賃貸アパートに10年住んだ場合の退去費用相場はいくら?

賃貸住宅に長期間住んでいると、退去時に「この設備の交換費用を負担してください」と言われて困惑した経験はありませんか?
焦らずに対処すれば大丈夫です。まずは状況を整理しましょう。
まず重要なポイントを確認し、その後段階的に対処していきます。
特に7~10年という長期間住んでいた場合、「クロス(壁紙)の全面張替え20万円」「フローリングの全面交換30万円」といった高額請求を受けて驚く方も少なくありません。
しかし、多くの建物設備には「耐用年数(使える期間の目安)」が設定されており、この期間を経過した設備については入居者が全額負担する必要がない場合が多いのです。
この記事では、国土交通省が定める「原状回復(元の状態に戻すこと)をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、長期居住者が知っておくべき耐用年数の考え方と適正な退去費用について解説します。
7年以上住んだアパートやマンションで、本当に全額負担が必要なのか、それとも経年劣化(時間が経って自然に古くなること)として家主負担になるのか、その境界線を明確に理解しましょう。
適正な知識を身につけることで、不当な請求から身を守り、公正な費用負担で退去手続きを進めることができます。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
耐用年数による費用負担の基本的な考え方とその法的根拠
賃貸の退去費用における責任の所在は、各設備の「耐用年数」と「入居期間」の関係によって判断されます。
7~10年という長期入居の場合、多くの設備が耐用年数を超えているため、入居者の負担は大幅に軽減されることになります。
民法第606条および第621条では、賃借人には「善管注意義務(注意深く大切に扱う義務)」があるものの、通常の使用による経年劣化については貸主が負担すべきとされています。

- 民法第606条(賃貸人による修繕等)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
- 民法第621条(賃借物の返還等)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、各設備の耐用年数が明確に定められており、壁紙・クロスは6年、カーペットは6年、エアコンは6年、給湯器は6年などとされています。
7~10年の入居期間では、これらの主要設備はすべて耐用年数を超えているため、故意・過失による損傷を除き、基本的に入居者負担はゼロまたは極めて少額となります。
耐用年数を超えた設備については、残存価値(古くなっても残る価値)が1円となり、経年劣化による価値減少は100%となるためです。
つまり、賃貸に7~10年住んだ場合の退去費用相場は、耐用年数を超えた製品が多数あるため、通常の使用であれば大幅に軽減され、適正な交渉により高額請求を回避できる可能性が高くなります。
賃貸に7~10年住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
賃貸を7年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
7年間居住した物件では、多くの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドライン(国が示した原状回復の指針)に基づく主な設備の耐用年数と、7年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約117-140% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約88-117% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-12% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約47-88% | 市場価格の約12-53% |
エアコン | 8〜10年 | 約70-88% | 市場価格の約12-30% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約58-70% | 市場価格の約30-42% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約58-88% | 市場価格の約12-42% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約47-70% | 市場価格の約30-53% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約35-47% | 市場価格の約53-65% |
この表から明らかなように、7年の居住期間後は、壁紙が耐用年数に達しつつあり、畳、ふすま・障子などの内装材はほぼ確実に耐用年数を超過しており、原則として借主負担はゼロとなります。
また、エアコンや給湯器、キッチン設備なども耐用年数に近づいているため、負担割合は低くなることが期待できます。
賃貸を8年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
8年間居住した物件では、多くの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、8年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約133-160% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約100-133% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約53-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-47% |
エアコン | 8〜10年 | 約80-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-20% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約67-80% | 市場価格の約20-33% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約67-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-33% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約53-80% | 市場価格の約20-47% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約40-53% | 市場価格の約47-60% |
この表から明らかなように、8年の居住期間後は、壁紙、畳、ふすま・障子、クッションフロアなどの内装材はほぼ確実に耐用年数を超過しており、原則として借主負担はゼロとなります。
また、エアコンや給湯器、キッチン設備なども耐用年数に達しているか、非常に近い状態と言えるでしょう。
賃貸を9年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
9年間居住した物件では、多くの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、9年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約150-180% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約113-150% (超過可能性あり) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約60-113% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-40% |
エアコン | 8〜10年 | 約90-113% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-10% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約75-90% | 市場価格の約10-25% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約75-113% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-25% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約60-90% | 市場価格の約10-40% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約45-60% | 市場価格の約40-55% |
この表から明らかなように、9年の居住期間後は、壁紙、畳、ふすま・障子、クッションフロアなどの内装材はほぼ確実に耐用年数を超過しており、原則として借主負担はゼロとなります。
また、エアコンや給湯器、キッチン設備なども耐用年数に達しているか、超過している状態と言えるでしょう。
賃貸を10年間住んだ場合の設備・内装材の耐用年数と退去費用相場
10年間居住した物件では、ほとんどの設備や内装材が耐用年数を超過しています。
以下の表は、国土交通省ガイドラインに基づく主な設備の耐用年数と、10年の耐用年数の状況を示したものです。

設備・内装材 | 一般的な耐用年数 | 耐用年数の状況 | 退去費用の相場 |
---|---|---|---|
畳 | 5〜6年 | 約167-200% (超過済み) | 市場価格の約0% |
ふすま・障子 | |||
壁紙(クロス) | 6〜8年 | 約125-167% (超過済み) | 市場価格の約0% |
クッションフロア | |||
フローリング | 8〜15年 | 約67-125% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-33% |
エアコン | 8〜10年 | 約100-125% (超過済み) | 市場価格の約0% |
給湯器 | |||
照明器具 | |||
ドア・建具 | 10〜12年 | 約83-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-17% |
キッチン設備 | 8〜12年 | 約83-125% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-17% |
洗面台 | |||
浴室設備 | 10〜15年 | 約67-100% (超過可能性あり) | 市場価格の約0-33% |
トイレ設備 | |||
便器・浴槽 | 15〜20年 | 約50-67% | 市場価格の約33-50% |
この表から明らかなように、10年の居住期間後は、壁紙、畳、ふすま・障子、クッションフロアなどの内装材はほぼ確実に耐用年数を大幅に超過しており、原則として借主負担はゼロとなります。
また、エアコンや給湯器、キッチン設備なども耐用年数に達しているか超過している状態と言えるでしょう。
賃貸に7~10年住んだ場合の退去費用相場を知るポイントと賃貸借契約書に記載のある注意すべき条項例
長期居住する際は、賃貸借契約書の特約条項を事前に確認することが重要です。
耐用年数による減価償却(時間とともに価値が下がること)とは別に、借主に不利な条項が記載されている場合があるためです。

条項例
- 退去時ハウスクリーニング費用負担に関する条項
借主は契約終了に伴う退去時において、物件の状態及び使用期間の長短に関わらず、専門業者によるハウスクリーニング費用を負担するものとする。清掃範囲は居室、水回り設備、建具等の全箇所とし、貸主指定業者による清掃を実施することを原則とする。 - 畳表替え費用負担に関する条項
借主は退去時において、畳の設置年数や劣化の程度、使用状況に関わらず、全ての畳の表替え費用を負担するものとする。表替えは畳店等の専門業者に依頼し、新調が必要と判断される場合についても借主がその費用を負担する。 - 壁紙張替え費用負担に関する条項
借主の使用により壁紙に損傷、汚損、変色等が生じた場合は、損傷箇所の範囲に関わらず、当該居室の壁紙全面の張替え費用を借主が負担するものとする。部分補修が技術的に可能な場合であっても、美観上の統一を図るため全面張替えを実施する。 - ペット飼育に伴う損傷免責に関する条項
借主が適法にペットを飼育している場合において、ペットに起因する床材への傷、壁面への汚損、臭いの付着等については、善良な管理者としての注意を払っていた場合に限り、借主の原状回復義務の範囲から除外するものとする。 - 喫煙損傷に関する特別負担条項
借主又はその関係者による室内喫煙により生じた壁紙・天井の変色、臭いの付着、設備への影響等については、建物や設備の法定耐用年数及び経年劣化の程度に関わらず、借主が清掃・交換・修繕に要する一切の費用を負担するものとする。
代表的な注意すべき条項として、「退去時のハウスクリーニング(専門業者による室内清掃)費用は借主負担」「畳の表替え費用は耐用年数に関係なく借主負担」「壁紙の一部損傷でも全面張り替え費用を請求」などがあります。
また、「ペット飼育による臭いや傷は原状回復義務の対象外」「喫煙による汚れ・臭いは耐用年数に関係なく借主負担」といった条項も要注意です。
これらの特約は、国土交通省のガイドラインに反する場合もあるため、契約前の確認と交渉が重要です。
不明な点は専門家に相談し、入居中は写真記録を残して適切な管理を心がけることで、退去時のトラブルを防止できます。
まとめ

この記事では、賃貸住宅に7~10年という長期間住んだ場合の退去費用について、耐用年数の概念と国土交通省ガイドラインに基づく適正な費用負担を解説してきました。
長期居住者にとって最も重要なのは、多くの設備が耐用年数を迎えるため、経年劣化として家主負担となるケースが大幅に増加することです。
壁紙、カーペット、設備機器などの主要な設備は6~10年の耐用年数が設定されており、この期間を経過した場合は原則として入居者負担は発生しません。
ただし、故意・過失による損傷や通常使用を超える汚損については、居住年数に関係なく部分的な負担が発生する可能性があることも理解しておきましょう。
適切な記録保存と法的知識を身につけることで、不当な請求から身を守り、公正な条件で退去手続きを進めることができます。
退去費用に関して疑問や不明な点がある場合は、消費生活センターや住宅紛争処理支援センターなどの専門機関に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
- 壁紙・畳・エアコンは6年で減価償却完了のため、7年以上の居住で負担なし
- フローリングは耐用年数15年のため、10年居住でも約33%の残価値が存在する
- 給湯器は耐用年数10年で、10年居住により完全に減価償却が完了する
- 契約書の特約条項により耐用年数に関係なく借主負担となる場合がある
- 故意・過失による損傷は耐用年数に関係なく借主負担となるため注意が必要
