[事例33]賃借人がハウスクリーニング代を負担するとの特約を有効と認めた事例
本件は、賃貸借契約終了時にハウスクリーニング代や原状回復費用を巡り、賃借人Xと賃貸人Yが敷金返還を争った事案です。裁判所は、特約に基づくハウスクリーニング代の負担や通常損耗を超える損耗の補修費用について判断し、敷金の一部返還を命じました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Xは、賃貸人Yから木造モルタル2階建ての一戸建て住宅を賃借し、敷金27万円を交付しました。
契約更新時に、明け渡し時に専門業者によるハウスクリーニング代を賃借人が負担する特約が追加されました。
契約終了後、Xは敷金の返還を求めましたが、Yはハウスクリーニング代や原状回復費用などを敷金から控除すると主張し、訴訟に発展しました。
- ハウスクリーニング代
- 和室2室のクロスの張替え費用
- 和室障子の張替え費用
- 和室障子の張替え費用
- 建具ダイノックシート張替え費用
- 畳2枚の張替え費用
- 内装工事終了時までの2か月分の賃料
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃借人の負担項目
- ハウスクリーニング代
- 和室壁面クロス張替え費用
- 和室障子張替え費用
- 建具ダイノックシート張替え費用
- 畳2枚の張替え費用
賃貸人の負担項目
- 通常損耗に該当する内装工事費
裁判所は、賃貸借契約書に明記された特約に基づき、賃借人Xがハウスクリーニング代6万3000円を負担すべきであると認めました。
また、賃借人の原状回復義務は通常損耗を超える損耗(特別損耗)に限定され、和室壁面のタバコのヤニによる汚損、障子の破れ、トイレ扉の汚れ、畳の黄ばみとシミなどは特別損耗に該当し、これらの補修費用8万430円も敷金から控除されると判断しました。
さらに、特別損耗の補修は通常損耗の補修と同時に行えるため、補修期間中の賃料相当損害金を敷金から控除する根拠はないとしました。
その結果、敷金からハウスクリーニング代と内装工事費を差し引いた12万6570円を賃貸人Yが賃借人Xに返還するよう命じました。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 特約の明確化
- 通常損耗と特別損耗の区別
- 補修費用の算定
- 敷金の適正な控除
賃貸借契約においては、特約を契約書に明記し、その内容を明確にすることが重要です。
賃借人の原状回復義務は通常損耗を超える損耗に限定されるため、損耗の程度を適切に評価する必要があります。
補修費用は特別損耗に限定して算定し、通常損耗と同時に補修可能な場合、補修期間中の賃料相当損害金を請求する根拠はありません。
また、敷金から控除する費用は、特約や損耗の範囲に基づき適正に算定し、過剰な控除を避けることが求められます。