賃借人の負担すべき原状回復費用を制限する必要があると判断された判例
大阪高等裁判所は、契約終了時に賃借人が自ら補修工事を実施しない場合、契約締結時の状態から通常損耗を差し引いた状態までの補修費用相当額を賃貸人に賠償することで十分であると判断しました。
この判断は、「原状回復を巡るトラブルとガイドライン(改訂版)」の見解と一致しています。
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事案の概要
本件では、賃貸人Yから賃借人Xが住宅を借り、賃借契約を解除し明け渡した後、残りの敷金返還額を巡って争いが生じました。
賃借人Xは、賃貸人Yに対して契約締結時の状態から通常損耗を差し引いた補修費用相当額の返還を求めました。
第一審(神戸地裁尼崎支部)は一部を認容しましたが、賃貸人Yは控訴しました。
敷金 | 結果 | 賃借人負担となった部分 |
---|---|---|
敷金40万円 | 返還19万円 | なし |
判決の要旨
- 裁判所は、経年劣化が早く進む内部部材については特別損耗の修復のための補修が必要であるが、通常損耗も同時に修復してしまう結果になるため、賃貸人が不当に利益を得ることを防ぐために、賃借人の負担すべき原状回復費用を制限する必要があると判断しました。
- 裁判所は、賃借人が特別損耗分のみを補修すれば十分であるとしつつも、契約締結時の状態から通常損耗分を差し引いた状態までの補修を賃借人が行うことは現実的に困難であり不可能であると認めました。そのため、通常損耗分を含めた原状回復まで行った場合、賃借人は有益費償還請求権に基づき、通常損耗に相当する補修費用を賃貸人に請求できると判断されました。
- 裁判所は、クロスの耐用年数が6年であり、賃借人が7年10か月間居住していたため、通常損耗による減価割合は90%とされました。この点からも、賃借人の補修負担範囲を限定することが相当であると判断されました。
- 敷金返還請求権は、賃貸借終了明け渡し時に発生する債務として考えられ、明け渡し日の翌日から遅滞に陥るとされました。そのため、本件の附帯請求の起算日は明け渡し日の翌日とされました。
以上の判断に基づき、大阪高等裁判所は原判決を支持し、賃貸人の控訴を棄却しました。
賃借人の負担すべき原状回復費用を制限する必要があると判断された判例のまとめ
この判決では、契約終了時に賃借人が自ら補修工事を行わない場合、契約締結時の状態から通常損耗を差し引いた状態までの補修費用相当額を賃貸人に賠償することが相当であるとされました。
賃借人は特別損耗分のみを補修すれば十分であるが、実際には通常損耗分を含めた原状回復まで行うことが困難であるため、補修工事後に通常損耗に相当する補修費用を賃貸人に請求することが認められました。
この判決は、公正な原状回復の負担範囲を明確化し、賃貸借契約終了時の紛争を解決する上で重要な判断となります。
敷金 | 結果 | 賃借人負担となった部分 |
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敷金40万円 | 返還19万円 | なし |
※この回答は、特定の法的助言を提供するものではありません。法的問題に直面している場合は、専門の弁護士に相談することをおすすめします。
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