この事例の概要
本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸人Yは、賃借人Xが退去時に必要な手続きを履行しなかったことを理由に、敷金全額を修繕費用に充当しました。しかし、裁判所は、賃貸人Yが控除すべき費用を具体的に主張できなかったため、敷金の一部返還を認めました。
行政書士 松村 元
監修者
自己紹介文要約:
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
目次
事例の背景
賃借人Xは、平成10年8月に賃貸人Yと賃貸借契約を締結し、敷金24万6000円を支払いました。
平成11年8月27日、双方は契約を合意解除し、賃借人Xは物件を明け渡しました。
しかし、賃貸人Yは、賃借人Xが退去時に必要な検査やルームチェックに立ち会わなかったことを理由に、敷金全額を修繕費用に充当しました。
これに対し、賃借人Xは敷金全額の返還を求めて提訴しました。
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
裁判所は、賃貸人Yが賃借人Xが物件を明け渡した日(平成11年8月27日)までの日割賃料・共益費7万5774円を敷金から控除することを認めました。
一方、賃貸人Yは修繕費用について具体的な主張がなく、金額や項目が不明確であったため、修繕費用の控除は認められませんでした。
その結果、裁判所は敷金24万6000円から日割賃料・共益費を控除した17万226円の返還を賃借人Xに認め、賃貸人Yが控除すべき費用を具体的に立証できなかったことを理由に、敷金の一部返還を命じました。
まとめ
結論
- 賃貸人からの請求金額:246,000円
- 裁判所の判決:75,774円
- 預け入れた保証金:246,000円
- 保証金の返還額:170,226円
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 賃貸人の立証責任
- 賃借人の義務履行
- 管理会社への転嫁の限界
賃貸人は、敷金から控除する費用について具体的な金額と項目を明示する必要があり、控除の根拠が不明確な場合、裁判所は控除を認めない可能性があります。
一方、賃借人は退去時に必要な手続き(検査やルームチェックへの立ち会い等)を履行することが重要ですが、未履行であっても、賃貸人が控除する費用を具体的に立証できなければ、敷金の返還を請求できる可能性があります。
また、賃貸人が管理会社に修繕費用の清算を一任する場合でも、その費用の合理性と必要性を立証する責任は賃貸人にあり、管理会社の判断だけでは不十分です。
参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)