賃貸の退去トラブルで内容証明郵便を活用する!敷金返還請求を例に行政書士がわかりやすく解説

「敷金が思ったより少なく返ってきた」「原状回復費用が高すぎる」と感じたことはありませんか?
賃貸物件を退去する際、敷金返還を巡るトラブルは非常に多く発生しています。
特に、「畳の張り替え費用全額を請求された」「10年以上住んでいたのに壁紙の張替え費用をすべて負担させられた」など、納得できない請求に困惑している方も少なくありません。
この記事では、敷金返還トラブルが発生した際に有効な「内容証明郵便」を活用した解決方法を詳しく解説します。
法的根拠を押さえながら、実際の文例や手続きの流れをステップバイステップでご紹介。
これを読めば、あなたも自分の権利を守り、正当な敷金返還を受けるための具体的な行動が取れるようになります。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
内容証明郵便とは?基本を知ろう

内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰に送ったかを郵便局が証明する特別な郵便サービスです。
郵便法第54条に基づくこの制度は、差出人が発送した文書の内容を郵便局が証明することで、後日のトラブルや紛争の際に重要な証拠として活用できます。
つまり、「〇月〇日に、このような内容の文書を、Aさんから Bさんに送った」ということを第三者である郵便局が証明するため、「送っていない」「そんな内容の文書は受け取っていない」といった相手の言い逃れを防ぐことができます。
敷金返還請求のような法的なやり取りでは、この証明力が非常に重要になるのです。
- 内容証明郵便は郵便局が文書の内容・送付日時・送受信者を証明する(郵便法第54条)
- 法的トラブルの際の有力な証拠となる
- 3通作成し、1通は郵便局保管、1通は相手方、1通は自分の控えとなる
- 特定記録や簡易書留と組み合わせることで配達の事実も証明できる
- 内容証明は文書の存在を証明するもので、内容の正当性を証明するものではない
法律では内容証明郵便はどう扱われる?知っておくべき効力とは

内容証明郵便の法的効力について正しく理解しておくことは、敷金返還請求などの法的トラブル解決に不可欠です。
まず重要なのは、内容証明郵便は「証拠」としての効力を持つということです。
民事訴訟法第228条では、文書の真正な成立が証明されれば、その文書に書かれた内容は真実であると推定されると定められています。
また、内容証明郵便を送付することで「催告」の効果が生じ、時効の中断(民法第147条)や、遅延損害金の発生開始日の確定など、法的な効果をもたらすことができます。
さらに、「意思表示」を明確に行ったことの証明にもなります。例えば、契約解除の意思表示や請求の意思表示を行ったことの証拠となります。
つまり、敷金返還請求においては、「いつ、どのような金額を、どのような根拠で請求したか」を明確に証明できる手段として非常に有効です。
例えば「○月○日に××円の敷金返還を請求したが応じてもらえない」という事実を客観的に証明できます。
この効力を知っておくことで、トラブル解決の際に法的に有利な立場に立つことができます。
内容証明郵便の文面は、後に裁判となった場合の重要な証拠となるため、法的根拠を明確に示し、冷静かつ客観的な表現を用いることが重要です。
どんな時に内容証明郵便が生きる?典型的な事例とは
内容証明郵便が特に効果を発揮する典型的なケースには以下のようなものがあります。

- 金銭の請求・督促を行う場合:未払い賃金、貸金返還、敷金返還請求など、相手に支払いを求める際に有効
- 契約の解除・解約の通知をする場合:賃貸借契約の解約、サービス契約の解除など、契約関係を終了させる意思表示
- 催告書や最終通告を送付する場合:支払期限の設定や、不履行の場合の法的手続きを予告する通知
- クーリングオフの申し出をする場合:特定商取引法に基づく契約解除の意思表示
- 内容や条件変更の申し入れをする場合:契約内容の変更提案や交渉の証拠として
法務省の統計によると、内容証明郵便の利用目的の約40%が金銭請求に関するもので、その中でも「賃貸物件の敷金返還請求」は高い割合を占めています。
特に効果的なのが、話し合いが決裂した後、法的手続きへ移行する前の「最後の交渉手段」として送付するケースです。
例えば、「敷金から経年劣化の修繕費用が不当に差し引かれた」と感じた際に、法的根拠を示して内容証明郵便で請求することで、相手が請求の真剣さを認識し、裁判に発展する前に解決するケースが多く見られます。
また、時効が迫っている債権の請求にも効果的です。
内容証明郵便で請求することで時効の完成を防ぎ(時効の中断)、請求権を維持することができます。
敷金返還請求を例とした内容証明郵便作成の流れ
敷金返還トラブルが発生した場合、内容証明郵便を活用した解決プロセスは以下の通りです。

- 退去時に敷金精算書が届いたら、記載内容を詳細に確認する
- 納得できない項目があれば、まずは電話や対面で管理会社に説明を求める
※この際、国土交通省のガイドラインや民法の条文を根拠に、具体的にどの部分に異議があるのかを明確に伝えることが重要です。 - 話し合いで解決しない場合は、内容証明郵便で正式に異議を申し立てる
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰に送ったかを郵便局が証明する制度です。
法的な紛争になった際の重要な証拠となります。
内容証明郵便の作成手順は以下の通りです。
内容証明郵便の作成で、まず大切なのは問題の全体像を把握することです。
下記の項目に沿って、作成に必要な情報および資料を準備しましょう。

- 退去日、敷金の金額、請求されている原状回復費用、返還を求める金額など重要情報を整理
- 退去時の立会い状況や室内状態の写真などの証拠資料を準備
- 原状回復ガイドラインに基づき、不当と思われる請求項目をリストアップ

「Step01」で準備した情報および資料に基づいて文章を作成していきます。
文章の作成のポイントは以下の通りとなります。
後述する「敷金返還請求の内容証明郵便のテンプレート」を参考に根拠に基づいた文章を作成しましょう。
- 日本郵便指定のフォーマット(A4用紙・26行・一行40字以内)を使用する
- 差出人・受取人の住所・氏名を正確に記載する
- 日付を明記し、敷金返還に関する事実関係を時系列で簡潔に記述する
- 返還請求額や支払期限を明確に示す
- 専門用語は避け、平易な言葉で記載する

内容証明郵便を発送するときは、同じ内容の文書を3部準備することが必要です。
このうち、1部が実際に発送され、1部は郵便局で保管されます。
もう1部は郵便局の消印が押された後、差出人の控えとして渡されます。
これは持ち帰り、ご自身で保管します。
内容証明郵便の中の差出人の氏名を記載した部分に捺印します。
これは3部すべてに必要です。個人の場合は認印で構いませんが、実印を使用するとより確実です。
法人の場合は法人印を捺印します。

内容証明文書が2ページ以上になるときは、ホッチキスでとめて、その綴じ目に割印をしてください。
割印は差出人の氏名の横に捺印した印と同じ印を使用する必要があります。
封筒1通を準備し、封筒に相手の住所、氏名または社名と差出人であるご自身の住所、氏名を書きます。
封筒の記載は、内容証明郵便の文書中の相手の住所と氏名または社名、差出人の住所と氏名の記載と同じにする必要があります。
また、内容証明郵便の文書中にご自身の住所と氏名にあわせて、電話番号を記載した場合は、封筒にも同じように電話番号を記載してください。

「Step02」から「Step05」で準備した内容証明郵便3部と封筒1通を郵便局に持参します。
ただし、郵便局によって内容証明郵便を取り扱っているところとそうでないところがありますので、郵便局に行く前にその郵便局が内容証明郵便を扱っているかどうか確認して下さい。
郵便局に持参すると、郵便局の職員に「配達証明はつけますか?」と聞かれる場合があります。
配達証明は、内容証明郵便を相手がいつ受け取ったのかを知るために必要なものなので、必ず配達証明をつけてもらうようにお願いして下さい。
- 郵便局窓口で手続きを行う(オンライン申込みも可能)
- 本人確認書類が必要
- 基本料金+書面作成料がかかる(2,040円程度から)
- 配達証明を付けると受領証が手元に残る(オススメ)
- 特定記録や簡易書留との違いを理解する
内容証明郵便の3部のうち1部は郵便局の消印を押した後、差出人の控えとして渡されますので、持ち帰って大切に保管します。この控えは今後の交渉や裁判の際の重要な証拠となります。
内容証明郵便を受け取った貸主は通常1週間〜2週間程度で回答します。回答がない場合は、電話や再度の内容証明郵便で督促することも検討しましょう。
貸主から回答があった場合、その内容に応じて以下の対応を取ります。
- 拒否された場合:少額訴訟や調停など次のステップを検討する
- 要求が認められた場合:敷金返還または原状回復費用の減額が実行されるまで待つ
- 一部のみ認められた場合:さらなる交渉を継続するか、提案を受け入れるか検討する
お互い金額に納得がいけば退去費用の精算が完了します。合意内容は必ず書面で残しておきましょう。

- 感情的な表現は避け、事実と法的根拠に基づいた冷静な文面にする
- 請求する金額と内訳を明確に記載する
- 支払期限は相手に検討する十分な時間を与える(2週間程度)
- 郵便局で3通作成し、1通は自分用、1通は相手方、1通は郵便局保管
- 控えと関連書類(契約書、敷金精算書など)はすべて保管しておく
内容証明郵便を送付してから約2週間待ち、それでも解決しない場合は、消費生活センターや国民生活センター、法テラスなどの公的機関に相談するか、少額訴訟を検討します。
少額訴訟は60万円以下の請求に使える比較的簡易な手続きで、通常1回の審理で終了します。
敷金返還請求の内容証明郵便のテンプレート
以下は、敷金返還請求の内容証明郵便のテンプレートです。
交渉を前提とした丁寧な内容にしています。
発送日 令和〇年〇月〇日
被通知人 〒〇〇〇-〇〇〇〇
〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇-〇
〇〇〇不動産株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇 様
通知人 〒〇〇〇-〇〇〇〇
〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇-〇
氏名 〇〇 〇〇
電話番号: 〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
メールアドレス: 〇〇〇〇@〇〇〇〇.〇〇.〇〇
通知書
拝啓
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、私こと〇〇 〇〇は、貴社が管理されている下記物件を令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで賃借しておりました。
物件情報
物件名 〇〇〇〇マンション
部屋番号 〇〇〇号室
所在地 〇〇県〇〇市〇〇町〇-〇-〇
契約期間 令和〇年〇月〇日~令和〇年〇月〇日
敷金 金〇〇〇,〇〇〇円
契約時に敷金として金〇〇〇,〇〇〇円をお預けしておりましたが、退去後の本日に至るまで敷金の返還がございません。当該物件の退去時に行われた立会いでは、通常の使用による経年劣化以外の特段の損傷は確認されておらず、原状回復費用が発生する旨の説明もございませんでした。
つきましては、民法第622条の規定に基づき、敷金として預けた金〇〇〇,〇〇〇円の返還を請求いたします。
なお、本状到着後〇週間以内(令和〇年〇月〇日まで)に、下記の口座へのお振込みをお願い申し上げます。
振込先
金融機関名 〇〇銀行
支店名 〇〇支店
口座種別 普通
口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義 〇〇 〇〇(カナ表記)
万が一、敷金から控除すべき費用があるとお考えの場合は、その具体的な内容と金額の根拠資料(見積書、請求書、作業内容の詳細など)をご提示くださいますようお願い申し上げます。適正な根拠に基づく費用については誠意をもって対応させていただく所存です。
本件に関しまして何かご不明な点やご質問等ございましたら、上記連絡先までご連絡いただければ幸いです。円満な解決に向けて誠意をもって対応させていただきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
令和〇年〇月〇日
氏名 〇〇 〇〇(印)
- 日本郵便指定のフォーマット(A4用紙・26行・一行40字以内)を使用して作成してください。
Googleドキュメントでの作成は難しいですが、Wordであれば簡単にフォーマット設定ができます。

必要に応じて、実際の状況(退去時の状況、やり取りの経緯等)を追記してください。また、送付前に法的な助言を得ることをお勧めします。
トラブル回避のコツは?入居前にするべきことは


敷金返還トラブルを予防するための最も効果的な方法は、入居前と入居中の適切な対応です。
トラブル予防の基本的な考え方は「証拠を残す」という一点に尽きます。
入居前には、契約書の「原状回復」に関する条項を丁寧に確認しましょう。
特に「通常損耗」と「故意・過失による損耗」の区別や、敷金から控除される可能性のある項目について明確になっているかをチェックします。
不明な点や疑問点があれば、その場で質問し、必要であれば説明内容を書面で残してもらいましょう。
入居時には、部屋の状態を詳細に記録しておくことが重要です。
「入居時確認書」などの書類がある場合は、実際の状態と相違がないか確認した上で署名します。
既存の傷や不具合があれば必ず記載してもらいましょう。
可能であれば、日付入りの写真や動画で室内の状態を記録しておくことも有効です。
- 契約前に原状回復条項を確認し、不明点は書面で回答をもらう
- 入居時の室内状況を写真や動画で記録する(日付入り)
- 入居中の小さな修繕依頼や連絡はメールなど記録の残る方法で行う
- 退去予定が決まったら早めに管理会社に連絡し、必要な手続きを確認する
- 退去時の立会いには必ず立ち会い、その場で指摘事項を確認する
入居中に発生した不具合や、自分で修理した箇所などについても記録を残しておくことで、退去時に「いつからその状態だったのか」という不毛な議論を避けることができます。
特に設備の経年劣化による不具合は、入居者の責任ではないことを明確にするためにも記録しておくことが大切です。
作成のコツは?内容証明郵便の疑問にお答え
まとめ


内容証明郵便は、トラブル解決のための強力なツールですが、その効果を最大限に発揮するためには正しい知識と適切な準備が必要です。
本記事でご紹介した内容をまとめると、以下の点が特に重要です。
- 内容証明郵便を送る前に、相手方との話し合いの機会を設け、穏便な解決を試みる
- 解決しない場合は、送付する内容証明郵便の文面を慎重に作成
- 事実関係を時系列で整理し、請求の法的根拠を明確に示す
また、内容証明郵便と併せて「配達証明」のオプションを付けることで、相手方に確実に届いたことを証明できます。
送付前に控えをコピーし、関連する証拠書類(契約書や請求書のコピーなど)とともに保管することも忘れないでください。
相手方が内容証明郵便に対して適切に対応しない場合の次のステップ(消費生活センターへの相談や法的手続きなど)についても、あらかじめ検討しておくことが望ましいでしょう。
より詳しい情報を知りたい方は、日本郵便のウェブサイトで内容証明郵便に関する最新情報を確認するか、法的なアドバイスが必要な場合は法テラスや弁護士会の相談窓口を利用することをお勧めします。
必要に応じて法律の専門家(弁護士・司法書士)に相談することも検討してください。
これは一般的な情報提供であり、個別の事例については専門家への相談をお勧めします。
あなたの権利を守るための強力なツールとして、内容証明郵便の知識を活用してください。
トラブル解決の第一歩として、正しい知識を身につけ、適切な準備を今から始めましょう。

