賃借人の故意過失または通常でない使用による損害についてのみ原状回復義務(襖の破損)が生じる事例
賃貸物件に住んでいると、契約書に記載された原状回復特約の解釈をめぐって、賃貸人との間でトラブルが生じることがあります。今回は、東京簡易裁判所で行われた裁判をもとに、原状回復義務に関するルールや判例をわかりやすくまとめました。
この事例では、契約書に原状回復特約が付されていても、通常の使用による損耗や時間の経過に伴う自然損耗については賃借人の負担とはならず、賃借人の故意過失または通常でない使用による損害についてのみ賃借人に原状回復義務が生じるとの判断が示されています。
賃貸借契約における原状回復特約の解釈と、賃借人の原状回復義務の範囲を明確に示す重要な事例となっていますので、畳・網戸・クロス・カーペットの張替えや襖の破損、ドア枠の塗装工事による退去時の原状回復費用でお困りの方はぜひ参考にしてください。
敷金の返還請求、立ち退きや退去費用に関するトラブルなど、様々な問題について、適切なアドバイスをしております。
裁判所での訴訟等については、業務の範囲外となるため、サポートに限りはありますが、借主の皆様が、より安心して住まいを利用できるよう、最善の解決策をご提案いたします。
トラブル事例の概要
関連記事:網戸・書棚・タンス・戸棚などの相場
関連記事:ドア・浴槽・石膏ボード・下駄箱など
賃貸借契約からトラブル解決までの経緯
賃貸借契約
1985年3月16日、東京都内の賃貸住宅について、賃貸人Yと賃借人Xの間で賃貸借契約が締結されました。賃料は月額16万7000円、敷金は33万4000円でした。
- 賃料:月額16万7000円
- 敷金:33万4000円
- 原状回復特約:有
賃貸借契約書の原状回復特約の内容には気を付けましょう。
契約終了と明け渡し
1995年12月1日、賃借人Xは建物を退去し、賃貸人Yに明け渡しました。
退去費用の請求
賃貸人Yは、原状回復費用としてビニールクロス張替え費用など22項目、合計56万5600円を請求。契約書の「明け渡しの後の室内建具、襖、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において原状に回復する」との条項に基づき、敷金を全額充当し返還を拒否しました。これに対し賃借人Xは、入居期間中に破損した襖張替え費用1万3000円を差し引いた32万1000円の返還を求めて提訴しました。
- 原状回復費用:56万5600円
- 畳・襖・網戸・クロス・カーペットの張替え/ドア枠の塗装工事
東京簡易裁判所判決
裁判所は、賃借人Xの請求を全面的に認める判決を下しました。判決では、10年近い賃借期間における部屋の枠回り額縁のペンキ剥がれ、壁についた冷蔵庫の排気跡や家具の跡、畳の擦れた跡、網戸の小さい穴については自然損耗と認定。また、飲み物をカーペットにこぼした跡や部屋の家具の跡等についても、賃借人の故意過失または通常でない使用による毀損とは認められないと判断されました。
- 原状回復費用:1万3000円
- 襖の破損
まとめ:退去費用の内訳と合計
原状回復特約は、賃借人の故意過失または通常でない使用による損害の回復を規定したものと解すべきであり、賃貸人は通常の使用による自然損耗等については賃料として回収していると考えられます。
そのため、10年近い入居期間における通常の使用による損耗や、日常生活で生じる程度の傷や汚れについては、賃借人に原状回復義務は生じないと判断されました。この判断は、その後の複数の裁判例でも踏襲されており、賃貸借契約における重要な先例となっています。
関連記事:網戸・書棚・タンス・戸棚などの相場
関連記事:ドア・浴槽・石膏ボード・下駄箱など