賃貸のペット可の退去費用は経年劣化が適用される?相場をガイドラインに基づいて解説

賃貸物件でペットを飼育していると、退去時に「ペットによる損傷だから経年劣化は適用されない」と言われて高額な請求をされたことはありませんか?
ペットによる傷や汚れは通常の使用による劣化とは区別されがちですが、実はすべての損傷に一律で経年劣化が適用されないわけではないのです。
例えば、5年間猫を飼っていた賃貸物件を退去する際、床のひっかき傷やニオイの問題で「ペットが原因だから全額借主負担」と言われたAさん。
しかし、国土交通省のガイドラインでは、ペットによる損傷でも経年劣化が考慮されるケースがあります。
この記事では、ペットを飼育していた賃貸物件の退去時に発生する可能性のある費用について、経年劣化の適用基準や相場を国土交通省のガイドラインに基づいて解説します。
高額な請求から身を守るための知識を身につけましょう。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
賃貸のペットによる損傷と経年劣化の基本知識

ペットによる損傷とは、犬や猫などのペットが賃貸物件内で生活することによって生じる様々な傷や汚れ、臭いなどを指します。
これらは、民法第606条(賃借人の通常の使用による損耗等)および第621条(賃借物の保管等)に関連する問題です。
賃貸物件の退去時には、「通常損耗」と「特別損耗」を区別する必要があります。
通常損耗は家賃に含まれており借主負担ではありませんが、特別損耗は借主の負担となります。
ペットによる損傷は多くの場合「特別損耗」として扱われますが、すべてのケースで経年劣化が考慮されないわけではありません。
- ペットによる損傷は基本的に「特別損耗」に分類されるが、損傷の程度や状況によって経年劣化が考慮される場合がある
- 契約書に「ペット可」と明記されている場合は、一定の損耗は想定内として扱われることがある
- ペットによる「通常使用の範囲」と「それを超える損傷」の線引きは国土交通省のガイドラインを参考にする
- 退去時の立会いでは、損傷箇所の写真や証拠を残すことが重要
- ペットを飼育する際は、事前に書面で詳細な契約条件を確認しておくことが望ましい
賃貸のペットによる損傷の法的解釈

ペットによる損傷の法的解釈は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいて行われます。
このガイドラインでは、賃借人の「通常の使用」による損耗等については、賃貸人が負担すべきものとされています。
しかし、ペットによる損傷は多くの場合「特別な使用」による損耗として扱われ、借主負担となるケースが多いです。
ただし、ガイドラインでは「経過年数による価値の減少(経年劣化)」も考慮されるべきとされており、全損害について全額を借主に請求することは適切ではないとしています。
例えば、ペットによるフローリングの引っかき傷でも、既に使用年数が長い場合は、その経年劣化分を考慮した費用負担が適正とされています。
また、契約時に「ペット可」と明記されている場合は、一定の損耗は想定内として扱われる傾向にあります。
ただし、故意や重大な過失によるものや、通常の使用を著しく超える損傷については、経年劣化を考慮せずに借主負担となる可能性が高いことも理解しておく必要があります。
賃貸のペットによる損傷が発生する典型的なケース
ペットによる賃貸物件の損傷は、主に以下のようなケースで発生します。

- 爪による引っかき傷:特に猫による床材(フローリング)、壁紙、ドア枠などの引っかき傷
- 噛み跡による損傷:犬による窓枠、ドア枠、壁などの噛み跡
- 排泄物による汚れと臭い:尿や糞による床材、壁紙の汚れ、浸透した臭い
- 毛や体液による汚れ:ペットの抜け毛、よだれ、体液などによる汚れ
- 騒音によるクレーム:直接的な物理的損傷ではないが、騒音トラブルによる近隣対応費用
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、ペットに関する相談事例は賃貸トラブル全体の約15%を占めています。
特に多いのが、猫による爪とぎの跡や、犬の噛み跡による木材部分の損傷です。
これらのケースでは、損傷の程度によって「通常の使用による損耗」と「特別な使用による損耗」の境界線が異なります。
例えば、契約時に許可されたペットの通常の生活による軽度の引っかき傷と、過度な放置による深い引っかき傷では、経年劣化の適用基準が異なる場合があります。
賃貸のペットによる損傷と紛らわしい類似問題
ペットによる損傷と混同されやすい他の賃貸問題を比較してみましょう。

問題の種類 | 主な特徴 | 経年劣化の適用 | 借主負担の基準 |
---|---|---|---|
ペットによる損傷 | 爪による引っかき傷、噛み跡、排泄物の汚れなど | 状況によって適用あり | 通常の使用を超える損傷のみ |
経年による自然劣化 | 日光による変色、素材の自然な劣化など | 全面的に適用 | 基本的に借主負担なし |
子供による損傷 | クレヨンの落書き、おもちゃによる傷など | 状況によって適用あり | 通常の使用を超える損傷のみ |
結露によるカビ | 窓際や押入れのカビ、壁の黒ずみなど | 適用あり | 手入れ不足による悪化分のみ |
判別ポイントとしては以下が挙げられます。
- 損傷の原因が特定できるか(ペット特有の形状の傷や汚れがあるか)
- 契約時にペット飼育が許可されていたか
- 通常の使用範囲内か過失によるものか
- 損傷の程度と発生場所(生活上避けられない場所か否か)
これらの判別ポイントを理解しておくことで、退去時に発生しうる費用の負担について、適切な判断ができるようになります。
賃貸のペットによる損傷の退去費用はいくら?解決プロセスと相場
ペットによる損傷が発生した場合の退去費用を解決するプロセスは以下の通りです。

- 退去予定日を管理会社・大家に連絡する
- 現地での立会い確認の日程を調整する
- 立会い時に損傷箇所を確認し、写真などの証拠を残す
- 修繕費用の見積もりを確認する
- 必要に応じて交渉を行う(経年劣化の考慮など)
- 合意に達した金額を支払う
以下、場所や種類ごとのペットによる損傷の具体的な事例と相場を見ていきましょう。
賃貸のフローリングのひっかき傷:爪による損傷
フローリングの引っかき傷は、特に猫を飼っている場合に多く見られる損傷です。猫は爪とぎの習性があり、床を引っかくことがあります。
損傷の程度 | 修繕方法 | 費用相場 |
---|---|---|
軽度の傷 | 部分補修 | 1,000円〜5,000円/㎡ |
中程度の傷 | 上張り | 5,000円〜10,000円/㎡ |
重度の傷 | 張り替え | 10,000円〜15,000円/㎡ |
費用負担の判断基準は、傷の深さと範囲、フローリングの使用年数によって異なります。
国土交通省ガイドラインによれば、フローリングの経済的耐用年数は一般的に6〜8年とされており、この年数を経過している場合は、経年劣化による減額が適用されるべきです。
例えば、7年使用したフローリングにおける深いひっかき傷の場合、張り替え費用の一部(約30〜50%程度)は経年劣化として認められる可能性があります。
賃貸の壁紙・クロスの損傷:引っかきや噛み跡
壁紙やクロスの損傷は、ペットが爪で引っかいたり、噛んだりすることで発生します。
特にドアの周りや窓の近くで発生することが多いです。
損傷の範囲 | 修繕方法 | 費用相場 |
---|---|---|
小範囲 | 部分補修 | 3,000円〜10,000円 |
壁一面 | 一面張り替え | 15,000円〜25,000円/面 |
部屋全体 | 全面張り替え | 80,000円〜120,000円/部屋 |
費用負担の判断基準としては、壁紙の使用年数と損傷の程度が考慮されます。
壁紙の経済的耐用年数は約6年とされており、この期間を経過している場合は、張り替え費用の一部が経年劣化として認められるケースが多いです。
例えば、5年使用した壁紙に猫の引っかき傷がある場合、張り替え費用の約15〜30%程度は経年劣化として認められる可能性があります。
賃貸のドア枠・窓枠の損傷:噛み跡や引っかき傷
ドア枠や窓枠は、特に犬が噛んだり、猫が爪とぎをしたりすることで損傷を受けやすい部分です。
損傷の程度 | 修繕方法 | 費用相場 |
---|---|---|
軽度 | 部分補修 | 5,000円〜15,000円 |
中〜重度(単一箇所) | 交換 | 20,000円〜40,000円 |
複数箇所 | 複数箇所交換 | 50,000円〜100,000円以上 |
費用負担の判断基準は、建具の使用年数と損傷の程度によって異なります。木製建具の経済的耐用年数は約9年とされています。
この期間を経過している場合、交換費用の一部が経年劣化として認められる可能性があります。
ただし、明らかな過失による重度の噛み跡や、木材が深く削られているような場合は、経年に関わらず借主負担となるケースが多いです。
賃貸の臭い・汚れ:排泄物やペットの体臭による問題
ペットの排泄物による汚れや臭いは、特に退去時のトラブルになりやすい問題です。
汚れ・臭いの程度 | 処理方法 | 費用相場 |
---|---|---|
軽度 | 消臭清掃 | 10,000円〜30,000円 |
中度 | 特殊清掃 | 30,000円〜50,000円 |
重度 | 構造部分の処理 | 50,000円〜150,000円以上 |
費用負担の判断基準としては、染み込みや臭いの程度、および築年数が考慮されます。
ただし、臭いに関しては経年劣化の適用が認められにくいケースもあります。
特に尿などが床下まで染み込んでいる場合は、畳やフローリングの張り替えだけでなく、下地の処理も必要となり、全額借主負担となる可能性が高いです。
ただし、通常の清掃で除去できる程度の臭いや、長期間の居住による一般的な生活臭については、経年劣化が考慮される傾向にあります。
賃貸のカーペット・畳の損傷:排泄物や引っかき傷
カーペットや畳は、ペットによる排泄物の染み込みや引っかき傷が特に問題になりやすい部分です。
損傷の程度 | 処理方法 | 費用相場 |
---|---|---|
軽度の汚れ | クリーニング | 5,000円〜15,000円 |
中度の損傷 | 部分交換 | 10,000円〜30,000円/畳 |
重度の損傷(畳) | 全面交換 | 15,000円〜20,000円/畳 |
重度の損傷(カーペット) | 全面交換 | 3,000円〜8,000円/㎡ |
費用負担の判断基準としては、畳の経済的耐用年数は約5〜6年、カーペットは約6年とされています。
この期間を経過している場合、交換費用の一部が経年劣化として認められる可能性があります。
例えば、5年使用した畳に軽度のペットによる引っかき傷がある場合、交換費用の約50%程度は経年劣化として認められるケースがあります。
ただし、尿などの排泄物が深く染み込んでいる場合は、経年劣化が考慮されずに全額借主負担となる可能性が高いです。
- ペットによる損傷でも、素材の経済的耐用年数を超えている場合は経年劣化が適用される
- 排泄物による汚れや臭いは、範囲や程度によって経年劣化の適用範囲が大きく異なる
- 事前・事後の写真証拠が費用交渉において重要な役割を果たす
- 国土交通省ガイドラインでは、特に明記された「ペット可物件」では一定の損耗は想定内とする考え方がある
- 修繕費用は地域や物件のグレードによって10〜30%程度変動することがある

賃貸のペットによる損傷の予防策

ペットを飼育している賃貸物件で退去費用のトラブルを防ぐためには、予防策を講じることが非常に重要です。
基本的な考え方として、「通常の使用」の範囲内に収まるようなペットの飼い方を心がけると同時に、物件を保護するための対策を行うことが効果的です。
特に重要なのは、契約前の確認と日常的なケアです。契約時には「ペット可」の詳細条件(種類、大きさ、頭数など)を書面で確認し、どの程度の損耗が「通常の使用」と見なされるのかを確認しておくことが望ましいでしょう。
また、入居時の物件状態を写真に残しておくことも、退去時のトラブル防止に役立ちます。
日常的なケアとしては、定期的な掃除やペットのしつけ、爪とぎ対策などが挙げられます。
特に猫の場合は専用の爪とぎを設置し、犬の場合はトイレのしつけを徹底することで、物件への損傷を最小限に抑えることができます。
- 入居前に物件の状態を写真に残し、退去時の比較資料とする
- ペット用トイレの設置場所を固定し、排泄物が床や壁に直接触れないよう工夫する
- 猫には専用の爪とぎを複数設置し、壁や床を傷つけないよう習慣づける
- フローリングには専用マットを敷き、爪による引っかき傷を防止する
- 定期的なペットの爪切りやグルーミングを行い、物件への損傷リスクを減らす
また、万が一の損傷に備えて、ペット飼育者向けの保険に加入しておくことも検討しましょう。
一部の保険では、ペットによる物件損傷も補償の対象となっています。
これらの予防策を実践することで、退去時のトラブルや予期せぬ高額な費用請求のリスクを大幅に軽減することができます。
賃貸のペットによる損傷に関するQ&A
まとめ

ペットを飼育している賃貸物件の退去時には、損傷の種類や程度によって経年劣化が適用されるかどうかが分かれます。
基本的には、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、設備や部材の経済的耐用年数を考慮した費用負担が適正とされています。
特にペットによる損傷では、以下のポイントが重要です。
- 契約時の「ペット可」条件の詳細を書面で確認しておくこと
- 入居時・退去時の物件状態を写真等で記録しておくこと
- 日常的なペットのしつけと物件の保護対策を行うこと
- 退去時の立会いでは損傷箇所の確認と協議を丁寧に行うこと
- 修繕費用の見積もりでは経年劣化が適切に考慮されているか確認すること
万が一トラブルになった場合は、国民生活センターや法テラスなどの専門機関に相談することも検討しましょう。
適切な知識を持って交渉することで、不当な費用負担を避けることができます。
また、この記事では詳しく触れられなかった「ペット飼育特約」の具体的な内容や、ペット損害保険の活用方法についても、今後の契約時には検討する価値があるでしょう。
賃貸物件でのペット飼育を快適に続けるためにも、契約条件の確認と日常的な対策を心がけることをお勧めします。
