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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例11]賃借人に対して和室 1 室のクロス張替え費用及び不十分であった清掃費用の支払を命じた事例

この事例の概要

本件は、賃貸借契約終了後に賃借人が退去した際、賃貸人が請求した修繕費用と清掃費用のうち、賃借人が負担すべき範囲が争われた事例です。裁判所は、賃借人が通常の使用を超えて損傷させた部分についてのみ修繕費用の負担を認め、その他の費用は賃貸人の負担と判断しました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、平成2年4月16日に賃貸人Yの父親との間でマンションの賃貸借契約を締結しました。

契約期間は2年で自動更新され、賃料は月額6万4000円(最終的には7万4000円)、敷金は17万4000円でした。

賃貸人Yの父親が死亡した後、賃貸人Yが地位を承継しました。平成8年3月23日に契約が終了し、賃借人Xは建物を明け渡しました。

退去時、賃借人X、賃貸人Yの妻、宅建業者が立会いの下、修繕箇所を点検しました。

賃貸人Yは、賃借人Xの使用が通常の損耗を超えるとして、修繕費用と清掃費用を請求しました。

  • 和室Bのクロス張替え費用
  • 和室Bの畳表替え費用
  • 和室Aのクロス張替え費用
  • 洗面所のクロス張替え費用
  • 清掃費用

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • 和室Bのクロス張替え費用
  • 清掃費用

賃貸人の負担項目

  • 和室Bの畳、和室A及び洗面所のクロス

裁判所は、賃借人Xの行為による一部の損傷が部屋全体のクロス張替えを必要とするとして、その費用を賃借人Xの負担と判断しました。

一方、賃貸人Yが主張するその他の損傷は通常の使用による自然的損耗を超える証拠が不十分とされ、これらの修繕費用は賃貸人Yの負担とされました。

また、賃借人Xの退去時の清掃が不十分であったため、清掃費用も賃借人Xの負担とされました。

その結果、賃借人Xは修繕費用21万2940円と清掃費用2万円の合計23万2940円を支払う義務があり、敷金と前払賃料の返還金19万3225円と相殺した後、3万9715円の支払い義務が残ると判断されました。

その後、控訴審で和解が成立し、賃借人Xの負担は敷金相当額となりました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:307,940円
裁判所の判決:212,940円
預け入れた保証金:174,000円
保証金の返還額:0円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 賃借人の修繕義務の範囲
  • 自然的損耗の扱い
  • 清掃義務
  • 費用の相殺

賃借人は、通常の使用を超える損傷についてのみ修繕費用を負担し、部分的な損傷であっても全体の修復が必要な場合にはその費用を負担する可能性があります。

一方、通常の使用による自然的損耗は賃貸人の負担とされ、賃貸人は損傷が自然的損耗を超えることを立証する必要があります。

また、退去時の清掃が不十分な場合、清掃費用は賃借人の負担となります。

さらに、敷金や前払賃料は修繕費用や清掃費用と相殺されることがありますが、その具体的な範囲は裁判所の判断に委ねられます。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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