賃借人の過失で敷金が戻らない?リビングの柱の傷やクロス剥がれの費用相場
この記事の概要 賃借人Xと賃貸人Yの間で結ばれた賃貸借契約に関し、契約終了後の敷金償却をめぐるトラブルが発生し、消費者契約法10条の適用が争点となった裁判で、契約内容の適正さが確認された事例です。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸借契約
平成20年3月31日、賃借人Xは賃貸人Yとの間で、本件建物を賃料月額13万3000円、共益費月額1万円、敷金26万6000円、契約期間は364日(定期借家契約)で、解約予告期間1か月という内容の賃貸借契約を結びました。
賃借人Xは、この条件で本件建物に居住することになり、賃貸契約は順調に開始されました。
契約時には、重要事項説明書や賃貸紛争防止条例に基づく説明書等が賃借人Xに明示され、契約内容について十分に理解した上で締結されました。
- 賃貸借契約締結日: 平成20年3月31日
- 賃料: 月額13万3000円
- 共益費: 月額1万円
- 敷金: 26万6000円
- 賃貸期間: 364日(定期借家契約)
- 解約予告期間: 1か月
トラブルの発端
契約期間終了後、賃借人Xは再契約を結びましたが、平成21年5月18日に賃貸人Yに対して解約を申し入れ、同年6月17日に本件建物を明け渡しました。
この際、賃貸人Yの担当者から、リビングの柱の傷や窓の下のクロス剥がれ、寝室の壁の傷などの損耗箇所を指摘されました。
賃貸人Yは原状回復費用として12万2850円の負担を求め、さらに敷金の償却分13万3000円も差し引かれました。
これに対して、賃借人Xは敷金の償却が消費者契約法10条に違反していると主張し、裁判に至りました。
- リビングの柱の傷(縦0.2〜0.3cm、横0.5cm)
- リビングの窓の下の3cm四方のクロスの剥がれ
- 寝室の壁の傷(縦0.5cm、横10cmの擦った跡)
- 寝室の壁の傷(縦1cm、横0.5cmの傷)
- 原状回復費用合計: 12万2850円
- 賃借人Xが負担する原状回復費用: 3万4815円
- 敷金から差引かれた金額: 15万8153円(退去日の日割精算返却額5万9968円を含む)
裁判および判決
裁判所は、本件敷引契約について消費者契約法10条に違反するかどうかを審理しました。
結果、裁判所は本件敷引契約が賃借人の利益を侵害するものではないと判断しました。
理由として、契約内容が明確に説明されていたこと、賃貸条件が比較検討可能であったこと、敷引料が合理的範囲内であったことが挙げられました。
また、壁クロスの損耗分についても、賃借人の過失と認められ、原状回復費用が妥当であるとされました。
これにより、賃借人Xの請求は棄却されました
- 本件敷引契約は消費者契約法10条に違反しないと判断
- 賃貸条件の情報は仲介業者やインターネット等で容易に検索・比較できた
- 賃借人Xが敷引特約を理解し、契約を締結したと認定
- 被告が主張する特別損耗分は自然損耗・経年劣化に属さず、賃借人Xの過失によるものと認定
- 賃借人Xの請求は理由がないとして棄却
まとめ
この事例では、賃借人Xが賃貸人Yと結んだ賃貸借契約終了後、敷金の償却を巡ってトラブルが発生しました。
裁判では、敷金償却の特約が消費者契約法10条に違反するかが争点となりましたが、裁判所は契約内容が明確に説明されており、賃借人の利益を大きく侵害するものではないと判断しました。
また、原状回復費用についても賃借人の過失が認められ、裁判所は賃貸人Yの主張を支持しました。
この事例は、契約内容の理解と説明が重要であることを示し、賃貸借契約において信義則に基づく公正な取り扱いが求められることを強調しています。
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