[事例18]ペット飼育に起因するクリーニング費用を賃借人負担とする特約が有効とされた事例
本件は、賃借人がペットを飼育したことに伴う原状回復費用について、賃貸借契約に特約があった場合、その特約が有効かどうかが争われた事例です。裁判所は、ペット飼育に伴う消毒費用を賃借人負担とする特約を有効と判断し、クリーニング費用の一部を賃借人に負担させました。

監修者
サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
事例の背景
賃借人Xは、平成12年4月に賃貸人Yと賃貸借契約を締結し、敷金41万7000円を差し入れました。
契約書には、解約時の原状回復費用(リフォーム、壁・付属部品の修理、クリーニング、ペット消毒)を賃借人負担とする特約がありました。
Xは約3か月間、小型犬を飼育し、平成13年12月に契約を合意解除して物件を明け渡しました。
賃貸人Yは、原状回復費用として50万745円を請求しましたが、Xは通常損耗以上の損害はないとして敷金全額の返還を求め提訴しました。
- クロスの張替え費用
- クッションフロアの張替え費用
- クリーニング費用
- その他の費用
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
賃借人の負担項目
- クッションフロア補修費用
- 残材処理費
- クリーニング費用
賃貸人の負担項目
- クロス張替え費用
- クッションフロア張替え費用(補修部分を除く)
裁判所は、通常の賃貸借における「原状回復」は、賃借人の故意・過失や通常の使用を超える損耗についての回復を指し、通常の使用による損耗まで回復を求めるものではないとしました。
また、民法の修繕義務は任意規定であり、借地借家法の趣旨に反しない限り、当事者間の特約は有効と判断しました。
特約の内容ごとの判断では、室内リフォームに関する大規模な修繕費用を賃借人負担とする特約は無効とされましたが、壁・付属部品の修理・クリーニングやペット消毒に関する特約は有効とされました。
具体的な費用負担については、クロス張替えは不要とされ、クッションフロアの補修費用3800円と残材処理費3000円、およびクリーニング費用5万円が賃借人Xの負担と判断されました。
総額として、Xの負担すべき費用は5万9640円とされ、敷金から差し引かれた35万7360円が返還されました。
裁判所は、ペット飼育に伴う消毒費用を賃借人負担とする特約を有効と認め、クリーニング費用の全額をXに負担させましたが、通常損耗を超える損害がない部分については賃借人負担を認めませんでした。
まとめ
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 特約の有効性
- 原状回復の範囲
- 実務的な示唆
ペット飼育に伴う消毒費用を賃借人負担とする特約は、合理的な理由があれば有効です。
ただし、通常の使用による損耗は賃借人の負担ではなく、特約があってもその範囲を超える請求は認められません。
賃貸借契約において特約を設ける際は、内容が合理的で借地借家法の趣旨に反しないよう留意する必要があります。
また、賃借人は特約の内容を十分に確認し、通常損耗を超える費用負担が生じないよう注意すべきです。