この事例の概要
本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸人Yは、賃借人Xにカビ発生の過失があるとして損害賠償を請求しましたが、裁判所はカビの原因が建物の構造上の問題であると判断し、賃借人Xに過失はないと結論づけました。さらに、敷引特約が消費者契約法に反するとして無効とされ、敷金全額の返還が命じられました。
行政書士 松村 元
監修者
自己紹介文要約:
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
目次
事例の背景
賃借人Xと賃貸人Yは、2004年3月28日に1年間の賃貸借契約を締結し、賃借人Xは敷金として25万円を支払いました。
契約には敷引金25万円の特約が含まれていましたが、賃借人Xは2004年12月13日に中途解約を申し入れました。
その後、賃借人Xは敷金の返還を求めましたが、賃貸人Yは解約予告金の未払いと、賃借人Xの過失によるカビ・異臭の発生を理由に反訴を提起しました。
- 1か月分の解約予告金
- カビ・異臭の損害金
- 鍵交換代
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
裁判所は、敷引特約が賃貸人の一方的な利益を図るものであり、消費者契約法10条に違反するため無効であると判断しました。
また、カビの主な原因は建物の構造上の問題による結露であり、賃借人Xは結露に気付いた際に適切に対処していたため、カビ発生について過失はないと認定されました。
さらに、賃貸人は賃借人が快適に生活できるよう建物を維持する義務を履行しておらず、債務不履行とされました。
加えて、鍵交換代は賃借人Xの負担すべき費用ではないと判断されました。
これらの理由から、裁判所は賃借人Xに負担すべき費用はないと結論づけ、賃貸人Yに対して敷金25万円の全額返還を命じました。
まとめ
結論
- 賃貸人からの請求金額:250,000円
- 裁判所の判決:0円
- 預け入れた保証金:250,000円
- 保証金の返還額:250,000円
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 敷引特約の有効性
- 建物の構造上の問題
- 鍵交換代の負担
敷引特約は、消費者契約法に違反する可能性が高く、無効とされるリスクがあるため、賃貸契約においてはその内容を慎重に検討する必要があります。
また、カビや結露などの問題が建物の構造に起因する場合、賃借人に過失はないと判断される可能性が高く、賃貸人は建物の適切な維持管理に努めるべきです。
さらに、鍵交換代は通常、賃借人ではなく賃貸人が負担すべき費用であることが確認されました。
参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)