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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例30]通常損耗補修特約は合意されたとはいえず、仮に通常損耗補修特約がなされていたとしても、消費者契約法10条に該当して無効とされた事例

この事例の概要

本件は、賃貸借契約において、賃借人が退去時に負担すべき原状回復費用に関する特約が、消費者契約法10条に基づき無効とされた事例です。裁判所は、特約が賃借人に過重な負担を課し、信義則に反するとして、敷金の全額返還を命じました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、賃貸人Yから月額賃料21万8000円、共益費2万3000円で2年間の賃貸借契約を締結し、敷金として43万6000円を支払いました。

契約には、退去時に賃借人が負担すべき原状回復費用として、障子・襖・網戸の張替え、畳表替え、ルームクリーニングなどの項目が規定されていました。

Xは約8か月後に契約を解約し、退去しましたが、Yは原状回復費用として48万3000円を請求し、敷金を返還しませんでした。

これに対し、Xが敷金返還を求めて提訴しました。

  • 障子・襖・網戸の各張替え
  • 畳表替え
  • ルームクリーニング
  • 壁、天井、カーペットの修繕費用
  • 日焼けによる変化の修繕費用

裁判所の判断

裁判所は以下の点を指摘し、特約の無効を認めました。

賃借人の負担項目

  • 障子・襖・網戸の張替え
  • 畳表替え
  • ルームクリーニング

賃貸人の負担項目

  • 壁、天井、カーペットの通常損耗・経年劣化分

裁判所は、契約第19条5号及び第25条2項が通常損耗や経年劣化についても賃借人に原状回復義務を課す点を不合理と判断し、特約の内容が明確でないことを指摘しました。

さらに、特約は賃借人に必要な情報が与えられず、自己に不利な内容を認識できないまま締結されたものであり、信義則に反するとしました。

特に、賃借期間が約8か月と短く、特段の債務不履行がないにもかかわらず敷金全額を没収することは客観的・合理的理由がないと判断しました。

また、敷金とは別に礼金(月額賃料の2か月分)が授受されていることから、敷金全額を没収することは公平性に欠けると指摘しました。

以上を踏まえ、裁判所は賃借人Xの請求を認め、賃貸人Yに対し敷金43万6000円の返還を命じました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:483,000円
裁判所の判決:0円
預け入れた保証金:436,000円
保証金の返還額:436,000円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 特約の明確性
  • 通常損耗・経年劣化の扱い
  • 消費者保護の観点
  • 敷金と礼金のバランス

賃貸借契約における特約は、賃借人がその内容を具体的に認識できるよう明確に記載する必要があります。

特に、通常損耗や経年劣化について賃借人に過重な負担を課す特約は、無効となる可能性が高いため注意が必要です。

また、消費者契約法10条は消費者に不利な特約を無効とするため、賃貸人は契約条項の公平性を確保しなければなりません。

さらに、敷金と礼金の両方を徴収する場合、敷金没収の合理性について慎重に検討することが重要です。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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