敷金は返ってくるの?返ってこないの?

賃貸住宅を退去する際、多くの借主が最も気になるのが敷金の返還問題です。
敷金は本来、家賃の未払いや物件の損傷に対する担保として預けるものですが、実際には「返ってこない」「クリーニング代で全額差し引かれた」といったトラブルが後を絶ちません。
しかし、法的には敷金の大部分は借主に返還されるべきものです。
国土交通省のガイドラインや民法の規定を正しく理解すれば、不当な敷金の差し引きを防ぐことができます。
本記事では、敷金が返還される法的根拠から具体的なケース、よくあるトラブルの対処法まで、借主が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
敷金返還の法的基礎とその基本的な理解
敷金の返還可否は、「通常の使用による経年劣化」なのか「入居者の故意・過失による損傷」なのかによって判断されます。
敷金は本来、賃借人に債務不履行がない限り返還されるべき性質のものです。
民法第622条の2では、敷金について明確に規定されており、賃貸借終了時の返還義務が定められています。
また、原状回復義務についても民法第621条で詳細に規定されています。

- 民法第622条の2(敷金)
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 - 民法第621条(賃借人の原状回復義務)
通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く損傷についてのみ原状回復義務を負う。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常損耗や経年変化による劣化は貸主負担とされており、敷金から差し引くことはできません。
各設備には具体的な耐用年数が設定されており、壁紙6年、畳・カーペット6年、設備機器15年などの基準があり、入居期間が耐用年数を超える場合は入居者負担はゼロになることもあります。
つまり、敷金は法的に返還が原則であり、通常の使用による損耗分を差し引かれることはないため、適切な知識を持って交渉すれば大部分が返ってくる可能性が高いものです。
敷金は返ってくるの?返ってこないの?

敷金が返ってこないケース
敷金が返還されないケースは、借主に明らかな過失や契約違反がある場合に発生します。
故意や重大な過失による損傷、通常使用を超えた汚損がある場合は、修繕費用が敷金から差し引かれることになります。
具体的には、タバコの焼け焦げやペットによる深い傷、壁に釘やネジで開けた穴、カビを放置したことによる壁紙の変色などが該当します。
また、家賃滞納がある場合や、契約で禁止されている改造を行った場合も敷金から費用が差し引かれます。
清掃を怠り、通常のハウスクリーニングでは除去できないほどの汚れが蓄積している場合も同様です。
さらに、鍵の紛失や設備の故障を放置して損害が拡大した場合、エアコンや給湯器などの設備を故意に破損させた場合なども、修理・交換費用として敷金から控除されることがあります。
これらのケースでは借主の責任が明確なため、敷金の返還は期待できません。
敷金が返ってくるケース
通常使用による経年劣化や自然損耗がある場合は、借主に修繕義務がないため敷金は返還されるべきです。
国土交通省のガイドラインでは、日常的な生活で生じる損耗は貸主負担と明記されています。
壁紙の日焼けや自然な色あせ、畳やフローリングの通常摩耗、画鋲程度の小さな穴、電気ヤケ(冷蔵庫背面の壁の黒ずみ)、家具の設置による床の凹み跡などは通常使用の範囲内です。
また、網戸や障子の張替え、蛍光灯や電球の交換、鍵の取替え(鍵番号変更)なども原則として貸主負担となります。
住居期間が長い場合は特に、壁紙やクロスの全面張替えは経年劣化として判断される傾向があります。
設備の自然故障や、構造上の問題による不具合、結露によるカビ発生なども借主の責任範囲外です。
これらのケースでは、修繕費用を敷金から差し引くことは不適切であり、敷金の全額または大部分が返還されるべきです。
敷金返還請求のポイントと賃貸借契約書に記載のある注意すべき条項例
賃貸借契約書には、敷金の取り扱いについて借主に不利な特約が記載されている場合があります。
これらの特約は法的な有効性に疑問があるものも多く、契約前に十分な確認が必要です。
条項例
- 退去時ハウスクリーニング費用に関する条項
借主は契約終了時において、使用期間及び使用状況に関わらず、専門業者によるハウスクリーニング費用の全額を負担するものとする。当該費用については敷金から差し引くものとし、不足が生じた場合は借主が追加負担する。 - 畳表替え費用負担に関する条項
借主は退去時において、畳の使用状況及び損耗の程度に関係なく、全ての畳について表替え費用を負担するものとする。表替えは貸主指定の業者により実施し、その費用は借主の負担とする。 - 壁紙張替え費用に関する条項
借主は退去時において、居住年数や通常使用による損耗の有無に関わらず、全室の壁紙張替え費用を負担するものとする。壁紙の選定及び施工業者は貸主が指定し、借主はその費用の全額を負担する責任を負う。 - 敷金償却に関する条項
預託された敷金については、契約期間満了時に原状回復費用の有無に関わらず、その全額を償却するものとし、借主への返還は行わないものとする。なお、原状回復に要する費用が敷金額を超過した場合は、借主が追加負担する。 - 通常損耗借主負担に関する条項
借主は契約終了時において、通常の使用による自然損耗及び経年変化を含む一切の損傷について、その修繕費用を負担するものとする。通常損耗の範囲については貸主の判断によるものとし、借主はこれに異議を申し立てることはできない。
「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」「畳の表替え費用は借主負担」「壁紙の張替え費用は居住年数に関係なく借主負担」などの条項が代表例です。
また、「敷金は償却する」「敷金の一部は返還しない」といった一方的な条項や、「原状回復費用は敷金の範囲内で借主が負担する」という曖昧な表現にも注意が必要です。
さらに、「通常損耗も借主負担」とする条項は、国土交通省ガイドラインに反するため無効となる可能性が高いです。
これらの特約が契約書に記載されていても、消費者契約法により無効とされるケースがあります。
特約の有効性は、借主への十分な説明があったか、社会通念上妥当な内容かなどが判断基準となります。
敷金に関するよくある質問
まとめ

敷金は法的には借主に返還されるべき金銭であり、通常の生活で生じる損耗については貸主が負担すべきものです。
国土交通省ガイドラインや民法の規定を正しく理解し、契約書の内容を確認することで、不当な敷金の差し引きを防ぐことができます。
重要なのは、入居時から退去時まで適切な記録を残し、疑問がある場合は専門機関に相談することです。
敷金トラブルに遭遇した際は、一人で悩まず、公的な相談窓口を積極的に活用して解決を図りましょう。
適切な知識と対応により、本来返還されるべき敷金を確実に取り戻すことが可能です。
- 故意や重大な過失による損傷は借主負担となるが、通常使用による経年劣化は貸主負担が原則
- 国土交通省のガイドラインでは日常生活による損耗は貸主負担と明記されており、これが判断基準となる
- 契約書の特約条項には借主に不利な内容が含まれる場合があり、法的有効性を慎重に判断する必要がある
- 「ハウスクリーニング借主負担」や「敷金償却」などの特約は消費者契約法により無効となる可能性がある
- 敷金返還に疑問がある場合は、国土交通省ガイドラインを参考に貸主や管理会社と交渉することが重要
