賃貸のカビの退去費用いくら?原状回復のガイドラインに基づいて解説

賃貸物件を退去する際、カビが原因で予想外の高額な修繕費用を請求されることがあります。
「普通に生活していただけなのに、なぜこんなに払わなければならないの?」と疑問に思われる方も多いでしょう。
例えば、3年間住んだマンションを退去する際に「浴室やクローゼットのカビによる壁紙張り替え費用8万円」を請求された佐藤さんのケース。
定期的に掃除していたつもりでも、湿気の多い環境で結露対策が不十分だったため、カビが発生してしまいました。
大家さんは「カビは入居者の管理不足が原因だから全額負担してほしい」と主張しています。
このような状況で、あなたはどう対応すべきでしょうか?
この記事では、カビによる退去費用の相場と負担区分について解説します。
正しい知識を身につけることで、不当な請求から自分を守り、適正な費用負担で退去することができるようになります。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸のカビはどんな問題?賃貸住宅での基本知識

カビとは、湿度の高い環境で発生する真菌の一種です。
賃貸住宅では、浴室、キッチン、押入れなど湿気がこもりやすい場所でよく見られます。カビは見た目の問題だけでなく、健康被害を引き起こす可能性もあるため、適切な対処が必要です。
カビ問題に関する法的根拠としては、民法第606条(賃借人の注意義務)があります。
賃借人は「善良な管理者の注意」をもって賃借物を使用・保存する義務があるとされています。
通常の使用による劣化や損耗については賃貸人(大家)の負担となりますが、入居者の管理不足によるカビ被害は特別な損耗として入居者負担となる可能性があります。
- カビは湿度60%以上の環境で発生しやすく、放置すると建材を劣化させる
- 「通常の使用による損耗」と「特別な使用による損耗」で費用負担が異なる
- カビの原因が構造的な問題(断熱不足など)か生活習慣によるものかで責任の所在が変わる
- 入居時の状態と比較して判断されるため、入居時の写真記録が重要
賃貸のカビの負担区分は?国交省ガイドラインの基準

カビの退去費用に関する法的解釈を理解するには、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が参考になります。
このガイドラインでは、「通常損耗」と「特別損耗」を区別し、それぞれの費用負担者を明確にしています。
通常損耗とは、通常の住まい方をしていても避けられない劣化や損耗のことで、これは大家さん負担となります。
一方、特別損耗とは、入居者の故意・過失、注意義務違反、通常の使用を超える使用によって生じた損耗のことで、これは入居者負担となります。
カビに関して言えば、結露を防ぐための換気不足や清掃不足によって生じたカビは、入居者の管理義務違反として「特別損耗」とみなされることがあります。
ただし、建物の構造上の問題(断熱不足や換気設備の不備など)が原因でカビが発生した場合は、大家さん負担となるケースが多いです。
ガイドラインでは、「入居者が通常の注意を払っていても発生するカビ」と「入居者の管理不足で発生するカビ」を区別していますが、その線引きが難しく、トラブルになりやすい点に注意が必要です。
賃貸のカビはどこにできる?賃貸住宅でカビが発生する典型的なケース
賃貸住宅でカビが発生する典型的なケースとして、以下のようなパターンが挙げられます。

- 浴室のカビ:湿度が高く、換気が不十分な場合に天井や壁、目地などにカビが発生
- 結露によるカビ:窓周りや外壁に面した壁などで結露が発生し、そこからカビが広がる
- 押入れ・クローゼットのカビ:通気性が悪く、湿気を含んだ衣類などを収納することでカビが発生
- キッチン周りのカビ:調理による水蒸気や油汚れが原因でカビが発生
- エアコン内部のカビ:清掃不足により内部にカビが繁殖し、使用時に胞子が室内に拡散
国土交通省の調査によると、賃貸住宅の退去時トラブルの約30%がカビや結露に関するものと報告されています。
特に梅雨時期や冬季の結露が多い時期に引っ越す場合、カビの問題が表面化しやすくなります。
管理会社によると、カビが原因で退去費用が発生するケースの多くは、定期的な換気や清掃などの日常的なメンテナンスが不足していたことが要因とされています。
カビ?それとも汚れ?紛らわしい類似問題との違い
カビと混同されやすい他の賃貸問題として、以下のようなものがあります。

問題 | 特徴 | 責任の所在 |
---|---|---|
カビ | 黒や緑の斑点状、湿気の多い場所に発生、独特の臭い | 原因による(構造問題→大家、管理不足→入居者) |
水垢 | 白っぽい膜状の汚れ、水回りに発生、臭いはない | 基本的に入居者の清掃義務範囲 |
結露染み | 湿気が引いた後に残る輪染み、カビではない | 構造的問題か生活習慣かで判断 |
経年変色 | 時間経過による自然な変色、均一に広がる | 基本的に通常損耗(大家負担) |
カビかどうかを判断するポイントとしては以下の通りです。
- 黒や緑色の点状または斑点状の広がりがあるか
- こすっても簡単に落ちないか
- かび臭い独特の臭いがするか
- 湿気の多い環境で発生しているか
これらの特徴があれば、カビである可能性が高いと言えます。
単なる汚れであれば、一般的な清掃で落とせるケースが多いですが、カビの場合は専門的な処理が必要になることがあります。
賃貸のカビの退去費用はいくら?解決プロセスと相場
カビが原因で発生した損害の退去費用を解決するプロセスは以下の通りです。

- 退去時の立会い検査でカビの範囲と程度を確認する
- カビの原因(構造的問題か管理不足か)を特定する
- 原状回復の範囲と方法を決定する(部分的清掃・消毒か、壁紙張替えか)
- 費用の見積もりと負担割合を決定する
- 敷金からの精算または追加請求の形で精算する
賃貸の浴室のカビの退去費用はいくら?天井や壁の黒ずみ
浴室は住宅内で最も湿度が高くなる場所です。
シャワーや入浴によって発生する水蒸気が天井や壁に結露し、換気が不十分だとカビの温床となります。
特に天井部分は水蒸気が上昇して集まりやすく、カビが発生しやすい傾向があります。
カビの状況 | 処理方法 | 相場費用 | 一般的な負担者 |
---|---|---|---|
天井の表面カビ | カビ取り清掃 | 8,000円〜20,000円 | 入居者(換気不足の場合) |
壁面の表面カビ | カビ取り清掃 | 10,000円〜25,000円 | 入居者(換気不足の場合) |
天井の広範囲カビ | 塗装やパネル交換 | 25,000円〜50,000円 | 原因による(換気設備の不備なら大家) |
目地のカビ | 専門清掃 | 5,000円〜15,000円 | 入居者(清掃不足の場合) |
浴室のカビは日常的な換気不足や拭き取り不足が原因となることが多いため、入居者負担となるケースが多いです。
ただし、換気扇の性能不足や防カビ加工の経年劣化など、設備的な問題が関係している場合は大家負担となる可能性もあります。
賃貸の窓枠周りのカビの退去費用はいくら?結露が原因
窓枠や窓周りの壁面は、室内外の温度差によって結露が発生しやすい箇所です。
特に冬季は室内の暖かい空気が冷たい窓ガラスに触れて水滴となり、その水分がカビを発生させます。
断熱性の低い窓や結露対策が不十分な古い物件では特に注意が必要です。
カビの状況 | 処理方法 | 相場費用 | 一般的な負担者 |
---|---|---|---|
窓枠の表面カビ | カビ取り清掃 | 5,000円〜15,000円 | 共同負担の可能性(物件の断熱性による) |
窓周りの壁紙カビ | 壁紙部分張替え | 15,000円〜30,000円 | 共同負担の可能性(断熱性による) |
窓枠のシーリング劣化 | シーリング打ち直し | 10,000円〜20,000円 | 大家(構造問題の場合) |
窓サッシ内部のカビ | 専門清掃 | 8,000円〜18,000円 | 原因による |
窓枠周りのカビは、物件の断熱性能に関わる問題のため、単純に入居者負担とはならないケースも多いです。
特に毎日結露を拭き取るなどの対策をしていたにもかかわらずカビが発生した場合は、構造上の問題として大家負担となる可能性があります。
賃貸の押入れ・クローゼットのカビの退去費用はいくら?湿気と通気性不足
押入れやクローゼットは閉鎖的な空間で通気性が悪く、湿った衣類や布団を収納することでカビが発生しやすい環境となります。
特に外壁に面した押入れは結露の影響も受けやすく、壁紙や天袋、床にカビが広がることがあります。
カビの状況 | 処理方法 | 相場費用 | 一般的な負担者 |
---|---|---|---|
壁紙の表面カビ | カビ取り清掃 | 8,000円〜20,000円 | 入居者(収納方法による場合) |
壁紙の広範囲カビ | 壁紙部分張替え | 15,000円〜35,000円 | 原因による |
クローゼット全面カビ | 全面張替え | 30,000円〜60,000円 | 原因による |
押入れ内装材のカビ | 専門清掃または交換 | 20,000円〜40,000円 | 原因による |
押入れのカビは、湿った物の収納や通気性確保の不足が原因となることが多いため、基本的に入居者負担となるケースが多いです。
ただし、断熱不足による結露が主な原因の場合は、大家負担となる可能性もあります。
賃貸の床のカビの退去費用はいくら?水漏れや結露の放置
床のカビは主に漏水事故や水こぼしの放置、床下の湿気などが原因で発生します。
フローリングの場合は継ぎ目に水が入り込むことでカビが発生し、カーペットの場合は繊維の間に湿気がこもることでカビが広がります。
カビの状況 | 処理方法 | 相場費用 | 一般的な負担者 |
---|---|---|---|
フローリング表面カビ | 部分清掃 | 10,000円〜20,000円 | 入居者(水漏れ放置の場合) |
フローリングの深刻なカビ | 部分張替え | 20,000円〜40,000円/㎡ | 原因による |
カーペットのカビ | カーペット張替え | 15,000円〜30,000円/㎡ | 入居者(管理不足の場合) |
床下・構造材のカビ | 専門業者による処理 | 50,000円〜 | 大家(構造問題の場合) |
床のカビは原因によって負担者が異なります。
水漏れを放置したなど明らかな管理不足の場合は入居者負担となりますが、床下からの湿気や建物の構造的な問題が原因の場合は大家負担となることが多いです。
賃貸の壁面のカビの退去費用はいくら?結露や通気性不足
壁面のカビは主に結露や家具の配置による通気性不足が原因です。
特に北側の部屋や日当たりの悪い部屋、エアコンの風が当たる箇所などでカビが発生しやすくなります。
また、外壁に面した壁は断熱性の問題で結露しやすく、カビのリスクが高まります。
カビの状況 | 処理方法 | 相場費用 | 一般的な負担者 |
---|---|---|---|
部分的な表面カビ | カビ取り清掃 | 5,000円〜15,000円 | 入居者(家具配置等による場合) |
壁紙の部分的カビ | 壁紙部分張替え | 15,000円〜30,000円 | 原因による |
壁紙の広範囲カビ | 壁紙全面張替え | 25,000円〜80,000円 | 原因による(構造問題なら大家) |
壁の構造材のカビ | 専門業者による処理 | 50,000円〜 | 大家(構造問題の場合) |
壁面のカビは、家具の配置や換気不足などの生活習慣に起因する場合は入居者負担となりますが、断熱不足や構造的な問題による結露が原因の場合は大家負担となる可能性が高いです。
民法第621条では、賃借人の原状回復義務について規定されていますが、「通常の使用による損耗」については回復義務から除外されています。
- カビの原因究明が費用負担の分岐点となる
- 経年劣化による減価償却を考慮する必要がある(築年数が経つほど入居者負担は減少)
- 入居時の状態証明(写真など)が重要な証拠となる
- 専門家の意見を求めることで公平な判断を得られる場合がある
- 場所によってカビの発生原因と対策が異なるため、個別に対応を検討する必要がある
カビが構造的な問題から発生した場合は、この「通常損耗」に含まれる可能性が高いです。

賃貸のカビを防いで退去費用を抑えるには?効果的な予防策

カビのトラブルを事前に防ぐためには、日常的な予防が最も効果的です。
カビは一度発生すると完全な除去が難しく、健康被害や建材の劣化の原因にもなります。
予防の基本は湿度管理と換気です。
湿度を60%未満に保つことがカビ予防の鍵となります。
特に梅雨時期や冬季は結露が発生しやすいため、定期的な換気や除湿が重要です。
また、水回りの使用後は水気を拭き取り、乾燥させることも効果的です。
家具の配置にも注意が必要です。壁との間に隙間を作り、空気の流れを確保することで、カビの発生リスクを減らすことができます。
- 1日2回以上(朝・晩)の換気を習慣にする(特に結露しやすい時期)
- 浴室は使用後に換気扇を30分以上回し、壁面の水気を拭き取る
- 除湿機や調湿材を活用して湿度管理を行う
- 結露が発生したらすぐに拭き取り、その箇所を乾燥させる
- 定期的に家具を動かし、風通しを確保する
特に北側の部屋や日当たりの悪い場所では、より意識的な対策が必要です。
また、入居時に部屋の状態(特に過去のカビ跡など)を写真で記録しておくことも、退去時のトラブル防止に役立ちます。
問題を発見した場合は、早めに管理会社に連絡することで、小さな問題が大きくなることを防ぐことができます。
賃貸のカビの退去費用に関するよくある質問Q&A
まとめ

賃貸住宅でのカビ問題は、退去時の費用トラブルの大きな原因の一つです。
カビが「通常損耗」と「特別損耗」のどちらに該当するかによって、費用負担者が変わってきます。
カビの発生を防ぐためには、日常的な換気や湿度管理が重要です。
特に浴室やキッチン、クローゼットなど湿気がこもりやすい場所は注意が必要です。
また、結露が発生した場合はすぐに拭き取り、乾燥させることが重要です。
退去時にカビが原因で費用を請求された場合は、カビの原因や範囲、築年数などを考慮して、適正な費用負担を話し合いましょう。
国土交通省のガイドラインを参照しながら、冷静に交渉することが解決への近道です。
入居時の状態確認と記録、日常的なカビ予防、問題発生時の早期対応が、カビによる退去費用トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
適切な対応で、快適な賃貸生活と円満な退去を実現しましょう。
これは一般的な情報提供であり、個別の事例については専門家への相談をお勧めします。
地域や契約内容によって対応が異なる場合がありますので、具体的な問題については不動産の専門家や法律の専門家にご相談ください。
