[事例35]賃貸借契約終了時に敷金から控除された原状回復費用について賃借人の返還請求が一 部認められた事例
本件は、賃貸借契約終了に伴い、賃借人Xが賃貸人Yに対して敷金の返還を求めた事案です。賃貸人Yは、賃借人Xの責任に帰する原状回復費用を敷金から控除すべきと主張しましたが、裁判所はその一部のみを認め、敷金の一部返還を命じました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Xは、賃貸人Yとの賃貸借契約終了後、敷金51万3000円の返還を求めました。しかし、賃貸人Yは、契約書に基づき、賃借人Xの責任に帰する原状回復費用として、以下の項目を敷金から控除すべきと主張しました。
- (ア)フローリング補修張替え(6枚分) 15万円
- (イ)框戸の取替え 7万5000円
- (ウ)ダン襖片面張替え 3800円
- (エ)LD天井シーリングプレート取付け 5600円
- (オ)和室畳一畳張替え 1万4000円
- (カ)ビニールクロス張替え 4万円
- (キ)ハウスクリーニング 5万7800円
- (ク)網戸張替え 1万3000円
- (ケ)洗面化粧台ボール取替え 7万円
- (コ)UBフタ取付け 9000円
合計43万8200円に消費税2万1910円を加えた46万110円を控除すべきとしました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮して判断を下しました。
賃借人の負担項目
- (ア)フローリング補修張替え(2枚分)
- (カ)ビニールクロス張替え(半額)
- (ウ)ダン襖片面張替え
賃貸人の負担項目
- その他
裁判所は、原状回復費用のうち、フローリング補修張替え(2枚分)5万円、ビニールクロス張替え(半額)2万円、ダン襖片面張替え3800円の合計7万7490円(消費税込み)を賃借人Xの負担と認めました。
賃貸人Yが控訴した際、裁判所は、(イ)、(エ)、(オ)、(キ)、(ク)、(ケ)、(コ)および外廊下長尺シートの補修費用が賃借人Xの責任に帰するものと認める証拠が不十分であると指摘し、(ア)と(カ)についても原判決の範囲を超える負担を認めないと判断しました。
その結果、原判決は相当であるとして控訴を棄却し、賃借人Xに対して敷金51万3000円から7万7490円を控除した43万5510円の返還を命じました。
控訴審でもこの判断が維持され、賃貸人Yの主張は一部を除き認められませんでした。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 原状回復費用の範囲の明確化
- 証拠の重要性
- 消費税の扱い
- 控訴審での判断基準
本判決から得られる実務的な示唆として、まず「経年以外の部分で賃借人の責めに帰する汚損・破損」の範囲を契約書で明確にすることが重要です。
また、原状回復費用の負担を主張する際には、その費用が賃借人の責任によるものであることを証明する証拠が必要となります。
さらに、消費税を含める場合には、その計算方法を明確にすることが求められます。
控訴審では、原判決が相当であるかどうかが焦点となり、新たな証拠や主張がなければ原判決が維持される可能性が高い点にも留意が必要です。