貸主からの内容証明郵便を無視しても大丈夫?

賃貸住宅を退去する際、貸主から内容証明郵便が届くケースがあります。
特に原状回復費用や敷金精算に関する内容が多く、受け取った借主は「無視しても問題ないのか」と不安を感じることでしょう。
内容証明郵便は法的効力を持つ重要な書面であり、適切な対応が必要です。
この記事では、内容証明郵便の基本的な性質から、無視した場合のリスク、そして正しい対処法まで詳しく解説します。
賃貸トラブルを避け、適切な解決を図るための知識を身につけましょう。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
内容証明郵便の法的性質とその法的根拠および基本的な理解
内容証明郵便を無視しても良いかどうかの判断は、「送付された内容の法的根拠の妥当性」と「債務の存在の有無」によって決まります。
内容証明郵便自体に法的強制力はありませんが、法的手続きの前段階として重要な意味を持ちます。
民法第97条および第98条では、意思表示の到達と効力について規定されており、内容証明郵便は確実な意思表示の手段として位置づけられています。

- 民法第97条(隔地者に対する意思表示)
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。 - 民法第98条(公示による意思表示)
意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合には、家庭裁判所の許可を得て、公示の方法によってすることができる。 - 民法第166条(債権等の消滅時効)
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、賃貸借契約における適正な費用負担について明確な基準が示されており、貸主からの請求が妥当かどうかを判断する際の重要な指針となります。
内容証明郵便による請求には時効中断(現在は時効完成猶予)の効果があり、一般的な債権の消滅時効は5年、不法行為による損害賠償請求権は3年とされています。
また、賃貸借契約に関する敷金返還請求権や原状回復費用請求権についても、具体的な時効期間が適用されます。
つまり、貸主からの内容証明郵便を無視することは法的リスクを伴うため、内容の妥当性を慎重に検証し、必要に応じて専門家に相談した上で適切な対応を取ることが重要です。
貸主からの内容証明郵便を無視しても大丈夫?

内容証明郵便が郵送されてくるケース
賃貸住宅における内容証明郵便の送付は、主に原状回復費用の請求や敷金精算に関する争いが発生した際に行われます。
退去時の立会いで双方の認識に相違が生じたり、借主が貸主の請求内容に納得できない場合などが典型例です。
具体的には、壁紙の張替え費用やハウスクリーニング代の負担割合、設備の故障や破損に関する修繕費用の請求などが挙げられます。
貸主側としては、正式な請求の意思を明確に示し、後の法的手続きに備える意味で内容証明郵便を利用することが多いのです。
また、借主との話し合いが平行線をたどり、解決の糸口が見えない状況で最終通告として送付されるケースも少なくありません。
内容証明郵便を無視した場合に発生するリスク
内容証明郵便を無視することは、様々な法的リスクを伴います。
最も重要なのは、時効の中断効果が発生する可能性があることです。
民法上の債権は一定期間で時効消滅しますが、内容証明郵便による催告があった場合、時効の進行が停止される場合があります。
さらに深刻なのは、無視を続けることで貸主側が民事訴訟や少額訴訟などの法的手続きに踏み切る可能性が高まることです。
この場合、借主が応訴しなければ、貸主の主張がそのまま認められる欠席判決が下される危険性があります。
欠席判決が確定すると、借主にとって非常に不利な内容であっても、後から覆すことは極めて困難になります。
また、判決に基づく強制執行により、給与や預金の差押えなどの財産処分を受ける可能性もあるのです。
内容証明郵便を受け取った場合に適切に対応する方法
内容証明郵便を受け取った場合は、まず冷静に内容を精査することが重要です。
請求の根拠や金額の妥当性を検討し、国土交通省ガイドラインや賃貸借契約書の内容と照らし合わせて判断しましょう。
不明な点や疑問がある場合は、地域の消費生活センターや法テラスなどの相談窓口を活用することをお勧めします。
対応方法としては、まず書面による回答を検討しましょう。
請求内容に同意する場合は支払い方法などの調整を、異議がある場合は具体的な反駁理由を明記した書面を作成します。
話し合いによる解決が困難な場合は、調停制度の利用も有効な選択肢です。
簡易裁判所の民事調停では、中立的な調停委員が間に入って解決を図ってくれます。
重要なのは、無視や放置ではなく、適切な手続きに基づいて対応することです。
内容証明郵便に関するよくある質問
まとめ

貸主からの内容証明郵便を無視することは、法的リスクを伴う危険な行為です。
時効の中断や訴訟手続きの開始など、借主にとって不利な結果を招く可能性があります。
受け取った際は、内容を冷静に検討し、国土交通省ガイドラインに基づいて請求の妥当性を判断することが重要です。
不明な点があれば専門機関に相談し、適切な書面回答を行いましょう。
無視や放置ではなく、建設的な対話により円満な解決を目指すことが、賃貸トラブルを最善の形で解決する道筋となります。
- 受領後は速やかに内容を精査し対応方針を決定
- 専門機関への相談により適切なアドバイスを受ける
- 書面による回答で意思を明確に伝達
- 調停制度の活用により円満解決を図る
- 無視や放置は法的リスクを高めるため避ける
