賃貸の火災保険、自分で加入しても大丈夫?注意すべきポイント

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賃貸物件における火災保険は、法律上の義務ではありませんが、自分で加入することで大家さんが指定する保険より保険料を節約でき、必要な補償を自由に選択できます。
ただし、入居時に大家さんから指定される保険に加入することが賃貸借契約の条件となっている場合が多いため、自分で加入する際は契約書の確認と大家さんへの事前相談が必要になります。
火災保険には「家財補償」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3種類があり、賃貸住宅では特に借家人賠償責任保険が重要な役割を果たしているでしょう。
国土交通省が発行している原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)に基づき、賃貸物件における火災保険の基本的な知識と注意点を詳しく解説いたします。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸物件で火災保険への加入が求められる理由とは
賃貸物件において火災保険への加入が一般的に求められるのは、借主(入居者)が負う可能性のある損害賠償責任を補償するためです。
借主が負担する可能性がある損害賠償の種類
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、賃借人(借主)の故意・過失による損害については、借主が修繕費用を負担することが原則とされています。

- 大家さんへの損害賠償責任(借家人賠償責任)
- 第三者への損害賠償責任(個人賠償責任)
- 自身の家財への損害
- 一時的な住居確保費用(住宅修理期間中の費用)
特に重要なのが借家人賠償責任保険で、水漏れや火災によって建物に損害を与えた場合の修繕費用を補償してくれるでしょう。
原状回復ガイドラインでは、借主の責任となる損害の範囲が明確に定められており、万一の際には高額な修繕費用が発生する可能性があります。
失火責任法の影響と保険の必要性
日本では失火責任法により、火災の原因に重大な過失がない限り、火元に対して損害賠償を請求することができません。
つまり、隣の部屋から出火した火災で自分の家財が燃えても、隣人に賠償を求めることは困難になります。
このため、自身の家財を守るためには家財保険への加入が実質的に必要となるでしょう。
また、自分が火元となった場合でも、重大な過失があれば損害賠償責任が発生する可能性があるため、借家人賠償責任保険の重要性が高まります。

失火責任法は明治時代に制定された法律ですが、現在でも有効です。この法律により、火災の被害者は自衛手段として保険加入が重要になっています。
火災保険の3つの補償内容
賃貸住宅で加入する火災保険は、通常3つの補償がセットになっています。
それぞれの補償内容を理解して、必要な保険金額を設定することが重要でしょう。
家財補償の内容と保険金額の設定方法
家財補償は、火災や水災などによって家具・家電・衣類などの動産が損害を受けた場合に補償される保険です。
世帯構成 | 推奨保険金額 |
---|---|
単身世帯 | 300万円〜500万円 |
夫婦世帯 | 500万円〜800万円 |
ファミリー世帯 | 800万円〜1,500万円 |
保険金額は家財の再調達価額(新品を購入する場合の金額)を基準に設定するのが一般的です。
過度に高額な設定は保険料の無駄遣いとなり、過度に低額な設定は十分な補償を受けられない可能性があるでしょう。
借家人賠償責任保険の重要性
借家人賠償責任保険は、借主の故意・過失によって建物に損害を与えた場合の修繕費用を補償する保険です。
原状回復ガイドラインにおいて借主負担とされる損害の代表例には以下があります。


- 水漏れによる床や壁の損傷(洗濯機のホース外れなど)
- 火災による建物の損傷(調理中の火災など)
- 結露を放置したことによるカビ・腐食の発生
- 故意・過失による設備の破損
借家人賠償責任保険の保険金額は、一般的に1,000万円から2,000万円程度に設定されることが多く、建物の構造や築年数によって必要額が変わってくるでしょう。
個人賠償責任保険の対象範囲
個人賠償責任保険は、日常生活で第三者に損害を与えた場合の賠償責任を補償する保険です。
賃貸住宅では主に以下のような場面で活用されます。
水漏れによって階下の住戸に損害を与えた場合、自転車で人にケガをさせた場合、ペットが他人にケガをさせた場合などが対象となります。
保険金額は1億円程度に設定されることが一般的で、家族全員が補償対象となるケースが多いでしょう。



個人賠償責任保険は、自動車保険や他の保険に特約として付帯されている場合があります。重複加入を避けるため、既存の保険契約を確認することをお勧めします。
自分で火災保険に加入する方法
賃貸物件で自分で火災保険に加入するには、まず賃貸借契約書の内容を確認し、大家さんまたは管理会社との事前協議が必要です。
契約書確認と大家さんへの相談手順
多くの賃貸借契約では、大家さんが指定する保険会社での加入が契約条件となっています。
自分で保険を選択する場合は、以下の手順で進めることが重要になります。


- 賃貸借契約書の火災保険に関する条項を確認
- 大家さんまたは管理会社に自分で加入したい旨を相談
- 必要な補償内容と保険金額の条件を確認
- 複数の保険会社から見積もりを取得
- 保険証券のコピーを大家さんに提出
大家さんが自分での加入を承諾しない場合もありますが、契約書に明記されていない場合は交渉の余地があるでしょう。
ただし、指定保険からの変更を希望する場合は、同等以上の補償内容であることを証明する必要があります。
保険会社選びのポイント
自分で火災保険を選ぶ際は、保険料の安さだけでなく、補償内容や事故対応の質を総合的に判断することが重要になります。
特に借家人賠償責任保険の保険金額設定、個人賠償責任保険の家族補償範囲、24時間事故受付体制の有無などを確認してください。
また、地震保険は火災保険とセットでしか加入できないため、必要に応じて同時加入を検討しましょう。
保険期間は1年契約と2年契約が選択できる場合が多く、2年契約の方が保険料が割安になることが一般的です。
ただし、引越しの可能性がある場合は、中途解約時の取り扱いも確認しておく必要があるでしょう。



インターネット通販型の保険は保険料が安い傾向にありますが、対面での相談ができないデメリットもあります。初回加入時は代理店型での加入も検討してみてください。
地震保険の加入判断はどうすべき?
地震保険は火災保険とセットでしか加入できない保険で、賃貸住宅では任意加入となっているものの、地震による家財の損害を補償する唯一の手段です。
地震保険の補償内容と制約
地震保険は国と民間の保険会社が共同で運営する制度のため、どの保険会社で加入しても保険料と補償内容は同一になります。賃貸住宅における地震保険の特徴は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
保険金額 | 火災保険の家財保険金額の30%〜50% |
保険料 | 建物の構造と所在地によって決定 |
補償対象 | 地震・噴火・津波による損害 |
支払基準 | 全損・大半損・小半損・一部損の4段階 |
地震保険は実損払いではなく、損害の程度に応じて定額で保険金が支払われる仕組みになっています。全損認定の場合は保険金額の100%、大半損は60%、小半損は30%、一部損は5%の保険金が支払われるでしょう。
加入判断のための考慮要素
地震保険への加入判断では、居住地域の地震リスク、家財の価値、家計への影響度を総合的に考慮することが重要でしょう。
政府の地震調査研究推進本部が公表している地震発生確率や、過去の震災被害を参考に検討してください。
また、家財の中でも特に高額な家電製品(冷蔵庫、テレビ、パソコンなど)の買い替え費用を考慮することが大切になります。
保険料の負担と補償のバランスを考え、経済的に無理のない範囲で加入を検討しましょう。
地震保険料控除も活用できるため、税務面でのメリットも含めて判断することをお勧めします。



地震保険は政府再保険制度により、保険会社が破綻しても国が補償する仕組みになっています。安心して加入できる制度設計となっているのが特徴です。
保険加入時の注意点と実務的なアドバイス
火災保険に加入する際は、契約内容の詳細確認と適切な保険金額設定、さらに継続的な見直しが重要になります。
契約時の重要確認事項
保険契約締結前には、必ず重要事項説明書と約款を熟読し、補償対象外となる事項を把握してください。
特に賃貸住宅では、以下の点に注意が必要です。


- 経年劣化による損害は補償対象外
- 故意または重大な過失による損害は補償対象外
- 地震・噴火・津波は地震保険でのみ補償
- 免責金額(自己負担額)の設定内容
- 保険金支払いの条件と手続き方法
原状回復ガイドラインでは、借主の故意・過失による損害と経年劣化による損害が明確に区分されています。
保険で補償される範囲と原状回復における借主負担の範囲を正しく理解することが、適切な保険選択につながるでしょう。
事故発生時の対応と法的手続き
火災や水漏れなどの事故が発生した場合は、速やかな保険会社への連絡と適切な初期対応が保険金支払いに大きく影響します。
事故発生時の基本的な対応として、人命の安全確保、二次被害の防止、警察・消防への通報(必要に応じて)、保険会社への事故報告、現場の写真撮影などが挙げられます。
特に第三者への損害が発生した場合は、示談交渉を避けて保険会社の指示を仰ぐことが重要になります。
大家さんとの間で損害賠償に関する紛争が生じた場合や、隣人との賠償問題が複雑化した場合は、認定司法書士や弁護士への相談をお勧めします。
保険だけでは解決できない法的問題については、専門家による適切な助言が必要でしょう。



事故発生時は感情的になりがちですが、冷静な対応が重要です。保険会社の事故対応担当者との連携を密にし、指示に従って行動してください。
まとめ
賃貸物件における火災保険は、法的義務ではないものの、借主の経済的リスクを軽減する重要な自衛手段として位置づけられます。
自分で火災保険に加入することは可能ですが、賃貸借契約書の確認と大家さんへの事前相談が必須になります。
家財補償、借家人賠償責任保険、個人賠償責任保険の3つの補償をセットで加入し、必要に応じて地震保険も検討しましょう。
国土交通省の原状回復ガイドラインに基づく借主の責任範囲を理解し、適切な保険金額を設定することで、万一の際の経済的負担を軽減できるでしょう。
複雑な法的手続きや賠償問題については、保険による解決とは別に、認定司法書士や弁護士への相談も検討することをお勧めします。
- 賃貸の火災保険は自分で加入可能だが契約書確認と大家さんへの相談が必要
- 家財補償・借家人賠償責任保険・個人賠償責任保険の3つの補償が基本
- 失火責任法により自身の家財を守るための保険加入が重要
- 地震保険は火災保険とセットでのみ加入可能で任意加入
- 複雑な法的問題は認定司法書士や弁護士への相談が必要

