この事例の概要
本件は、賃貸借契約の中途解約に伴う違約金条項の有効性と、原状回復工事の必要性について判断された事例です。裁判所は、違約金条項を消費者契約法10条違反として無効とし、また通常損耗については賃借人に原状回復義務がないことを明確に示しました。
行政書士 松村 元
監修者
自己紹介文要約:
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
目次
事例の背景
賃借人Xは賃貸人Yと月額賃料23万5000円の賃貸借契約を締結しましたが、約7ヶ月後に解約を申し入れました。
退去時に賃貸人は様々な原状回復工事を要求し、違約金の支払いも求めました。
- 床板塗装工事:12万0750円
- クロスの張替え:15万7920円
- ルームクリーニング:5万2500円
- その他諸経費:3万6330円
- 違約金:30万4500円
これに対し賃借人Xが敷金返還等を求めて提訴しました。
- 敷金返還:70万5000円
- 工事代金の償還請求:31万5000円
- 違約金の返還請求:30万4500円
一方の賃貸人Yも反訴を提起したことで裁判となりました。
- 鍵交換費用:2万1000円
- 家賃相当額の損害金:47万円
- 出動費:2万6250円
- 原状回復工事費用相当額:79万5465円
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃貸人の負担項目
- 床板塗装工事
- クロスの張替え
- 鍵交換費用
- その他諸経費
本件において裁判所は、契約における違約金条項が消費者契約法10条に反し、賃貸人の平均的な損害を超えるため無効と判断しました。
原状回復義務については、賃借人による通常損耗を超える使用は認められないとして、床板塗装工事やクロスの張替えなどの工事は不要とし、ハウスクリーニング費用のみを賃借人の負担としました。
敷金からの控除は、このハウスクリーニング費用と賃貸借終了後の日割り賃料に限定され、その他の原状回復工事費用は認められませんでした。
結果として裁判所は、敷金60万5284円の返還、工事代金31万5000円の償還、違約金30万4500円の返還を命じる判決を下しました。
まとめ
結論
- 賃貸人からの請求金額:1,984,715円
- 裁判所の判決:141,716円
- 預け入れた保証金:705,000円
- 保証金の返還額:605,284円
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
本判例から導かれる実務上の重要な示唆は、賃貸借契約における3つの重要な要素に関係します。
まず、違約金条項を設定する際は、賃貸人に実際に生じる平均的な損害額を超えない範囲とし、その算定根拠を明確にする必要があります。
次に、原状回復工事については、通常損耗は賃貸人の負担が原則であり、賃借人に負担を求める場合でも、特約の存在を前提に合理的な範囲内に限定されます。
最後に、敷金の精算においては、控除できる項目を実際に発生した損害に基づくものに限定し、特に賃借人の故意・過失による損害については、賃貸人側で明確な立証が求められます。
参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)