賃貸に1~6年間住んだ場合の退去費用相場と耐用年数が超過した製品一覧

賃貸物件からの退去時、居住期間によって異なる費用負担に不安を感じていませんか?多くの方が予想外の請求に驚かされますが、居住年数に応じて借主負担は変わります。
2年の場合は契約更新のタイミングで、多くの設備が耐用年数内ですが、3年では一部設備の借主負担割合が減少し始めます。
4年になると耐用年数を超過する設備も現れ、5年では多くの内装材が耐用年数に近づくか超過し、借主負担が大幅に減少します。
6年以上になると、ほとんどの設備が耐用年数を超え、借主負担が大きく軽減されます。
この記事では、それぞれの居住期間における退去費用の相場や、耐用年数を考慮した設備の負担区分について、法的根拠とともに詳しく解説します。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
退去費用とは何か?原状回復義務の基本を解説

退去費用とは、賃貸物件を退去する際に、物件を借りた当初の状態に戻すための「原状回復費用」のことを指します。
この費用負担については、民法第621条において賃借人の原状回復義務が規定されています。
特に重要なのは、2020年4月に施行された改正民法では「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を原状に回復する義務を負わない」と明確に定められたことです。
つまり、通常の使用による経年変化は借主負担ではなく、貸主負担とされています。
居住期間が長くなるにつれて、設備や内装材の経年変化として認められる範囲が広がり、2年では一部設備のみが対象となるのに対し、5〜6年経過すると多くの設備や内装材が通常使用による経年変化と見なされ、退去時の借主負担が軽減される傾向にあります。
- 退去費用は「原状回復義務」に基づくもので、民法第621条で規定されている
- 通常の使用による経年劣化は貸主負担、借主の故意・過失による損傷は借主負担が原則
- 改正民法(2020年4月施行)により、経年変化部分は借主の原状回復義務から除外された
- 2年の居住期間では、多くの設備はまだ耐用年数内だが、一部の消耗品は耐用年数に近づいている
- 5〜6年経過すると多くの設備や内装材が通常使用による経年変化と見なさる
- 国土交通省のガイドラインでは、経過年数に応じた負担割合の目安が示されている
居住年数で変わる?負担区分の法的な考え方
退去時の原状回復について詳細に定めた指針として、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があります。
このガイドラインでは、原状回復の定義や費用負担の考え方について明確に説明されています。
原状回復の基本的な考え方は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とされています。
重要なのは、通常使用による経年変化については貸主が負担するという原則です。
居住期間の長さによって、退去時の借主負担割合は国土交通省ガイドラインに基づき段階的に減少します。

- 2年居住: 多くの内装材の耐用年数(5〜8年)と比較すると短いため、借主負担割合は比較的高く、壁紙など約75%前後の負担となるケースが多い
- 3年居住: 一部の耐用年数が短い内装材(畳、ふすま等)の耐用年数(5〜6年)に近づき、負担割合が一定程度軽減される
- 4年居住: 畳やふすま・障子などの耐用年数(5〜6年)にさらに近づき、借主負担割合が大幅に減少する傾向にある
- 5年居住: 一部の内装材や設備の耐用年数(5〜6年)に達し、借主負担割合が大幅に減少する
- 6年居住: 多くの内装材や設備の耐用年数に達するか超過するため、退去時の費用負担において借主に有利になることが多い
このガイドラインは法的強制力を持つものではありませんが、裁判例でも参照される重要な指針として広く認知されています。
特に、2020年の民法改正によって、このガイドラインの考え方が法律にも明確に反映されました。
なお、契約書に「特約」として借主に不利な条件が記載されている場合もありますが、消費者契約法などの観点から無効となる可能性もあるため、一概に特約通りの負担が必要とは言えません。
退去費用が請求される典型的なケース
居住年数に関わらず、以下のケースでは借主が費用を負担する必要があります。

- ペットによる損傷:壁・床の傷や臭い(飼育許可の有無に関わらず過度の損傷は借主負担)
- タバコのヤニ:壁・天井の変色(喫煙が認められている場合でも過度の汚損は借主負担)
- 料理による油汚れやカビ:換気不足など日常的な手入れ不足が原因の場合
- 家具移動による損傷:大きな傷やへこみ(通常の使用を超える損傷)
- 水回りの不適切使用:使用方法の誤りによる故障や破損
一方、居住年数の経過に伴い、以下のような経年変化に関しては貸主負担または借主負担が軽減される傾向があります。

- 壁紙:自然な変色や薄い汚れ、ひび割れなど
- フローリング:軽度の摩耗や小さな傷
- 畳:日焼けやへたり
- 襖・障子:自然な破れや変色
- 設備機器:経年劣化による故障
特に居住期間が長くなるほど(4〜6年)、経年変化として認められる範囲が広がり、借主負担が減額または免除される可能性が高まります。
国土交通省のガイドラインによると、賃貸住宅の退去時の原状回復に関する相談は年間数万件にのぼり、そのうち約7割が経年変化の解釈や負担区分に関する内容とされています。
特に中長期居住者の場合、適切な減額が行われていないケースが少なくないとされています。
高額請求されたらどうする?交渉の手順と方法
居住年数に関わらず、住んだ物件で不当に高額な退去費用を請求された場合、以下のステップで対応することをお勧めします。

- 請求内容の詳細確認
- 修繕箇所ごとの費用明細を要求する
- 各項目の金額と理由を確認する
- 写真などの証拠があるか確認する
- 国土交通省ガイドラインとの照合
- 各設備の一般的な耐用年数を確認する
- 居住期間を考慮した負担割合を検証する
- 経年変化と借主責任の区別を明確にする
- 書面による交渉
- 不当と思われる請求について根拠を示して反論する
- ガイドラインの該当部分を引用する
- 経年劣化を考慮した適正な負担額を提案する
- 相談・調停機関の利用
- 消費生活センターへの相談(無料)
- 住宅紛争処理機関(ADR)による調停
- 必要に応じて法的手続き(少額訴訟など)を検討
これらのプロセスは民法第621条の原則(通常使用による経年変化は借主負担ではない)に基づいており、2020年の改正民法施行後は借主の立場が法的に強化されています。
- 居住年数(2年〜6年)に応じて、内装材・設備の借主負担割合は経過年数を考慮して減額される
- 通常使用による摩耗や変色は借主負担が軽減または免除される可能性が高い
- 畳やふすま・障子は耐用年数が短く(5〜6年)、特に4年以上の居住では借主負担が大幅に減額
- 壁紙は耐用年数が6〜8年のため、長期居住(特に6年)では借主負担が最小限(0〜10%程度)
- フローリングの通常使用による摩耗は貸主負担となる可能性が高い
- 請求書の詳細な内訳と写真などの証拠を必ず確認する
- 交渉は感情的にならず、国土交通省ガイドラインを根拠に冷静に行う
- 契約書の特約条項が消費者契約法に反する場合は無効となる可能性がある
退去時のトラブルを防ぐには?事前対策のポイント

退去時のトラブルを未然に防ぐには、入居時から計画的な対応が重要です。
入居時の対策
入居時には、物件の現状を写真や動画で詳細に記録することが大切です。
壁や床の傷、設備の状態など細部までチェックし、日付入りで保存しておきましょう。
また、契約書の原状回復条項を確認し、特約の内容を理解しておくことも重要です。
特に「借主負担」とされている項目が多い場合は、契約前に交渉するか、法的妥当性を確認しておくとよいでしょう。
居住中の対策
居住中は定期的な清掃や換気、水回りの掃除などの基本的なメンテナンスを心がけることが重要です。
日常的なケアが後々の費用負担を軽減します。
また、物件の不具合や設備の故障があれば、早めに管理会社へ連絡することで、経年劣化として記録に残すことができます。
退去時の対策
退去が決まったら、1〜2ヶ月前から準備を始めることをお勧めします。
事前に管理会社へ連絡し、退去時の手続きや注意点を確認しておくと安心です。
また、自分でできる清掃は丁寧に行い、特に水回りや換気扇など汚れやすい場所は入念に掃除しておきましょう。
居住期間に応じて、設備や内装材の経年劣化が認められる可能性があるため、退去時の立会いでは、国土交通省ガイドラインに基づく経年劣化の考え方を理解し、適切に主張することが重要です。
特に長期居住(5〜6年以上)の場合は、多くの設備が耐用年数に近づいているため、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の内容を事前に確認しておくと、不当な請求に対して適切に対応できるでしょう。
- 入居時に物件の状態を写真や動画で詳細に記録する
- 契約書の原状回復条項をよく確認し、不明点は事前に確認する
- 居住中は定期的な清掃と適切なメンテナンスを心がける
- 設備の不具合は発生次第、すぐに管理会社へ連絡する
- 退去前に自分でできる清掃を丁寧に行い、印象を良くする
賃貸を2~6年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
賃貸を2年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
2年間居住した物件では、一部の消耗品が耐用年数に近づいていますが、多くの設備はまだ耐用年数内です。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、2年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約33-40% | 市場価格の約60-67% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約25-33% | 市場価格の約67-75% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約13-25% | 市場価格の約75-87% |
エアコン | 8〜10年 | 約20-25% | 市場価格の約75-80% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約17-20% | 市場価格の約80-83% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約17-25% | 市場価格の約75-83% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約13-20% | 市場価格の約80-87% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約10-13% | 市場価格の約87-90% |
この表から分かるように、2年の耐用年数の状況は、ほとんどの設備や内装材がまだ耐用年数内ですが、通常の使用による経年変化については、経過年数に応じた負担割合が適用されます。
特に消耗品に近い畳やふすま・障子などは、比較的早く劣化が進むため、負担割合が小さくなる傾向があります。
賃貸を3年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
3年間居住した物件では、一部の設備や内装材が耐用年数に近づいているか、短いものは超過している可能性があります。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、3年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 50-60% | 市場価格の40-50% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 38-50% | 市場価格の50-62% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 20-38% | 市場価格の62-80% |
エアコン | 8〜10年 | 30-38% | 市場価格の62-70% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 25-30% | 市場価格の70-75% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 25-38% | 市場価格の62-75% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 20-30% | 市場価格の70-80% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 15-20% | 市場価格の80-85% |
この表から、3年の耐用年数の状況は、畳、ふすま・障子などの内装材が耐用年数の半分以上経過しており、借主負担割合が軽減される可能性があります。
一方、多くの設備はまだ耐用年数の初期段階にあります。
賃貸を4年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
4年間居住した物件では、一部の設備や内装材が耐用年数に近づいたり超過したりしています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、4年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5-6年 | 67-80% | 市場価格の20-33% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6-8年 | 50-67% | 市場価格の33-50% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8-15年 | 27-50% | 市場価格の50-73% |
エアコン | 8-10年 | 40-50% | 市場価格の50-60% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10-12年 | 33-40% | 市場価格の60-67% |
キッチン設備 | 8-12年 | 33-50% | 市場価格の50-67% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10-15年 | 27-40% | 市場価格の60-73% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15-20年 | 20-27% | 市場価格の73-80% |
この表から、4年の耐用年数の状況は、畳、ふすま・障子などの内装材は耐用年数にかなり近づいており、負担割合が大幅に減少する可能性があります。
その他の設備も経過年数に応じた負担割合の減額が適用されるべきです。
賃貸を5年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
5年間居住した物件では、一部の設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、5年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5-6年 | 83-100% (超過可能性あり) | 市場価格の0-17% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6-8年 | 63-83% | 市場価格の17-37% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8-15年 | 33-63% | 市場価格の37-67% |
エアコン | 8-10年 | 50-63% | 市場価格の37-50% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10-12年 | 42-50% | 市場価格の50-58% |
キッチン設備 | 8-12年 | 42-63% | 市場価格の37-58% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10-15年 | 33-50% | 市場価格の50-67% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15-20年 | 25-33% | 市場価格の67-75% |
この表から分かるように、5年の耐用年数の状況は、畳、ふすま・障子などの内装材は耐用年数に達しているか超過しており、原則として借主負担は大幅に減少します。
一方、壁紙やクッションフロアも耐用年数に近づいており、負担割合が減少する傾向にあります。
その他の設備については、まだ耐用年数途中ではあるものの、経過年数に応じた負担割合の減額が考慮されるべきでしょう。
賃貸を6年間住んだ場合の耐用年数の状況と退去費用の相場
6年間居住した物件では、多くの設備や内装材が耐用年数を超過している、あるいは耐用年数に近づいていることが考えられます。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、6年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5-6年 | 100-120% (超過済み) | 市場価格の0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6-8年 | 75-100% | 市場価格の0-25% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8-15年 | 40-75% | 市場価格の25-60% |
エアコン | 8-10年 | 60-75% | 市場価格の25-40% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10-12年 | 50-60% | 市場価格の40-50% |
キッチン設備 | 8-12年 | 50-75% | 市場価格の25-50% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10-15年 | 40-60% | 市場価格の40-60% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15-20年 | 30-40% | 市場価格の60-70% |
この表から分かるように、6年の耐用年数の状況は、壁紙やふすま、畳などの内装材は耐用年数に達しているか超過している可能性が高く、経年劣化として貸主負担となるケースが多いです。
エアコンや給湯器などの設備も耐用年数の60〜75%を経過しており、故障や交換が必要な場合でも借主負担は限定的になります。
よくある疑問にお答えします
まとめ

賃貸物件からの退去時には、居住期間に応じた適切な知識を持つことで不当な費用負担を避けられます。
2年では多くの設備がまだ耐用年数内ですが、経年劣化による負担軽減の可能性があります。
3年になると特に耐用年数が短い内装材で借主負担が減少し、4年では畳やふすまなどが耐用年数に近づき貸主負担割合が増えます。
5年では多くの内装材が耐用年数に達し、6年では壁紙や畳などがほぼ耐用年数に達して、通常使用による劣化の借主負担がゼロか極めて少額になるケースが多くなります。
退去費用の交渉では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を根拠に、経年劣化と借主責任の区別を明確にすることが重要です。
2020年4月施行の改正民法では、通常使用による経年変化は借主の原状回復義務から除外されることが明文化されています。
契約時には原状回復条項をよく確認し、不利な特約は交渉するか法的妥当性を確認しましょう。
入居時・居住中・退去時の適切な対応でトラブルを防ぐことができます。
