敷金って返ってくるの?返ってこないケースを原状回復のガイドラインを用いて解説

「契約時に預けた敷金、本当に全額返ってくるのかな…」「退去時にこんなに修繕費を請求されるなんて…」賃貸住宅の退去時、敷金の返還をめぐるトラブルは非常に多く発生しています。
国土交通省の調査によれば、賃貸住宅の相談内容のうち、原状回復や敷金返還に関する相談は常に上位を占めています。
この記事では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を基に、敷金返還の仕組みや返還されないケースについて詳しく解説します。
契約時の注意点から退去時の対応まで、敷金トラブルを防ぐための実践的な知識を身につけることができます。
例えば、6年間住んだアパートを退去する際に、「壁紙の張替え全額」「設備の経年劣化による修繕費用」などを請求され、敷金がほとんど戻ってこなかったというケースも、適切な知識があれば対処できるのです。
敷金とは何か?民法で定められた預かり金の基本

敷金とは、賃借人(借主)が賃貸借契約に基づいて賃貸人(貸主)に預け入れる金銭で、借主の債務を担保するためのものです。
民法第622条の2に「いかなる名義をもってするかを問わず、いかなる金銭の授受があっても、契約終了時に返還される金銭は敷金とみなす」と規定されています。
敷金の主な目的は、家賃の滞納や原状回復費用など、借主が負担すべき債務の担保としての機能です。
契約終了時に借主に債務がなければ、敷金は全額返還されるのが原則です。
しかし、未払い家賃や原状回復費用がある場合、それらを差し引いた金額が返還されることになります。
- 敷金は民法上、契約終了時に返還されるべき金銭であり、名称に関わらず実質的に敷金機能を持つ金銭は敷金とみなされる
- 敷金から差し引かれるのは「借主の債務不履行による損害」と「借主の負担すべき原状回復費用」のみ
- 敷金返還義務は借主が明け渡しを完了した時点で発生する
- 貸主は敷金から控除する金額と内訳を借主に説明する義務がある
敷金返還の法的解釈とガイドラインの位置づけ

敷金返還に関する法的解釈は、民法の規定と国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、ガイドライン)」が重要な判断基準となります。
ガイドラインは法的拘束力こそないものの、裁判所の判断においても考慮される重要な指針です。
ガイドラインでは、原状回復の費用負担区分を明確にし、「通常の使用による損耗等(経年変化)」と「借主の故意・過失、通常の使用を超える使用による損耗等」を区別しています。
前者は貸主負担、後者は借主負担とする考え方が示されています。
この考え方は最高裁判所の判例(最高裁平成17年12月16日判決)でも支持されており、「賃借人の通常の使用により生じた建物の劣化・損耗の回復費用は、通常、賃料に含まれるものとして賃貸人が負担すべき」と明確に示されています。
つまり、単なる経年劣化による修繕費用を敷金から差し引くことは法的に認められていないのです。
敷金が返還されない典型的なケース
敷金が全額返還されない、あるいは大幅に減額されるケースには、以下のような典型的なパターンがあります。

- 未払い家賃がある場合:契約期間中の未払い家賃がある場合、敷金からその金額が差し引かれます。
- 故意・過失による損傷がある場合:タバコによる壁の変色・臭い付着、ペットによる傷、落書きなど、明らかに借主の責任による損傷の修繕費用は借主負担となります。
- 設備の紛失・破損がある場合:鍵の紛失、ガラスの破損、設備の故障など、借主の不適切な使用による破損は借主負担です。
- 特約により借主負担と定められている場合:クリーニング特約など、あらかじめ契約で定められた費用は敷金から差し引かれることがあります。
- 原状回復義務を履行していない場合:借主が行うべき原状回復(例:備品の撤去、清掃など)を行わなかった場合、その費用が請求されます。
国土交通省の調査によれば、敷金返還トラブルの約40%は原状回復の費用負担に関するものであり、特に壁紙や床の修繕費用、ハウスクリーニング費用をめぐるトラブルが多く発生しています。
敷金と礼金・更新料・修繕積立金の違い
敷金と混同されやすい賃貸契約に関する金銭には、礼金、更新料、修繕積立金などがあります。
これらは返還の有無や目的において大きく異なります。

項目 | 返還の有無 | 主な目的 | 法的根拠 |
---|---|---|---|
敷金 | 原則返還(債務控除後) | 家賃滞納・原状回復費用の担保 | 民法第622条の2 |
礼金 | 返還なし | 賃借権設定の対価・感謝金 | 慣習法 |
更新料 | 返還なし | 契約更新の対価 | 慣習法・特約 |
修繕積立金 | 原則返還なし(特約による) | 将来の修繕費用の積立 | 特約 |
保証金 | 一定額控除後返還 | 敷金と同様だが一部償却あり | 特約 |
敷金と区別するポイントは、「契約終了時に返還されるか否か」という点です。
敷金は原則として返還されるべき金銭ですが、礼金や更新料は返還を前提としない金銭です。
契約書の名称ではなく、その金銭の実質的な機能で判断することが重要です。
敷金返還トラブルの解決プロセスはどうなる?
敷金返還トラブルが発生した場合、以下のようなプロセスで解決を図ることができます。

- 退去時の立会い確認と詳細な記録:可能であれば退去時に貸主または管理会社と共に室内状況を確認し、写真撮影などで証拠を残します。
- 敷金精算書の確認:貸主から送られてくる敷金精算書の内容を詳細に確認します。不当な請求項目がないか、経年劣化による修繕費用が含まれていないかチェックします。
- 交渉:不当な請求があると判断した場合、貸主に説明を求め、ガイドラインに基づいた適正な精算を要求します。
- 相談機関の利用:交渉がまとまらない場合、消費生活センターや住宅相談所、法テラスなどの相談機関に相談します。
- ADR(裁判外紛争解決手続)の利用:第三者機関による調停を利用する方法もあります。
- 少額訴訟・民事調停:それでも解決しない場合は、60万円以下であれば少額訴訟、それ以上であれば民事調停や訴訟を検討します。
敷金返還請求権の消滅時効は、民法改正により、2020年4月1日以降は5年となっています(改正前は10年)。
解決までの期間は交渉で解決する場合は1〜3ヶ月程度、裁判になると半年から1年程度かかることもあります。
- 退去時の部屋の状態を写真や動画で記録しておくことが重要
- 敷金精算書は必ず受け取り、内容を詳細に確認する
- 経年劣化による修繕費用は原則として貸主負担であることをガイドラインで確認する
- 交渉の際は感情的にならず、ガイドラインや民法の規定を根拠に冷静に対応する
- 書面やメールなど、記録に残る形で交渉することが望ましい

敷金トラブルを事前に防ぐには?契約時の注意点

敷金返還トラブルを未然に防ぐためには、契約時からの備えが重要です。
契約内容をしっかり確認し、入居時の状態を記録しておくことで、退去時のトラブルリスクを大幅に減らすことができます。
まず重要なのは、契約書や重要事項説明書の内容を詳細に確認することです。
特に敷金の金額、返還条件、原状回復の範囲に関する特約があれば、その内容をよく理解しておく必要があります。
不明点があれば、契約前に必ず確認しましょう。
また、入居時には部屋の状態を詳細に確認し、既存の傷や汚れがあれば写真に撮り、日付入りで保存しておくことが重要です。
可能であれば、管理会社の立会いのもとで確認し、「入居時確認書」などの書面に記録してもらうとよいでしょう。
契約書に「敷引き」「償却」などの特約がある場合は、その金額や条件を必ず確認してください。
これらの特約は有効とされる場合がありますが、あまりに高額であったり、不当に借主に不利な条件である場合は、消費者契約法により無効となる可能性もあります。
- 契約書・重要事項説明書の敷金関連条項を詳細に確認する
- 入居時の部屋の状態(傷・汚れ等)を写真で記録し、日付入りで保存する
- 「敷引き」「償却」などの特約がある場合は、その金額と条件を確認する
- 原状回復義務の範囲について、契約時に明確にしておく
- 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の内容を理解しておく
敷金返還に関するよくある質問
まとめ

敷金返還トラブルは、正しい知識と適切な対応で多くが防げます。
この記事でご紹介したように、敷金は原則として「借主の債務不履行による損害」と「借主の負担すべき原状回復費用」を差し引いた金額が返還されるべきものです。
経年劣化による修繕費用は原則として貸主負担であり、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はその判断基準として非常に重要です。
敷金トラブルを防ぐためには、契約時からの備えが重要です。契約書の内容をしっかり確認し、入居時・退去時の状態を写真などで記録しておきましょう。
また、トラブルが発生した場合は、感情的にならず、ガイドラインや民法の規定を根拠に冷静に交渉することが解決への近道です。
当記事では触れられなかった詳細な法的解釈や特殊なケースについては、消費生活センターや法律の専門家への相談をお勧めします。
敷金返還問題は状況によって判断が異なる場合もあるため、個別の事例については専門家のアドバイスを受けることが最善です。
これは一般的な情報提供であり、個別の事例については専門家への相談をお勧めします。
