[事例42]通常損耗についての原状回復費用を保証金から定額で控除する方法で賃借人に負担させる特約が有効とされた事例
本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して、賃貸借契約終了時に通常損耗についての原状回復費用を控除された敷金の返還を求めた事案です。裁判所は、賃貸借契約に定められた敷引特約が有効であると判断し、賃借人Xの請求を棄却しました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Xは、賃貸人Yとの賃貸借契約締結時に40万円の保証金を交付しました。
契約終了後、賃貸人Yは、契約経過年数に応じて控除額を差し引いた19万円を返還しました。
これに対し、賃借人Xは、通常損耗についての原状回復費用21万円の控除が消費者契約法10条に違反するとして、返還を求めて提訴しました。
- 原状回復一式
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃借人の負担項目
- 通常損耗等の補修費用
賃貸人の負担項目
- 通常損耗及び自然損耗
裁判所は、通常損耗等についての原状回復義務や補修費用の負担は賃借人にはないとしつつも、本件特約は賃借人の義務を加重するものではないと判断しました。
敷引特約が契約書に明示されており、賃借人は敷引金の額を認識した上で契約を締結していることから、その有効性を認めました。
さらに、本件特約は契約経過年数に応じて18万ないし34万円を保証金から控除するもので、通常損耗等の補修費用として想定される額を大きく超えるものではなく、賃料や他の一時金の授受状況からも敷引金の額が高額に過ぎると評価できないとしました。
以上を踏まえ、原審の判断を是認し、本件特約が消費者契約法10条に違反しない有効なものであると結論付け、賃借人Xの請求を棄却しました。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 敷引特約が明示と合理性
- 賃借人の認識と合意
- 敷引特約の説明と確認
賃貸借契約において、敷引特約が明示されており、その内容が合理的であれば有効とされます。
賃借人は契約締結時に敷引金の額を十分に認識し、その負担について合意することが重要です。
一方、賃貸人は敷引特約の内容を明確にし、賃借人に対して十分な説明を行う必要があります。
賃借人も契約内容をしっかりと理解し、特に敷引金の額について確認することが求められます。