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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例28]敷引特約が、消費者契約法に反し無効とされた事例

この事例の概要

本件は、賃貸借契約における敷引特約(敷金の一部を返還しないとする特約)が消費者契約法に違反し無効とされた事例です。賃借人Xは敷金の返還を求めたのに対し、賃貸人Yは原状回復費用を理由に敷金以上の損害賠償を反訴請求しました。裁判所は、敷引特約が消費者に過剰な負担を課すものであり、信義則に反するとして無効と判断しました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xと賃貸人Yは、平成14年7月に月額賃料4万5000円の賃貸借契約を締結し、敷金として40万円を支払いました。

契約書には、明け渡し時に敷金の一部(20万円)を差し引いて返還する「敷引特約」が記載されていました。

賃借人Xは平成17年8月に物件を明け渡しましたが、敷引特約が無効であるとして、敷金40万円から毀損部分を差し引いた39万8425円の返還を請求しました。

これに対し、賃貸人Yは敷金以上の原状回復費用がかかったとして、46万8745円の損害賠償を反訴請求しました。

  • 原状回復費用一式

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • 通常の使用を超える損耗部分

賃貸人の負担項目

  • 自然損耗部分

裁判所は、敷引特約が賃借人に賃料以外の金銭負担を課すものであり、法律上予定されていないと指摘しました。

さらに、関西地方における慣習としての成立を認める証拠もなく、消費者である賃借人の権利を不当に制限するものと判断しました。

自然損耗に関する費用は賃料に含まれており、敷引特約による二重の負担は信義則に反し、消費者契約法10条に違反すると結論づけました。

また、賃借人Xの通常の使用を超える部分について、経過年数を考慮し、敷金から13万735円(消費税別)を差し引くことを認めました。

その結果、賃借人Xの敷金返還請求の一部が認容され、賃貸人Yの反訴請求は棄却されました。

最終的に、敷引特約は無効とされ、賃借人Xは敷金の一部(26万2729円)の返還を受けることが認められ、賃貸人Yの損害賠償請求は認められませんでした。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:468,745円
裁判所の判決:130,735円
預け入れた保証金:400,000円
保証金の返還額:269,265円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 敷引特約
  • 具体的な証拠
  • 特約内容の公平性

敷引特約は、消費者契約法に違反する可能性が高く、特に消費者に過剰な負担を課す場合には無効とされるリスクがあります。

賃貸人は、原状回復費用を請求する際、賃借人の通常の使用範囲を超える部分について具体的な証拠を提示する必要があります。

また、賃貸借契約においては、消費者保護の観点から特約内容が公平であるかどうかを慎重に検討し、敷金の取り扱いについて明確な根拠を示すことで、賃借人に不当な負担を課さないよう注意すべきです。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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