退去立会い時の注意点とは?原状回復のガイドラインを用いて解説

賃貸物件を退去する際、多くの人が「退去立会い」という手続きに不安を感じています。
「何を確認すべきか分からない」「後から思わぬ費用を請求されるのでは」という心配は珍しくありません。
実際、賃貸トラブルの約30%が退去時の原状回復に関するものだと言われています。
この記事では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいて、退去立会い時に注意すべきポイントや対処法を解説します。
立会い時の確認事項や会話の進め方など、具体的なアドバイスを通じて、退去時のトラブルを未然に防ぐ方法を学びましょう。
退去立会いとは何か?基本知識を確認しよう

退去立会いとは、賃借人(入居者)が賃貸物件を退去する際に、賃貸人(大家)または管理会社の担当者と一緒に物件の状態を確認する手続きです。
この立会いでは、物件の損耗状態を双方で確認し、原状回復費用の算定基準となる重要な場面です。
民法第621条および第622条に基づき、賃借人は「通常の使用による損耗」(経年劣化)については原状回復義務を負わない一方、故意・過失による損傷については修繕費用を負担する義務があります。
- 退去立会いは任意ではなく、必ず立ち会うことが重要
- 立会い前に自分で部屋の状態を写真撮影しておくこと
- 入居時の「重要事項説明書」や「入居時チェックシート」を用意しておく
- 当日は十分な時間(1〜2時間程度)を確保する
- 指摘された損傷・汚れについて、経年劣化か否かを確認する
退去立会いの法的解釈と権利義務

退去立会いに関する法的解釈は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」に詳しく記載されています。
このガイドラインによれば、「原状回復」とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
重要なのは、民法の一部改正(2020年4月施行)により、原状回復義務の範囲が明文化されたことです。
民法第621条では「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」については、借主は原状回復義務を負わないことが明確に規定されました。
つまり、日常生活で生じる床の摩耗や壁紙の日焼けなどの経年劣化については、借主の負担ではないということです。
退去立会いでトラブルが発生する典型的なケース
退去立会い時に発生しやすいトラブルには、以下のようなケースがあります。

- クリーニング費用の全額請求:退去時のハウスクリーニング費用を全額借主負担とする請求。しかし、ガイドラインでは通常の清掃は賃料に含まれるべきとされています。
- 経年劣化に対する請求:壁紙の日焼けや設備の自然消耗に対する修繕費用の請求。これらは経年変化として貸主負担となります。
- 入居時からある傷・汚れの請求:入居前からあった傷や汚れを退去時に指摘される場合。入居時の状態を証明する写真や書類がないと反論が難しくなります。
- 立会い時と異なる金額の請求:立会い時に説明された金額と、後日送付される請求書の金額が異なるケース。内訳が不明確なことも多く、トラブルの元になります。
- 敷金返還の遅延:法定期間(通常は退去後1ヶ月以内)を超えても敷金が返還されないケース。
国土交通省の調査によれば、原状回復に関する相談のうち約40%がこれらのトラブルに関するものとなっています。
退去立会い時にどう対応する?解決プロセスの流れ
退去立会い時の対応プロセスは以下の通りです。

- 事前準備:入居時の書類確認、部屋の清掃と写真撮影(1週間前〜当日)
- 立会い当日の確認:管理会社担当者と共に物件内を確認(1〜2時間)
- 費用の算定説明:原状回復費用の見積もりの説明を受ける(立会い時)
- 確認書への署名:退去時確認書の内容を確認し署名(必要に応じて留保条件を付ける)
- 敷金精算書の受領:後日、詳細な費用内訳を受け取る(1週間〜1ヶ月)
- 内容の確認と交渉:不当な請求があれば交渉(敷金精算書受領後すぐ)
- 敷金の返還:合意後、敷金から費用を差し引いた金額の返還(〜1ヶ月)
原状回復費用の算定方法は民法第621条および第622条に基づき、賃借人の「通常の使用による損耗」は賃貸人負担、「故意・過失、善管注意義務違反」による損傷は賃借人負担となります。
- 立会い時に指摘された箇所を自分でも写真撮影しておく
- 「経年劣化」と「故意・過失による損傷」の区別を明確に確認する
- 納得できない場合はその場で質問し、必要に応じて「保留」と記載して署名する
- 退去時確認書のコピーを必ず受け取る
- 請求内容に不明点があれば、見積書や内訳書の提示を求める

退去立会いのトラブルをどう予防する?事前対策のポイント

退去立会いでのトラブルを予防するためには、入居時からの準備が重要です。
まず、入居時に部屋の状態を写真や動画で記録しておくことで、退去時に「元々あった傷」との区別が明確になります。
また、入居時のチェックシートには、気になる点をすべて記載しておくことが大切です。
契約書や重要事項説明書に記載されている原状回復に関する条項を確認しておくことも重要です。
特に「通常損耗」と「借主負担」の区分が国土交通省ガイドラインに沿っているかを確認しましょう。
ガイドラインと矛盾する条項は無効となる可能性があります。
退去の意向が決まったら、早めに管理会社に連絡し、退去手続きの流れや必要書類、立会い日程の調整などを行いましょう。
立会い前には部屋をきれいに掃除し、自分で修復できる小さな傷は補修しておくと良いでしょう。
- 入居時の部屋の状態を写真・動画で記録し保存する
- 退去の1〜2ヶ月前に管理会社へ連絡し、必要な手続きを確認する
- 立会い前に部屋を清掃し、目立つゴミや私物をすべて撤去する
- 立会い当日は必要書類(契約書、重要事項説明書、入居時チェックシート)を用意する
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の概要を理解しておく
退去立会いに関するよくある質問はある?Q&A集
まとめ

退去立会いは、原状回復費用の算定に直結する重要な手続きです。
この記事で解説したように、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を理解し、適切に対応することがトラブル防止の鍵となります。
特に重要なのは、入居時からの記録保存、退去前の準備、立会い時の積極的な確認と質問です。
「通常損耗」と「借主負担」の区別を明確にし、不当な請求に対しては根拠を持って交渉することが大切です。
退去時のトラブルで困った場合は、消費者センターや住宅相談窓口など、専門機関に相談することも検討しましょう。
また、状況によっては法律の専門家へ相談することも有効です。
なお、この記事で提供している情報は一般的な解説であり、個々の契約内容や地域の慣行によって異なる場合があります。
個別の事例については、専門家への相談をお勧めします。
退去立会いは不安に感じることも多いですが、適切な知識と準備があれば、スムーズに進めることができます。
この記事が皆さんの退去手続きの参考になれば幸いです。
