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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例24]通常損耗に関する補修費用を賃借人が負担する旨の特約が成立していないとされた事例

この事例の概要

本件は、賃借人が賃貸住宅を明け渡す際に、通常の使用に伴う損耗(通常損耗)についての補修費用を負担するかどうかが争われた事例です。最高裁判所は、通常損耗に関する補修費用の負担を賃借人に求めるためには、契約書に具体的な特約が明記されているか、賃借人がその内容を明確に認識し合意している必要があると判断しました。本件ではそのような特約が認められないとして、賃貸人が敷金から差し引いた補修費用の返還を命じました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、賃貸人Yとの間で平成10年2月1日、月額11万7900円の賃料で特定優良賃貸住宅の賃貸借契約を締結し、敷金35万3700円を交付しました。

契約書には、賃借人が退去時に原状回復義務を負う旨の条項(22条2項)があり、補修費用の負担区分についても定められていました。

Xは平成13年4月30日に契約を解約し、住宅を明け渡しましたが、Yは敷金から通常損耗を含む補修費用30万2547円を差し引いて返還しました。

Xは未返還分の敷金と遅延損害金を請求し、訴訟を提起しました。

  • 壁紙の張替え費用
  • 床の補修費用
  • キッチン周りの補修費用
  • 浴室の補修費用
  • その他の補修費用

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • なし

賃貸人の負担項目

  • 通常損耗に関する補修費用

賃貸借契約において、通常損耗は賃料に含まれる減価償却費や修繕費で賄われるべきであり、賃借人が特別に負担する必要はないとされました。

通常損耗に関する補修費用を賃借人に負担させるためには、契約書に具体的な特約が明記されているか、賃借人がその内容を明確に認識し合意していることが必要です。

本件では、契約書22条2項および負担区分表に通常損耗に関する具体的な特約が明記されておらず、説明会でも説明がなかったため、特約の合意は成立していないと判断されました。

その結果、賃借人Xは通常損耗補修特約を認識しておらず、合意もなかったため、賃貸人Yが敷金から差し引いた補修費用の返還を命じるべきであるとされ、原判決が破棄されました。

最高裁判所は、賃借人Xの請求を認め、賃貸人Yが敷金から差し引いた30万2547円の返還を命じる判決を下し、原審判決は破棄され、差し戻されました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:302,547円
裁判所の判決:0円
預け入れた保証金:353,700 円
保証金の返還額:353,700 円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 契約書に具体的な特約を明記する
  • 書面での確認や説明記録の保存が重要
  • 賃借人に十分な説明を行う

賃貸借契約において、通常損耗に関する補修費用を賃借人に負担させるためには、契約書に具体的な特約を明記することが不可欠です。

また、賃借人が特約の内容を明確に認識し、合意していることを証明するためには、書面での確認や説明記録の保存が重要です。

賃貸人は、補修費用の負担を求める場合、契約書に具体的な条項を設け、賃借人に十分な説明を行う必要があります。

一方、賃借人は契約締結時に補修費用の負担範囲を確認し、不明点があれば書面で確認するよう努めるべきです。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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