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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例34]契約終了時に賃借人自ら補修工事を実施しない時は契約締結時の状態から通常損耗を差し引いた状態まで補修すべき費用相当額を賃貸人に賠償すれば足りるとされた事例

この事例の概要

本件は、賃借人Xが賃貸人Yに対して、敷金の返還を求めた事案です。賃借人Xは賃貸借契約終了後に敷金の一部返還を求めましたが、賃貸人Yは原状回復費用を理由に敷金の全額返還を拒否しました。裁判所は、経年劣化を考慮した原状回復費用の範囲を限定し、賃借人Xの請求を一部認容しました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、賃貸人Yから住宅を借り、7年10か月間居住した後、賃貸借契約を解約し、敷金40万円のうち19万円を返還されました。

残りの21万円について、賃貸人Yは原状回復費用として控除しました。

賃借人Xは、この控除が不当であるとして、残額28万3386円の返還を求めて提訴しました。

  • クロスの張替え費用
  • 通常損耗分を差し引いた補修費用
  • 減価割合に基づく補修費用

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • 特別損耗分の補修費用

賃貸人の負担項目

  • 通常損耗分の補修費用

裁判所は、クロスなどの内部部材について、経年劣化が早く進むため、特別損耗の修復を行う際に通常損耗も修復せざるを得ないと指摘し、賃借人が負担すべき原状回復費用は通常損耗分を差し引いた範囲に制限されると判断しました。

さらに、賃借人が通常損耗分を含めた補修工事を行った場合、有益費償還請求権(民法608条2項)に基づき、賃貸人に通常損耗分の補修金額を請求できると解釈し、賃借人が自ら補修を行わない場合でも、通常損耗分を差し引いた費用を賠償すれば足りるとしました。

また、クロスの耐用年数を6年とし、賃借人Xの居住期間を考慮して、通常損耗による減価割合を90%と認めました。

敷金返還請求権は賃貸借終了時に当然に発生し、賃貸人は明け渡し日の翌日から敷金返還債務の遅滞に陥ると判断しました。

以上の理由から、裁判所は原判決を相当とし、控訴を棄却しました。

これにより、賃借人Xは敷金の一部返還を受けることができました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:283,386円
裁判所の判決:210,000円
預け入れた保証金:400,000円
保証金の返還額:190,000円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 経年劣化の考慮
  • 有益費償還請求権を活用する
  • 経年劣化を適切に考慮する
  • 明確な合意を形成

賃借人が原状回復を行う際には、経年劣化を考慮し、通常損耗分を差し引いた範囲で補修を行うことが重要です。

また、有益費償還請求権を活用することで、賃借人は通常損耗分の補修費用を賃貸人に請求できる可能性があります。

さらに、賃貸借契約終了時に発生する原状回復費用の算定には、経年劣化を適切に考慮することが不可欠です。

最後に、敷金返還請求権の発生時期や遅滞責任について、賃貸人と賃借人の間で明確な合意を形成しておくことが重要です。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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