原状回復の特約による原状回復費用(クロス・畳・ハウスクリーニング)の一部が認められた事例
賃貸物件を退去する際の原状回復費用について、どこまでが借主の負担となるのか悩まれる方も多いのではないでしょうか。今回は、東京地方裁判所で行われた裁判をもとに、原状回復特約に関するルールや判例をわかりやすくまとめました。
この事例では、原状回復特約があっても、カーペットの敷替えや室外クリーニングなど、過度な要求については賃借人の負担とはならないとの判断が示されています。一方で、クロスの張替えや室内クリーニングなど、賃借人の使用による損耗については、契約で定められた範囲内での負担が認められました。
賃貸借契約における原状回復義務の範囲と限界を示す重要な事例となっていますので、クロスの張替えや畳の裏返し、ハウスクリーニングによる退去費用についてお困りの方はぜひ参考にしてください。
敷金の返還請求、立ち退きや退去費用に関するトラブルなど、様々な問題について、適切なアドバイスをしております。
裁判所での訴訟等については、業務の範囲外となるため、サポートに限りはありますが、借主の皆様が、より安心して住まいを利用できるよう、最善の解決策をご提案いたします。
トラブル事例の概要
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賃貸借契約からトラブル解決までの経緯
賃貸借契約
賃貸人Xさんは、賃借人Yさんとの間で賃貸借契約を締結しました。契約書には、退去時には賃借人が自己の費用で原状回復を行う旨の特約が付されていました。
- 賃料:月額21万7000円
- 共益費:月額1万8000円
- 原状回復特約:有
賃貸借契約書の原状回復特約の内容には気を付けましょう。
賃料滞納開始
賃借人Yさんは、この月以降の賃料および共益費の支払いを怠るようになりました。
賃貸人の承継
賃借人Yさんは建物を退去しましたが、契約で定められた補修工事を行わないまま明け渡しを行いました。
退去費用の請求
賃貸人Xさんは、カーペットの敷替え、壁等のクロスの張替えなどの原状回復工事を実施し、その費用として65万6785円を支払いました。この費用の請求を賃借人Yさんに対して行いました。
- 原状回復費用:65万6,785円
- クロスの張替え
- 畳の裏返し
- ハウスクリーニング
畳の裏返しとは、畳表を裏返して新しい面を表に出し、畳の寿命を延ばす作業のことです。
東京地方裁判所判決
裁判所は、原状回復費用の一部について賃借人の負担を認め、Yさんに35万8682円の支払いを命じました。
具体的には、クロスの張替え、畳の裏返し、ハウスクリーニング(カーペットクリーニングを含む)が認められました。
- 原状回復費用:35万8,682円
- クロスの張替え:26万8,000円
- 畳の裏返し:2万1,600円
- ハウスクリーニング:6万9,082円
東京高等裁判所判決
賃借人Yさんが一審判決を不服として控訴しましたが、高等裁判所は控訴を棄却し、一審判決が確定しました。
- 原状回復費用:35万8,682円
- クロスの張替え:26万8,000円
- 畳の裏返し:2万1,600円
- ハウスクリーニング:6万9,082円
まとめ:退去費用の内訳と合計
請求額の内訳は、判決内容の退去費用の内訳の割合(クロスの張替え:75%、畳の裏返し:6%、ハウスクリーニング19%)で算出しています。
本件では、賃貸人が請求した65万6785円の原状回復費用に対し、裁判所は35万8682円まで減額しました。これは、必要以上の工事を否定し、合理的な範囲での原状回復費用のみを認めた結果です。
具体的には、カーペットの敷替えは不要とされ、クリーニング費用1万5000円のみが認められました。また、クロスの張替え費用は認められましたが、下地調整や残材処理の費用は否定されました。畳については、表替えではなく裏返し程度で十分とされ、室内クリーニングは1平方メートルあたり700円が相当とされました。
この判決は、原状回復特約があっても、その解釈は合理的な範囲に限定されることを示しています。賃借人の通常の使用による損耗については相応の負担が認められる一方で、過度な要求は認められないという、バランスの取れた判断となっています。
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