[事例3]原状回復の特約及び別記の「修繕負担項目」により損耗の程度に応じた賃借人の負担を認めた事例

本件は、賃貸借契約終了時に賃借人が原状回復義務を負うかどうかが争われた事例です。賃貸人Xは、賃借人Yが退去時に未払い賃料や共益費を支払わず、また原状回復工事を行わなかったとして、工事費用の支払いを求めました。裁判所は、原状回復の範囲と費用負担について詳細に判断し、賃借人Yに一部の費用負担を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃貸人Xは、昭和63年9月16日、賃借人Yに対し、月額賃料21万7000円、共益費1万8000円で建物を賃貸しました。
契約書には、契約終了時に賃借人が自己の費用で原状回復を行う旨の条項が記載されていました。
平成4年5月28日、賃借人Yが建物を退去した際、賃貸人Xは、Yが平成2年6月以降の賃料及び共益費を未払いであり、退去時に補修を行わなかったとして、カーペットの敷替えや壁のクロス張替えなどの原状回復工事費用(65万6785円)を請求しました。
- カーペット敷替え
- クロス張替え
- 畳表替え
- 室内クリーニング
- 室外クリーニング
裁判所の判断
裁判所は、以下の点について詳細に判断しました。
賃借人の負担項目
- 室内クリーニング
- 壁・天井のクロス張替え
- 畳表の裏返し
賃貸人の負担項目
- カーペット敷替え
- 壁・天井の下地調整及び残材処理
- 室外クリーニング
裁判所は、カーペットの敷替えは不要でクリーニング(1万5000円)で十分と判断し、壁・天井のクロス張替えはやむを得ない(26万8000円)と認めましたが、下地調整及び残材処理は賃借人に負担させる根拠がないとして認めませんでした。
また、畳表の取替えは不要で裏返しで十分(2万1600円)とし、室内クリーニングは700円/㎡で認められる(5万4082円)一方、室外クリーニングは契約に含まれていないため賃借人Yに負担させるべきでないとしました。
以上の判断に基づき、賃借人Yは賃貸人Xに35万8682円を支払うよう命じられ、控訴審でもこの判断が維持され、Yの控訴は棄却されました。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆と教訓は以下の通りです。
- 原状回復の範囲
- 費用負担の根拠
- クリーニング費用
- 控訴審の影響
原状回復の範囲は契約書の条項に基づいて判断され、過剰な修繕は認められず、必要最小限の範囲で判断されるため、賃貸人は過剰な請求を避けるべきです。
費用負担を求める場合、その根拠を明確に示す必要があり、特に下地調整や残材処理など契約に明記されていない費用は認められない可能性が高いです。
室内クリーニングは認められることが多い一方、室外クリーニングは契約に含まれていない限り、賃借人に負担させることは困難です。
また、一審判決が控訴審でも維持されることが多いため、一審での主張立証が重要です。
