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原状回復ガイドラインのまとめ ≫

[事例13]特約条項に規定のないクリーニング費用等の賃借人による負担が認められなかった事例

この事例の概要

本件は、賃貸借契約終了後に賃貸人が賃借人に対して原状回復費用の支払いを求めたが、特約条項がなかったため、裁判所が賃借人の負担範囲を限定した事例です。特に、フロア張替えや室内クリーニング費用の負担が争点となりました。


行政書士 松村 元
監修者

サレジオ学院高等学校を昭和57年に卒業後、法曹界への志を抱き、中央大学法学部法律学科へと進学。同大学では法律の専門知識を着実に積み重ね、昭和62年に卒業。
その後、さまざまな社会経験を経て、より専門的な形で法務サービスを提供したいという思いから、平成28年に行政書士試験に挑戦し、合格。この資格取得を機に、平成29年4月、依頼者の皆様に寄り添った丁寧なサービスを提供すべく「綜合法務事務所君悦」を開業いたしました。
長年培った法律の知識と実務経験を活かし、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えできるよう、日々研鑽を重ねております。

日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号


目次

事例の背景

賃借人Yは、平成9年11月に賃貸人Xと賃貸借契約を締結し、敷金として16万5000円を支払いました。

平成11年5月に契約を合意解除し、物件を明け渡しました。

しかし、賃貸人Xは、原状回復費用として以下の費用を請求し、敷金との差額5万2857円を求めて提訴しました。

  • 畳修理代:5万7330円
  • 襖張替え代:3万3600円
  • フロア張替え代:7万6062円
  • 室内クリーニング代:3万6750円
  • 水道未払費用:1万4115円

賃借人Yは、畳修理代、襖張替え代、水道未払費用の合計10万5045円は認めたものの、フロア張替え代と室内クリーニング代については、特約がなく、通常の使用による損耗・汚損を超えないとして支払いを拒否しました。

裁判所の判断

裁判所は以下の点を重視し、賃借人Yの主張を全面的に認めました。

賃借人の負担項目

  • 畳修理代
  • 襖張替え代
  • 水道未払費用

賃貸人の負担項目

  • フロア張替え
  • クリーニング費用

本件契約には、フロア張替え及びクリーニング費用の負担を定めた特約条項が存在しませんでした。

賃借人がこれらの費用を負担するためには、特約による明確な合意が必要であり、通常の使用による損耗・汚損は賃借人の負担範囲に含まれません。

これらを超える損耗・汚損については、賃借人がその義務を認識し、または認識し得る状況にあることが必要ですが、本件ではそのような証拠がありませんでした。

したがって、裁判所は賃借人Yにフロア張替え及び室内クリーニング費用の支払い義務はないと判断し、賃貸人Xの請求を一部認容、一部棄却しました。

具体的には、敷金16万5000円から賃借人Yが認めた10万5045円を差し引いた5万9955円を返還するよう命じました。

まとめ

結論
賃貸人からの請求金額:217,857円
裁判所の判決:105,045円
預け入れた保証金:165,000円
保証金の返還額:59,955円

本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。

  • 特約条項の重要性
  • 証拠の収集と管理
  • 賃借人の権利保護

原状回復費用の負担を明確にするためには、賃貸借契約に特約条項を設けることが不可欠です。

特約がない場合、賃借人は通常の使用による損耗・汚損を超える費用を負担する義務はなく、賃貸人はそのような損耗・汚損を証明する証拠を収集する必要があります。

入居時と退去時の物件の状態を写真や書面で記録することが有効です。

賃借人は、特約がない限り、通常の使用による損耗・汚損を理由に過剰な費用を請求されることはないため、契約締結時に費用負担に関する説明を受けることが重要です。

参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

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