
賃貸のふすま破損は退去時にいくら請求される
賃貸物件を退去する際に「ふすまの張替え費用を全額負担してほしい」と管理会社から請求され、その金額が本当に妥当なのか不安を感じたことはないでしょうか。
本記事で紹介するのは、国土交通省のガイドラインに収録された事例2のふすま張替え費用をめぐるトラブルです(ガイドライン事例集2)。
この事例では、約6年間の入居後に畳の裏替え・ふすまの張替え・カーペットの取替え・壁天井の塗装費用として合計24万9780円が借主に請求されました。
裁判所は通常の使用に伴う汚損や損耗は原状回復義務の対象外と判断し、敷金24万円の全額返還を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
裁判所が示したふすま張替え費用の負担ルールと通常損耗の判断基準

- 約6年間の入居で畳やふすまなど合計24万9780円の修繕費を請求された経緯
- 裁判所は通常損耗を原状回復義務の対象外と判断し敷金24万円の全額返還を命じた
- ふすまは消耗品扱いで耐用年数がなく過失の有無が費用負担の判断基準になる

退去時に「ふすまの張替え費用は借主が全額負担」と言われ、本当にそうなのかと疑問を持った方も多いのではないでしょうか。
この事例では、ふすまを含む複数箇所の修繕費用が請求されたものの、裁判所が通常損耗は借主負担にならないと明確に判断しました。
約6年間の入居で畳やふすまなど合計24万9780円の修繕費を請求された経緯

まず、この事例の背景を整理します。
借主は昭和62年5月から平成5年4月までの約6年間、東京都内の賃貸物件に月額賃料12万円・敷金24万円で入居していました。
退去時に貸主は、畳の裏替え・ふすまの張替え・カーペットの取替え・壁天井の塗装費用として合計24万9780円の修繕費請求を借主に行い、敷金から差し引く旨を通知しました。
借主はこれに対し、6年間の通常の生活で生じた汚れや損耗は原状回復義務に含まれないと主張し、敷金24万円の全額返還を求めて裁判を起こしました。
敷金とほぼ同額の修繕費を請求されたケースですが、裁判では全額返還の判断が下されました。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は通常損耗を原状回復義務の対象外と判断し敷金24万円の全額返還を命じた


次に、裁判所がこの事例でどのような判断を下したかを確認します。
裁判所は、約6年間の通常の生活で畳やふすま、カーペット、壁天井に生じた汚損や損耗は「通常の用法に従った使用に必然的に伴うもの」であり、原状回復義務の対象にはならないと認定しました。
その結果、貸主が敷金から差し引いた修繕費用は全額不当であるとして、敷金24万円の全額返還命令が出されました。
賃貸物件の修繕は原則として貸主の義務であり、ふすまの通常使用による汚れや日焼けによる変色は借主が負担すべきものではないという判断です。
退去費用の請求内容に疑問を感じたら、まず見積もりの内訳を書面で確認しましょう。
ふすまの汚れが通常の使用によるものであれば、張替え費用は貸主が負担するのが原則です。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
ふすまは消耗品扱いで耐用年数がなく過失の有無が費用負担の判断基準になる
クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、ふすまの修繕費用を考えるうえで知っておくべき重要なポイントがあります。
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、ふすま紙(襖紙)は消耗品として扱われており、クロスや畳表と同様に経過年数(耐用年数)による減価償却の対象外とされています。
つまり、借主の故意や過失でふすまを破損した場合は、入居年数に関係なく張替え費用の全額が借主負担になる可能性があります。
なお上記のグラフはクロス(壁紙)の耐用年数6年を基準とした残存価値の推移ですが、ふすまには経過年数の考え方が適用されないため、通常損耗か借主の過失による破損かの判断がより重要になります。
ふすまは消耗品扱いなので、通常使用による損耗か過失による破損かの区別が退去費用の判断で最も重要です。
民法第400条:債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
この事例から学ぶふすまの退去費用と消耗品扱いの対処法


- ふすまの通常損耗を借主負担とする特約が有効になるには明確な合意が必要になる
- 最高裁判所も通常損耗の原状回復には借主の明確な認識と合意を求めている
- ふすまの修繕費用を不当に請求されたときは段階的に交渉を進められる


ふすまの修繕費用が消耗品扱いで全額負担になるのか、それとも通常損耗として免除されるのか、判断に迷う方は少なくありません。
ここでは、通常損耗の特約が法的に有効になる条件と最高裁の判断基準、そして不当な請求を受けたときの具体的な交渉手順を解説します。
ふすまの通常損耗を借主負担とする特約が有効になるには明確な合意が必要になる


まず、この事例が示す法的な意義を整理します。
裁判所は「原状回復特約」という契約書の文言だけでは、ふすまの通常損耗の修繕費用を借主に負担させる根拠にはならないと判断しました。
ふすまの張替え費用を借主に請求するためには、契約書に「通常の使用による損耗であっても借主が張替え費用を負担する」と具体的に明記するか、契約時に口頭で説明して借主の明確な合意を得る必要があります。
退去時に「特約があるから全額負担」と言われても、明記と合意なき特約の無効とされる可能性が高いため、鵜呑みにする必要はありません。


契約書の特約内容を入居前に確認し、不明な点があれば書面で回答を求めましょう。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
最高裁判所も通常損耗の原状回復には借主の明確な認識と合意を求めている


加えて、最高裁判所も平成17年12月16日の判決で通常損耗の原状回復特約について重要な基準を示しています。
最高裁は、通常損耗について借主に原状回復義務を負わせるためには「契約書に具体的に明記されているか」または「口頭で説明し借主が明確に認識・合意していること」が必要と判示しました。
この最高裁判決は全国の裁判所の判断基準となっており、単に「原状回復特約」と記載されているだけでは通常損耗の費用を借主に負担させることはできません。
ふすまの退去費用を交渉する際には、最高裁の判断基準を根拠とした交渉が非常に有効です。
最高裁の判断基準を知っておけば、退去費用の交渉で大きな武器になります。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
ふすまの修繕費用を不当に請求されたときは段階的に交渉を進められる


最後に、ふすまの修繕費用が不当に高いと感じたときの具体的な対処法を解説します。
まずは管理会社に対して「ふすまの損耗が通常使用によるものであること」と「消耗品扱いであっても借主の過失がなければ費用負担の義務がないこと」を書面で伝えるのが第一歩です。
書面での交渉で解決しない場合は、国民生活センター(消費者ホットライン188番)や各地域の消費者センターに無料で相談できるほか、請求額が60万円以下であれば簡易裁判所の少額訴訟制度を利用する方法もあります。
すでに支払ってしまった場合でも、法律上の根拠なく徴収された費用は不当利得としての返還請求が可能であるため、泣き寝入りする必要はありません。


段階的に交渉を進めれば、ふすまの修繕費用を大幅に減額できるケースは少なくありません。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この事例は、ふすまを含む複数箇所の修繕費用が請求された場合でも、通常損耗は原状回復義務の対象外であることを明確に示した判例です。
退去時にふすまの張替え費用を請求された場合は、まず「通常の使用による損耗か」「契約書に具体的な特約が明記されているか」を確認することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 裁判所は畳・ふすま・カーペット・壁天井の通常損耗を原状回復義務の対象外と判断し敷金24万円の全額返還を命じた
- ふすまは消耗品扱いで耐用年数がなく借主の過失がなければ張替え費用の負担義務はない
- 通常損耗の原状回復を借主負担とするには契約書への具体的な明記と借主の明確な合意が必要になる
- 最高裁判所も通常損耗の原状回復特約には借主の明確な認識と合意を要件としている
- 不当な請求には書面での交渉や消費者センターへの相談で段階的に対処できる
ふすまの退去費用について不安がある方は、契約書と見積もりの内訳を照合したうえで専門家に相談しましょう。


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