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[事例26]カビの発生は賃借人の手入れに問題があった結果であるが、経過年数を考慮するとクロスの張替えに賃借人が負担すべき費用はない、との判断を示した事例

この事例の概要

本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して、敷金の返還と更新料の返還を求めた事案です。裁判所は、賃借人Xが長期間にわたり賃借していた建物の損耗・汚損は自然経過によるものであり、クロスの張替え費用は貸主負担と判断しました。また、更新料支払特約は有効であるとし、敷金から一部を控除した金額の返還を命じました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、昭和63年から本件建物を賃借し、2年ごとに更新を繰り返していました。

平成14年、賃貸人Yが建物を取得し、賃貸人の地位を承継しました。

平成15年、賃借人Xと賃貸人Yは更新契約を締結し、敷金13万8000円を支払いました。

その後、平成18年に賃貸借契約が終了し、賃借人Xは建物を明け渡しました。

賃借人Xは、敷金の返還と更新料の返還を求めて訴訟を提起しました。

  • 和室畳の汚損・破損
  • 襖や扉のタバコのヤニによる黄色い変色
  • 各部屋のカビ
  • 天井塗装
  • 玄関扉のサビ
  • クロス下地のボード
  • 和室の窓のカビ防止シール剥がし
  • クロスの張替え

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • 和室の窓のカビ防止シール剥がし
  • 天井塗装、玄関扉のサビ、クロス下地のボードの20%相当

賃貸人の負担項目

  • クロスの張替え
  • 天井塗装、玄関扉のサビ、クロス下地のボードの80%相当

裁判所は、賃借人Xが18年以上賃借していた建物の損耗・汚損(畳の汚損、襖や扉の変色)は、時間の経過に伴う自然損耗であり、賃借人の責任ではないと判断しました。

特に、クロスの張替え費用は貸主負担とされ、経過年数を考慮して賃借人の責任範囲を超えるとされました。

一方、天井塗装、玄関扉のサビ、クロス下地のボードについては、費用の20%を賃借人Xが負担すべきとされ、残存価値が考慮されました。

また、和室の窓のカビ防止シール剥がし費用1050円は賃借人Xの負担と認められました。

更新料支払特約は消費者契約法10条に反せず有効と判断され、敷金から2万6670円を控除した11万1330円の返還が命じられました。

結論として、裁判所は賃借人Xに対して敷金の一部返還を命じ、更新料の返還請求は認めませんでした。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:220,420円
裁判所の判決:26,670円
預け入れた保証金:138,000円
保証金の返還額:111,330円

本判決から得られる実務的な示唆と教訓は以下の通りです。

  • 自然損耗と賃借人の責任範囲
  • 原状回復費用の算定
  • 更新料支払特約の有効性
  • 敷金の返還請求

長期間の賃借による損耗・汚損は、賃借人の責任ではなく貸主負担となる場合があり、特にクロスの張替え費用などは経過年数を考慮して判断されます。

原状回復費用は残存価値を基に算定され、賃借人が負担すべき費用はその範囲内で判断されるべきです。

更新料支払特約は、消費者契約法10条に反しない限り有効とされ、特約の内容が不当でないか事前に確認することが重要です。

また、敷金の返還請求では、賃借人の負担すべき費用を明確に区分し、自然損耗と責任範囲を明確にすることが求められます。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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