敷金は返ってくるの?返ってこないの?

賃貸住宅を退去する際、多くの借主が最も気になるのが敷金の返還問題です。
敷金は本来、家賃の未払いや物件の損傷に対する担保として預けるものですが、実際には「返ってこない」「クリーニング代で全額差し引かれた」といったトラブルが後を絶ちません。
しかし、法的には敷金の大部分は借主に返還されるべきものです。
国土交通省のガイドラインや民法の規定を正しく理解すれば、不当な敷金の差し引きを防ぐことができます。
本記事では、敷金が返還される法的根拠から具体的なケース、よくあるトラブルの対処法まで、借主が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
敷金返還の法的基礎と基本的な理解
敷金の返還については、借主と貸主のどちらが修繕費用を負担するかの基準が法律で明確に定められています。
この判断基準を理解することが、敷金トラブルを避ける第一歩となります。
民法では、借主は「通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除き、賃借物を受け取った時の状態に戻して返還する義務」があると規定されています。
つまり、普通に生活していて自然に生じる汚れや劣化については、借主が修繕費用を負担する必要はありません。

- 民法第621条(賃借物の返還等)
借主は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借物の通常の使用収益によって生じたものであるときは、この限りでない。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化・通常損耗は貸主負担、故意・過失による損傷は借主負担という原則が示されています。
このガイドラインは法的拘束力はありませんが、裁判での判断基準として広く活用されており、実務上の重要な指針となっています。
建物や設備の耐用年数についても具体的な基準が設けられており、クロスは6年、カーペットは6年、フローリングは設備によって異なりますが、これらの年数を経過した場合の価値減少分は貸主が負担すべきとされています。
- 通常損耗・経年変化による劣化は貸主が負担すべき費用
- 故意・過失・善管注意義務違反による損傷は借主負担
- 国土交通省ガイドラインが実務上の重要な判断基準
- 耐用年数を考慮した費用負担の考え方が確立されている
- 敷金は原則として借主に返還されるべき金銭
敷金は返ってくるの?返ってこないの?

敷金が返ってくるケース
敷金が返還される最も一般的なケースは、通常の生活で生じた自然な汚れや劣化のみで退去した場合です。
これには日照による壁紙の色あせや、家具の設置による床の凹み、画鋲程度の小さな穴などが含まれます。
法的根拠として、これらは「通常損耗」に該当し、民法第621条のただし書きにより借主の原状回復義務から除外されています。
国土交通省ガイドラインでも明確に貸主負担とされており、ハウスクリーニング費用についても、通常の清掃を怠っていない限り借主が負担する必要はありません。
また、設備の耐用年数を経過している場合や、契約書に敷金の返還について明記されている場合も、基本的に敷金は返還されます。
敷金が返ってこないケース
敷金が返ってこない、または大幅に差し引かれるケースは、借主の故意や過失により物件に損傷を与えた場合です。
具体的には、タバコのヤニによる壁紙の変色、ペットによる柱や壁の傷、カビの放置による腐食などが該当します。
これらの損傷は「通常損耗」を超える範囲として、借主が修繕費用を負担する必要があります。
また、家賃の滞納がある場合も、敷金から差し引かれることになります。
ただし、修繕費用については適正な金額である必要があり、貸主が過剰な費用を請求している場合は、借主は異議を申し立てることができます。
重要なのは、どのような損傷があるのか、それが通常損耗の範囲を超えているのかを客観的に判断することです。
敷金が返ってくるか返ってこないか判断するポイント
敷金返還の可否を判断する最も重要なポイントは、損傷や汚れが「通常損耗」の範囲内かどうかです。
国土交通省ガイドラインでは、具体的な事例を挙げて借主負担・貸主負担を明確に分類しており、これを参考に判断することができます。
契約書の内容も重要な判断材料となります。特約でハウスクリーニング費用の負担が明記されている場合でも、その特約が有効かどうかは別途検討が必要です。
消費者契約法により、借主に不当に不利な特約は無効とされる場合があります。
また、入居時と退去時の写真比較、修繕費用の見積もりの妥当性、設備の耐用年数なども重要な判断要素となります。
トラブルを避けるためには、入居時に物件の状況を詳細に記録し、退去時の立会いでは疑問点を必ず確認することが大切です。
- 通常損耗か故意・過失による損傷かの判断が最も重要
- 国土交通省ガイドラインが具体的な判断基準を提供
- 契約書の特約内容と消費者契約法との整合性確認
- 入退去時の記録と証拠保全が争点解決の鍵
- 修繕費用の適正性と耐用年数の考慮が必要

敷金に関するよくある質問
まとめ

敷金は法的には借主に返還されるべき金銭であり、通常の生活で生じる損耗については貸主が負担すべきものです。
国土交通省ガイドラインや民法の規定を正しく理解し、契約書の内容を確認することで、不当な敷金の差し引きを防ぐことができます。
重要なのは、入居時から退去時まで適切な記録を残し、疑問がある場合は専門機関に相談することです。
敷金トラブルに遭遇した際は、一人で悩まず、公的な相談窓口を積極的に活用して解決を図りましょう。
適切な知識と対応により、本来返還されるべき敷金を確実に取り戻すことが可能です。
