静な話し合いを心がけましょう。
不当な退去費用請求への対処手順
次に、不当な退去費用を請求された場合の具体的な対処手順をご説明します。
書面による異議申立て
- 請求内容の詳細確認と記録
- 国土交通省ガイドラインとの照合作業
- 耐用年数超過による負担軽減要求
- 配達証明付き内容証明郵便での通知



書面による異議申立ては法的効力を持つ重要な手続きです。口頭での申し出では記録が残らず、後の証拠として使用できません。内容証明郵便を使用することで、確実に相手方に意思表示が伝達されたことが証明できます。また、法的な知識に基づいた主張であることを印象付ける効果もあります。
第三者機関への相談
- 消費生活センターでの専門相談
- 自治体の住宅相談窓口利用
- 法テラスでの法的助言取得
- 専門機関による仲裁・調停申請



第三者機関への相談は客観的な判断を得る重要な手段です。消費生活センターは賃貸トラブルの専門知識を持つ相談員が対応し、具体的な解決策を提示してくれます。法テラスでは弁護士による無料相談も利用でき、法的手続きが必要な場合の適切な助言が得られます。早期の相談が解決への近道となります。
法的手続きの検討
最終的に、話し合いや調停で解決しない場合の法的手続きについて説明します。
- 少額訴訟制度の活用
60万円以下の金銭請求
迅速な審理と判決
弁護士不要で本人対応可能 - 民事調停の申立て
裁判所での話し合い解決
調停委員による仲介
合意に基づく柔軟な解決 - 通常訴訟の検討
高額な争いの場合
弁護士委任が推奨
確定判決による最終解決



法的手続きは最終手段ですが、長期居住者の場合は勝訴の可能性が高く、費用対効果も期待できます。少額訴訟では簡易な手続きで迅速な解決が可能です。民事調停は話し合いによる解決を重視するため、関係修復も期待できます。いずれの手続きも、国土交通省ガイドラインと民法の規定が強力な根拠となるでしょう。
長期居住のメリットを活かした交渉術
さらに、長期居住者特有のメリットを活かした効果的な交渉術をご紹介します。
- 建物価値維持への貢献
- 長期間の適切な管理・使用実績
- 近隣住民との良好な関係構築
- 地域コミュニティへの貢献実績
- 建物の安定的な収益確保に貢献
- 法的根拠の圧倒的優位性
- 耐用年数大幅超過による負担軽減
- 経年劣化・通常損耗の明確な除外
- 民法・ガイドラインの明確な支持
- 裁判例による権利保護の実績
- 貸主との信頼関係
- 長期間のトラブルのない居住実績
- 家賃滞納等の問題行為なし
- 物件の丁寧な使用と管理
- 相互の長期的な信頼関係構築



長期居住者は交渉において多くの優位性を持っています。法的根拠の明確さに加え、建物価値維持への貢献や信頼関係の構築は、道義的にも強力な根拠となります。退去時の交渉では、これらの実績を具体的に示すことで、貸主との円滑な合意形成が期待できます。感情的にならず、事実と法的根拠に基づいた建設的な話し合いを心がけましょう。
まとめ


本記事で解説した耐用年数制度を理解することで、長期居住者の退去費用を大幅に軽減できます。
まず、10年以上の居住では多くの設備が耐用年数を超過し、入居者負担が原則0円となることを確認しました。
また、国土交通省ガイドラインと民法の規定により、長期居住者の権利が法的に保護されているのです。
一方で、不当な退去費用を請求された場合は、書面による異議申立てと第三者機関への相談が有効でしょう。
さらに、長期居住者は建物価値維持への貢献という強力な交渉材料を持っているからです。
そのため、法的根拠に基づいた適切な知識により、円満な退去と適正な費用算定が実現できるのです。
最後に、退去時は感情的にならず、客観的な資料に基づいた建設的な話し合いを心がけましょう。
- 10年居住で内装材の退去費用は原則0円
- 15年居住で全設備の退去費用が大幅軽減
- 20年以上居住で退去費用負担はほぼ皆無
- 国土交通省ガイドラインが法的根拠
- 民法による長期居住者の権利保護
- 書面による異議申立てと第三者機関の活用

