[事例37]更新料特約は消費者契約法10条並びに民法第1条2項に違反せず有効であるとした上で通常損耗の範囲について判断した事例
本件は、賃借人Yが賃貸人Xに対して敷金返還を求めた事例です。裁判所は、賃借人Yが負担すべき原状回復費用の範囲を限定し、通常損耗を超える部分については貸主が負担すべきと判断しました。また、更新料特約の有効性や無催告解除の有効性についても争われました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Yは、平成16年2月13日に訴外Aと賃貸借契約を締結し、敷金66万4000円を支払いました。
その後、賃貸人Xに賃貸人たる地位が移転し、平成20年2月14日に契約が更新され、更新料33万2000円が支払われました。
しかし、賃借人Yは賃料を滞納し、平成21年2月以降は一切支払わなかったため、賃貸人Xが契約を解除し、未払賃料や遅延損害金、そして、原状回復費用を求めて提訴しました。
- 洗面所 給湯室扉クロス張替え: 2200円
- トイレ 壁クロス張替え: 5160円
- 和室 障子張替え: 9000円
- LD 網戸張替え: 3000円
- LD 照明引掛シーリング取付け: 2500円
- カーペットクリーニング: 8万2200円
- ハウスクリーニング: 12万4670円
- クロス貼替貸主負担分: ▲6337円(貸主負担分のため差し引く)
賃借人Yは、敷金返還債権や更新料の不当利得返還請求権を主張し、相殺を試みました。
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃借人の負担項目
- 洗面所 給湯室扉クロス張替え
- トイレ 壁クロス張替え
- 和室 障子張替え
- LD 網戸張替え
- LD 照明引掛シーリング取付け
賃貸人の負担項目
- カーペットクリーニング
- ハウスクリーニング
- クロス貼替貸主負担分
裁判所は、賃貸人Xの無催告解除が有効であると判断し、賃借人Yの賃料滞納を理由に解除が正当であると認めました。
また、更新料特約は消費者契約法10条に反せず、信義則に反して賃借人Yの利益を著しく害するものではないため有効とされました。
原状回復費用については、通常損耗を超える部分(カーペットクリーニング8万2200円、ハウスクリーニング12万4670円)は貸主負担とし、賃借人Yが負担すべき費用は洗面所やトイレの修繕費など1万6299円に限定されました。
最終的に、未払賃料等に原状回復費用を加えた金額に対し、敷金返還債権66万4000円をもって相殺することが認められ、賃貸人Xの請求は一部認容され、賃借人Yの敷金返還請求も一部認められました。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 通常損耗の範囲の明確化
- 更新料特約の有効性
- 原状回復費用の証拠保全
- 契約書の重要性
賃貸借契約においては、通常損耗の範囲を具体的に明記し、賃借人に説明することが重要です。
これにより、原状回復費用の負担範囲を明確にすることができます。
また、更新料特約は消費者契約法10条に反しない限り有効ですが、信義則に反する場合には無効となる可能性があるため、契約内容の公平性に留意する必要があります。
さらに、貸主は原状回復費用が通常損耗を超えることを証明するために、適切な証拠を保全することが重要です。
これにより、費用負担の正当性を主張することが可能となります。
最後に、契約書に特約を明記し、賃借人に説明することで、紛争を未然に防ぐことができます。
特に、通常損耗に関する特約は、口頭での説明だけでなく、書面での合意が望ましいです。