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[事例29]保証金解約引特約が消費者契約法10条により無効とされた事例

この事例の概要

本件は、賃借人Xが賃貸人Yとの間で締結した賃貸借契約において、保証金から40万円を差し引く特約が消費者契約法に違反し無効であると主張し、保証金50万円の返還を求めた事案です。裁判所は、特約が消費者の権利を不当に制限するとして無効と判断し、保証金の一部返還を命じました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Xは、平成14年6月に賃貸人Yと月額賃料10万円で賃貸借契約を締結し、保証金50万円を支払いました。

契約書には、保証金から40万円を差し引く特約が記載されていました。

契約は平成16年と18年に更新され、平成19年3月31日にXが物件を明け渡しました。Xは保証金50万円の返還を求めましたが、Yは特約を理由に返還を拒否しました。

これに対し、Xは特約が消費者契約法に違反し無効であるとして訴訟を提起しました。

  • ベランダの修繕費用
  • 玄関ドアに付けられたポストの修繕費用
  • 浴槽の修繕費用
  • 浴槽のフタの修繕費用
  • 排水口のチェーンの修繕費用
  • 襖の桟の修繕費用
  • クッションフロアの修繕費用
  • じゅうたんの修繕費用

裁判所の判断

裁判所は以下の点を判断しました。

賃借人の負担項目

  • ベランダ、玄関ドアのポスト、浴槽、浴槽のフタ、排水口のチェーン、襖の桟、クッションフロア、じゅうたんの修繕費用の1割

賃貸人の負担項目

  • ベランダ、玄関ドアのポスト、浴槽、浴槽のフタ、排水口のチェーン、襖の桟、クッションフロア、じゅうたんの修繕費用の9割

裁判所は、個人が所有不動産を継続して賃貸する行為は「事業」に該当し、不動産業者でなくても消費者契約法上の「事業者」とみなされると判断しました。

また、保証金から40万円を差し引く特約は、債務不履行がなくても返還しないとする内容で、消費者の権利を不当に制限し、民法の信義則に反するため無効とされました。

さらに、解約引率8割が京都の慣習であるとする証拠は不十分とされました。

原状回復費用については、4年10か月の入居期間を考慮し、修繕費用の1割を借主Xが負担するのが相当と判断されました。

裁判所は、Xの善管注意義務違反による損耗分のみを保証金から差し引くことを認め、特約の効力を否定し、賃貸人Yに32万177円の返還を命じました。

結論として、保証金解約引特約は消費者契約法に違反し無効であり、原状回復費用の按分も入居期間を考慮して適切とされました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:500,000円
裁判所の判決:179,823円
預け入れた保証金:500,000円
保証金の返還額:320,177円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 事業者性の範囲
  • 特約の有効性
  • 原状回復費用の按分
  • 実務的な示唆

個人賃貸人でも継続的に賃貸を行う場合は「事業者」とみなされ、消費者契約法が適用されます。

消費者の権利を不当に制限する特約は、信義則に反し無効となる可能性が高いです。

また、原状回復費用については、入居期間を考慮して経年劣化分を按分することが適切とされます。

実務的には、賃貸借契約における特約の内容が消費者の権利を不当に制限しないよう注意が必要であり、原状回復費用の算定には入居期間を考慮することが重要です。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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