【カビによる賃貸アパートの退去費用】経年劣化が適用される場合と注意点

賃貸アパートに長期間住んだ後にカビが発生した場合、退去費用の算定には国土交通省の原状回復ガイドラインに基づく「経年劣化」と「借主の過失」の区別が極めて重要になります。
特に6年、8年、10年、15年といった長期居住では、風呂場などの湿気の多い箇所に生じたカビは自然発生とみなされることもあり、借主負担となるかどうかは物件の状態や契約内容、カビの程度によって大きく左右されるでしょう。
退去時には明細の開示を求め、費用の妥当性を冷静に確認することが適正な精算とトラブル回避につながります。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
カビによる退去費用は経年劣化が適用されるのか?
国土交通省の原状回復ガイドラインによると、カビの発生については経年劣化の概念が適用される場合と借主負担となる場合があります。
経年劣化とは、時間の経過とともに自然に生じる劣化のことで、通常の使用による消耗を指すでしょう。
一方で、借主の使用方法や清掃不足が原因でカビが発生した場合は、借主負担となる可能性があります。
経年劣化が適用されるカビの判定基準
長期居住における経年劣化の判定には、以下の要素が考慮されます。

- 居住期間の長さ(6年以上の長期居住は経年劣化が認められやすい)
- 建物の構造的な湿気対策の有無(換気設備の不備など)
- カビの発生箇所(風呂場や北側の部屋など湿気がたまりやすい場所)
- 借主の日常的な清掃状況(通常の清掃を行っていたかどうか)
- 契約書に明記された特約事項の内容
10年以上住んだ物件では、通常の使用によるカビ発生は経年劣化として扱われることが多くなります。

特に風呂場のカビは湿気という環境的要因が大きく、借主だけの責任ではないことが多いでしょう。ただし、換気扇を全く使わずに放置したような明らかな過失がある場合は別です。
風呂場など湿気の多い箇所のカビは借主負担になるのか?
風呂場や洗面所、北向きの部屋など湿気の多い箇所に発生したカビについては、建物の構造的要因と使用状況の両方を考慮して判断されます。
原状回復ガイドラインでは、構造的な問題によるカビは貸主負担、借主の使用方法に問題があった場合は借主負担と明確に区分されているでしょう。
貸主負担となるカビの具体例
以下のようなケースでは、カビの除去費用は貸主負担となることが多くあります。


- 雨漏りや配管の不具合による湿気でカビが発生した場合
- 換気設備の故障や不備によるカビの発生
- 結露防止対策が不十分な建物構造によるカビ
- 入居時から既にカビが発生していた箇所の拡大
- 6年以上の長期居住による自然発生と認められるカビ
借主負担となるカビの具体例
反対に、明らかに借主の使用方法に問題があった場合は借主負担となります。


- 換気扇を全く使用せず、故意に湿気を放置した場合
- カビを発見したにも関わらず長期間清掃を怠った場合
- 結露の拭き取りを全く行わずカビを発生させた場合
- 部屋干しを過度に行い、異常な湿度を発生させた場合
- 水濡れを放置してカビを拡大させた場合



重要なのは、通常の生活での使用であったかどうかです。普通に換気をして清掃を行っていたにも関わらずカビが発生した場合は、経年劣化とみなされることが多くなります。
契約書の特約事項はカビの費用負担にどう影響するのか?
賃貸借契約書に記載された特約事項は、カビの費用負担を決定する重要な要素となりますが、すべての特約が有効というわけではありません。
国土交通省のガイドラインでは、借主に過度な負担を課す特約は無効とされる場合があると明記されているでしょう。
有効な特約の条件
カビに関する特約が有効とされるためには、以下の条件を満たす必要があります。


- 特約の内容が明確で具体的に記載されている
- 借主が特約の内容を理解し同意している
- 費用負担が社会通念上合理的な範囲内である
- 借主の故意過失に限定された内容である
- 経年劣化分を除いた適正な費用設定がされている
無効とされる可能性が高い特約
以下のような特約は、消費者契約法や民法の観点から無効とされる可能性があります。
無効とされやすい特約 | 理由 |
---|---|
カビ発生時は借主が100%負担 | 経年劣化を考慮せず過度な負担 |
居住期間に関係なく全額負担 | 合理性を欠く内容 |
カビの原因を問わず借主負担 | 貸主の責任を免除する不当条項 |
清掃費用を一律で高額請求 | 実費を超える不当な利益 |



特約があっても、国土交通省のガイドラインに反する内容は無効となることがあります。退去時に不当な請求を受けた場合は、まず契約書の内容を詳しく確認しましょう。
退去費用の明細開示を求める方法と確認ポイントは?
退去時にカビの除去費用やハウスクリーニング費用を請求された場合、詳細な明細書の開示を求めることが借主の正当な権利になります。
不透明な請求内容を受け入れることなく、費用の妥当性を冷静に判断することが重要でしょう。
明細開示の要求手順
以下の手順で詳細な明細の開示を求めることができます。


- 書面での明細開示を要求(口約束ではなく文書で)
- 作業内容の詳細説明を求める
- 使用する材料や薬剤の種類と価格の明示
- 作業時間と人件費の内訳確認
- 複数業者からの見積もり比較の要求
費用の妥当性を判断するチェックポイント
明細を受け取った後は、以下のポイントで費用の妥当性を確認しましょう。


- 市場価格と比較して適正な金額設定か
- 経年劣化分の減額が適切に行われているか
- カビの範囲と作業内容が見合っているか
- 不必要な作業が含まれていないか
- 材料費や人件費が明確に分けられているか



明細の開示を拒否したり、曖昧な説明しかしない場合は要注意です。適正な業者であれば詳細な内訳を提示できるはずですので、納得いくまで説明を求めましょう。
消費者センターなど第三者機関への相談はいつすべきか?
納得できない退去費用の請求を受けた場合、早期に第三者機関へ相談することで適正な解決につながる可能性が高くなります。
一人で悩んで無理に合意するよりも、専門的な助言を受けながら対応することが重要でしょう。
相談を検討すべきタイミング
以下のような状況では、迷わず第三者機関への相談を検討してください。


- 明細の開示を拒否された場合
- 請求金額が明らかに高額すぎる場合
- 経年劣化を全く考慮しない請求を受けた場合
- 契約書にない費用を請求された場合
- 貸主や管理会社が話し合いに応じない場合
相談先と各機関の特徴
賃貸トラブルの相談ができる主な機関は以下の通りです。
相談先 | 特徴・メリット |
---|---|
消費生活センター | 無料相談・あっせん・調停が可能 |
法テラス | 法的手続きの案内・弁護士紹介 |
宅地建物取引業協会 | 業界の専門知識・業者への指導 |
簡易裁判所 | 少額訴訟・民事調停の利用 |
法的な手続きが必要になる場合は、認定司法書士や弁護士への相談も検討することが重要になります。



複雑な法的判断が必要な場合は、行政書士の業務範囲を超えるため、認定司法書士や弁護士への相談をお勧めします。早めの専門家相談が解決への近道となるでしょう。
【まとめ】カビの退去費用は適正な判断と早期相談が重要
賃貸アパートでのカビによる退去費用については、国土交通省の原状回復ガイドラインに基づいた適正な判断が必要になります。
長期居住における経年劣化の考慮、風呂場など湿気の多い箇所での自然発生、契約書の特約内容の妥当性を総合的に判断することが重要でしょう。
退去時には明細の詳細な開示を求め、費用の妥当性を冷静に確認してください。
納得できない請求については、早期に消費者センターなど第三者機関への相談を検討し、必要に応じて認定司法書士や弁護士への専門的相談も活用することで、適正な解決につながるでしょう。
- 6年以上の長期居住では経年劣化が適用される可能性が高い
- 風呂場などの湿気箇所は構造的要因と使用状況で判断される
- 契約書の特約でもガイドラインに反する内容は無効の場合がある
- 退去費用は必ず詳細な明細の開示を求める
- 納得できない請求は第三者機関への早期相談が重要

