【内容証明郵便の書き方を解説】敷金返還請求書のテンプレート付き

敷金返還請求における内容証明郵便は法的効力の高い有効な手段です。
最も確実な方法は法的根拠に基づいた書面作成と配達証明付き送付でしょう。
また、入居者の場合は民法第622条の2に基づく敷金返還請求権を根拠として活用できます。
さらに、トラブル解決では正確な内容証明郵便の書き方と送付手順の理解が重要です。
そこで本記事では、入居者の立場から敷金返還請求における内容証明郵便の書き方と具体的なテンプレートを詳しく解説いたします。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
内容証明郵便制度の法的根拠と効力
内容証明郵便は郵便法に基づく公的な証明制度で、法的証拠力の高い通知手段です。
ここでは内容証明郵便制度の法的根拠と敷金返還請求における活用方法について詳しく解説していきます。
郵便法に基づく内容証明制度
内容証明郵便は郵便法第48条に基づき、差出人が誰にいつどのような内容の文書を送ったかを日本郵便が公的に証明する制度です。
内容証明郵便には通常郵便とは異なる以下の特徴があります。

- 郵便法第48条(内容証明)
- 差出人と受取人の住所氏名の公的証明
- 差出年月日の公的記録
- 文書内容の公的保管と証明
- 郵便法第49条(配達証明)
- 受取人への配達年月日の証明
- 受取人の受領確認書面の保管
- 内容証明規則第2条(作成方法)
- 1行20字以内、1枚26行以内の文字制限
- 同一文書3通作成の義務
- 使用文字の制限規定
したがって、内容証明郵便は法的紛争における重要な証拠書類として活用できるのです。

内容証明郵便は明治時代から続く歴史ある公的制度で、法的証拠力が非常に高い通知手段です。特に敷金返還請求では、大家さんに対する意思表示の証明として決定的な効力を発揮します。配達証明付きで送付することで「いつ・誰に・どのような内容」を通知したかが公的に証明されるため、後の法的手続きでも有力な証拠となります。
敷金返還請求における民法上の根拠
次に、敷金返還請求の法的根拠となる民法の規定について説明します。


- 民法第622条の2(敷金)
- 賃貸借終了時の敷金返還義務
- 未払賃料等の控除後残額返還
- 原状回復費用の適正負担区分
- 民法第621条(原状回復義務)
- 賃借人の通常使用による損耗除外
- 経年変化による劣化の除外
- 民法第166条(消滅時効)
- 敷金返還請求権の5年間の時効
- 賃貸借終了時からの起算



民法第622条の2は2020年の改正で新設された敷金に関する明文規定です。この条文により大家さんの敷金返還義務が法律上明確になり、入居者の権利保護が強化されました。内容証明郵便では必ずこの条文を根拠として明記し、法的義務の履行を求めることが効果的です。また、時効の完成猶予効果もあるため、適切なタイミングでの送付が重要になります。
内容証明郵便の正しい書き方と作成手順
内容証明郵便の書き方には法定の形式があり、規則に従った正確な作成が必要です。
ここからは、敷金返還請求に特化した内容証明郵便の具体的な書き方と作成手順を順番に説明していきましょう。
内容証明郵便の形式要件
内容証明郵便は内容証明規則第2条により厳格な形式要件が定められています。
具体的には、以下の形式要件を満たす必要があります。
- 文字数制限:1行20字以内、1枚26行以内
- 使用可能文字:ひらがな、カタカナ、漢字、数字、英字
- 記号制限:()「」、。・?!のみ使用可能
- 作成部数:同一文書を3通作成
- 訂正方法:削除は二重線、加入は符号で明示
ただし、形式要件を満たさない場合は内容証明として受理されないため注意が必要でしょう。



形式要件の不備は内容証明郵便として受理されない原因となるため、作成前に必ず確認してください。特に文字数カウントは間違いやすく、句読点やスペースも1文字として計算されます。パソコンで作成する場合は文字数カウント機能を活用し、手書きの場合は原稿用紙を使用することをお勧めします。また、印鑑は認印で構いませんが、実印の使用でより権威性が高まります。
敷金返還請求書の基本構成
一方、敷金返還請求書は以下の基本構成に従って作成します。
- 標題
- 「敷金返還請求書」または「通知書」
- 中央揃えで目立つように記載
- 受取人情報
- 大家さんまたは管理会社の正式名称
- 住所の正確な記載
- 差出人情報
- 氏名、住所、電話番号
- 印鑑の押印
- 作成年月日
- 和暦または西暦での正確な記載
- 文書右上への配置



敷金返還請求書の構成は法的効力に直結するため、必要事項の記載漏れがないよう注意してください。特に受取人情報は登記簿謄本等で正確な名称と住所を確認し、差出人情報も現住所を正確に記載することが重要です。作成年月日は内容証明郵便の証明力に関わるため、必ず記載してください。これらの基本情報が不正確だと、せっかくの内容証明郵便の効力が減少してしまいます。
敷金返還請求書の具体的なテンプレート
敷金返還請求書は法的根拠と具体的な要求内容を明確に記載することで効果的な内容証明郵便となります。
重要なのは、感情的にならず法的根拠に基づいた客観的な請求書を作成することで、相手方との円滑な解決を図ることでしょう。
請求書のヘッダー部分
令和○年○月○日
○○○○ 様
(大家さんの氏名または法人名)
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号
敷金返還請求書
差出人
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号
氏名:○○ ○○ 印



ヘッダー部分は内容証明郵便の基本的な証明事項となるため、正確性が最も重要です。受取人の氏名・住所は登記簿謄本や賃貸借契約書で確認し、一字一句間違いのないよう記載してください。差出人情報も現在の住民票上の住所を正確に記載し、氏名は戸籍上の正式な表記を使用しましょう。印鑑は認印で構いませんが、後の法的手続きを考慮すると実印の使用が望ましいです。
賃貸借契約の特定
私は、下記物件について貴殿と賃貸借契約を締結し、令和○年○月○日に契約を終了して物件を明け渡しました。
物件所在地
○○県○○市○○町○丁目○番○号
○○マンション○○号室
契約期間
令和○年○月○日から令和○年○月○日まで
敷金額
金○○万円



契約情報の特定は敷金返還請求の前提となる重要な部分です。物件所在地は住居表示または地番で正確に記載し、マンション等の場合は建物名と部屋番号も明記してください。契約期間と敷金額は賃貸借契約書の記載と完全に一致させることが必要です。明け渡し日も重要な要素のため、鍵の返却日や立会い確認日を正確に記載しましょう。
請求の法的根拠
民法第622条の2により、貴殿には賃貸借終了時の敷金返還義務があります。
また、国土交通省の原状回復ガイドラインによれば、通常使用による損耗及び経年変化については、賃借人に原状回復義務はありません。
しかしながら、明け渡しから○か月が経過した現在も、敷金の返還がなされておりません。



法的根拠の明示は内容証明郵便の核心部分です。民法第622条の2は2020年改正で新設された敷金返還義務の明文規定で、非常に強力な法的根拠となります。国土交通省の原状回復ガイドラインも併せて根拠として示すことで、相手方に対して法的義務の認識を促すことができます。事実関係は客観的に記載し、感情的な表現は避けることが重要です。
返還請求の具体的内容
最後に、具体的な返還請求の内容と期限を明記します。
つきましては、下記の通り敷金の返還を請求いたします。
記
1. 返還請求金額:金○○万円
(敷金○○万円から正当な原状回復費用を控除した残額)
2. 返還期限:本書面到達後2週間以内
3. 返還方法:下記口座への振込
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
口座名義:○○ ○○
4. 期限内に返還がない場合は、法的手続きを検討します。
以上



具体的要求では、金額・期限・方法・措置を明確に記載することが重要です。返還期限は通常2週間程度が適当で、あまり短すぎると相手方の反発を招く可能性があります。口座情報は正確に記載し、振込手数料の負担についても明記しておくと良いでしょう。法的手続きの言及は威圧的にならない程度に抑制的な表現を心がけてください。これにより、相手方に誠実な対応を促すことができます。
内容証明郵便の送付手順と注意事項
内容証明郵便の送付には郵便局での特別な手続きが必要で、配達証明付きでの送付が効果的です。
そのため、適切な送付手順の理解と注意事項の把握により、確実な証明効果を得ることができるのです。
郵便局での送付手続き
まず、内容証明郵便の送付に必要な手続きと持参物について説明します。
- 持参物
- 同一文書3通(差出人・受取人・郵便局保管用)
- 封筒3通(宛先を正確に記載)
- 印鑑(訂正印として使用)
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 手数料
- 内容証明料:440円
- 一般書留料:435円
- 配達証明料:320円
- 基本料金:84円
- 取扱郵便局
- 集配郵便局(本局)のみで取扱い
- 簡易郵便局では取扱い不可



内容証明郵便の送付は集配郵便局(本局)でのみ受付けており、事前の準備が重要です。文書の枚数が多い場合は追加料金が発生するため、簡潔な内容での作成を心がけてください。また、配達証明は内容証明郵便の効力を最大化するため必須のオプションです。手数料は合計1,279円となりますが、法的効果を考慮すると非常に有効な投資といえます。営業時間内に余裕をもって手続きを行いましょう。
送付後の対応と効果的な活用方法
- 配達証明書の受領と保管
- 相手方からの返答期限の管理
- 期限経過後の法的手続き検討
- 内容証明郵便の謄本保管
- 弁護士への相談準備



内容証明郵便送付後の対応が敷金返還の成否を左右します。配達証明書は相手方への到達を公的に証明する重要な書類のため、大切に保管してください。期限内に返答がない場合は、少額訴訟や通常訴訟等の法的手続きを検討する段階となります。この時点で弁護士への相談も視野に入れ、内容証明郵便の謄本と配達証明書を含む全ての書類を整理しておくことが重要です。
- 送付タイミング
- 退去から1か月経過後が一般的
- 大家さんとの任意交渉後も有効
- 時効完成前の送付で時効中断効果
- 年末年始や連休明けの送付は避ける
- 効果的な文書作成
- 感情的表現は避け事実に基づく記載
- 法的根拠の明確な記載
- 具体的な金額と期限の明示
- 今後の法的手続きの示唆
- 送付後の対応準備
- 相手方からの連絡に備えた準備
- 部分返還提案への対応方針決定
- 法的手続きに向けた証拠整理
- 弁護士相談の準備



内容証明郵便は単なる催促ではなく、法的手続きの前段階として位置づけることが重要です。送付タイミングでは相手方に十分な検討時間を与えるため、退去から1か月程度の経過が望ましいとされています。また、相手方からの部分返還提案に対する対応方針も事前に決定しておくことで、スムーズな解決につながります。内容証明郵便の効果は心理的プレッシャーと法的証拠価値の両面にあるため、適切な活用で多くの事案が任意解決に至ります。
トラブル予防のための退去時対策
敷金返還トラブルの多くは退去時の適切な対応により予防することができます。
そのため、入居時からの記録保管と退去時の立会い確認により、不当な敷金控除を防ぐことができるのです。
入居時からの記録保管
まず、敷金返還トラブルを予防するため、入居時から以下の記録保管を行います。
- 入居時の室内状況写真撮影
- 既存の傷や汚れの記録
- 設備の動作確認と記録
- 管理会社との確認書面作成
- 賃貸借契約書の原状回復条項確認



入居時の記録保管は敷金返還の最も重要な証拠となるため、必ず実施してください。特に写真撮影では日時が記録される設定にし、全室を隈なく撮影することが大切です。既存の傷や汚れは管理会社立会いのもとで確認書面を作成し、双方で署名押印することをお勧めします。この記録により退去時の原状回復範囲が明確になり、不当な請求を防ぐことができます。
退去時の立会い確認と対応
- 管理会社との立会い日程調整
- 退去時の室内状況写真撮影
- 原状回復対象箇所の確認と協議
- 立会い確認書への署名時の注意
- 敷金精算書の受領と内容確認



退去時の立会い確認は敷金返還の成否を決める重要な場面です。管理会社が指摘する原状回復対象箇所については、入居時の記録と比較して通常使用による損耗であることを主張してください。立会い確認書への署名は慎重に行い、納得できない内容があれば署名を保留して専門家に相談することをお勧めします。一度署名してしまうと後の変更は困難になるため、十分な検討時間を確保しましょう。
まとめ


本記事で解説した内容証明郵便の書き方を活用することで、敷金返還請求が効果的に行えます。
まず、重要なポイントを再確認し、実際の状況に応じて適切な文書作成を行ってください。
内容証明郵便は法的効力の高い通知手段として非常に有効でしょう。
一方で、形式要件を満たした正確な文書作成と配達証明付き送付が必要なのです。
また、民法第622条の2を根拠とした法的請求では、大家さんに対する強いプレッシャーとなるでしょう。
敷金返還請求書のテンプレートにより、具体的で効果的な請求が可能となるからです。
そのため、送付後は適切な期限管理と法的手続きの準備が重要となるのです。
最後に、予防策として入居時からの記録保管と退去時の慎重な対応により、敷金返還トラブルの多くは防ぐことができるでしょう。
- 内容証明郵便は郵便法に基づく公的証明制度
- 民法第622条の2が敷金返還請求の法的根拠
- 形式要件(1行20字、1枚26行)の厳格な遵守
- 配達証明付き送付による確実な証明効果
- 具体的なテンプレートによる効果的な請求書作成
- 入居時からの記録保管によるトラブル予防

