退去立会いのサイン拒否後に請求が来た!賃貸トラブルの対処法

賃貸物件を退去する際、立会い時に提示された請求内容に納得がいかずサインを拒否したのに、後から高額な請求書が届いてしまった。
こんな経験をされた方はいませんか?退去時の原状回復費用をめぐるトラブルは賃貸契約において非常に多く、特に立会い時のサイン拒否後の請求は解決が複雑になりがちです。
Aさんは6年間住んだアパートを退去する際、壁のわずかなシミや経年劣化と思われる床の傷に対して高額な修繕費用を請求されました。
納得できずサインを拒否したところ、2週間後にさらに金額が増えた請求書が届いたのです。
このような状況で、私たちはどう対応すべきでしょうか?
この記事では、退去立会い時のサイン拒否後の請求問題について、法的根拠や解決方法、そして予防策まで詳しく解説します。
賃貸トラブルに巻き込まれないための知識を身につけましょう。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
退去立会いとサイン拒否の基本知識とは?

退去立会いとは、賃借人(借主)が物件を退去する際に、賃貸人(貸主)または管理会社の担当者立ち会いのもと、物件の状態を確認する手続きです。
この際、原状回復費用の見積もりが提示され、内容に合意した場合は確認書にサインを求められるのが一般的です。
民法第621条では、賃借人は通常の使用による劣化(経年変化)や損耗については原状回復義務を負わないとされています。
つまり、経年劣化や通常使用による損耗については、借主が修繕費用を負担する必要はないのです。
- サイン拒否は法律上認められた権利であり、納得できない内容にサインする義務はない
- 退去立会い確認書は法的拘束力を持つ契約書の一種と見なされる場合がある
- サインをしないことで、後日の交渉の余地を残すことができる
- 拒否する場合は、具体的な理由を明確に伝え、記録に残すことが重要
- 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が判断基準となる
サイン拒否に関する法的解釈は?

退去時の確認書へのサイン拒否については、明確に規定した法律はありませんが、民法の基本原則に照らし合わせて解釈されます。
民法第1条(信義誠実の原則)に基づき、賃貸借契約の終了においても双方が誠実に対応することが求められます。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、退去時の確認と費用負担については「賃借人の故意・過失、通常の使用を超える使用等による損耗等」と「経年変化や通常の使用による損耗等」を区別し、前者は借主負担、後者は貸主負担とする考え方が示されています。
サイン拒否自体は契約違反には当たりませんが、拒否する場合は具体的な異議点を明確にし、写真や証拠を残すことが重要です。
単にサインを拒否するだけでなく、「経年劣化と思われる箇所に対する請求に納得できない」など、具体的な理由を書面で伝えることで、後の交渉や紛争解決において有利に働くことがあります。
サイン拒否後の請求トラブルが発生するケースは?
退去立会い時のサイン拒否後に請求トラブルが生じる典型的なケースには以下のようなものがあります。

- 経年劣化と故意・過失の認識の相違:壁のクロスの変色や床の擦れなど、貸主は故意・過失による損傷と主張するが、借主は経年劣化と考えるケース
- 立会い後に新たな損傷を発見したとする請求:立会い時には指摘されなかった損傷について、後日追加で請求が来るケース
- 市場相場より明らかに高額な修繕費用の請求:一般的な修繕費用と比較して著しく高額な請求が来るケース
- 敷金返還と原状回復費用の相殺問題:敷金から勝手に修繕費用が差し引かれ、残額のみ(あるいは追加請求)が通知されるケース
- 設備の経過年数を考慮しない全額請求:使用年数が経過した設備の交換費用全額を請求されるケース
国土交通省の調査によると、賃貸住宅の退去時のトラブルの約40%が原状回復費用に関するものであり、そのうち約半数がサイン拒否後の請求に関する問題だとされています。
サイン拒否とは異なる主張で請求が来るケース
退去立会い時のサイン拒否後の請求問題とは別に、異なる主張や理由で請求が来るケースも存在します。
これらは混同されやすいものの、対応方法が異なるため、正確に問題を識別することが重要です。

問題の種類 | 特徴 | 対応方法 | 判別ポイント |
---|---|---|---|
サイン拒否後の請求問題 | 立会い時に提示された見積りにサインせず、後日異なる(多くは高額な)請求が来る | 根拠の説明を求め、不当な請求には異議申立て | 立会い時の見積りと後日請求の金額・内容の相違 |
新発見損傷による追加請求 | 立会い時には発見されなかったとする損傷に対して後日請求が来る | 立会い時の写真や記録で反論、発見時期の証明を求める | 立会い記録にない損傷項目の追加、発見が遅れた合理的理由の有無 |
特約を根拠とする請求 | 契約書の特約条項を根拠に、通常は借主負担ではない経年劣化部分も請求 | 特約の有効性を検証し、不当条項であれば消費者契約法で反論 | 請求書に特約の記載・引用がある、一般常識や法令に反する内容 |
自分が直面している問題を正確に判断するためには、以下の点が重要です。
- 立会い時の状況記録(写真・メモ)
- 提示された見積書のコピー
- 退去後の請求書の内容と請求理由
- 契約書の特約条項の確認
特に「新たに発見した」という理由での追加請求や、「契約特約に基づく」という理由での経年劣化部分への請求は、サイン拒否の問題とは別の対応が必要となります。
サイン拒否後の請求トラブルをどう解決する?
退去立会い時にサインを拒否した後、不当な請求が来た場合の解決プロセスについて解説します。
まず、請求内容の詳細な説明と根拠を文書で求めましょう。
民法第418条に基づき、損害賠償の範囲は通常生ずべき損害に限られます。
つまり、経年劣化や通常の使用による損耗については賠償義務はありません。
具体的な解決プロセスは以下の通りです。

- 請求内容の詳細な説明と根拠資料(写真、見積書など)を文書で要求する
- 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、不当な請求部分を特定する
- 反論書を作成し、経年劣化部分と借主負担部分を明確に区別した上で、適正な金額を提示する
- 話し合いで解決しない場合は、消費生活センターや住宅紛争処理支援センターなどの第三者機関に相談する
- それでも解決しない場合は、少額訴訟など法的手段を検討する
解決までの期間は、話し合いで解決する場合は1〜2ヶ月、第三者機関を介する場合は2〜3ヶ月、法的手段に訴える場合は3〜6ヶ月程度が目安です。
費用については、内容証明郵便の送付(約1,500円程度)や弁護士相談料(初回30分5,000円程度から)、少額訴訟手数料(訴額により異なるが数千円程度)などがかかります。
- 全てのやり取りは書面(メール含む)で行い、電話での会話は録音するか議事録を作成する
- 退去時の部屋の状態を示す写真・動画証拠が最も有力な証拠となる
- 国土交通省のガイドラインを具体的に引用して反論することが効果的
- 消費生活センターの無料相談サービスを積極的に活用する
- 敷金返還については、敷金返還請求訴訟の時効は退去から10年間(民法第167条)
退去立会い時のトラブルを事前に防ぐには?

退去立会い時のサイン拒否後の請求トラブルを事前に防ぐための最も効果的な方法は、「証拠を残す」ことと「知識を持つ」ことです。
トラブルは多くの場合、双方の認識の相違から生じるため、客観的な証拠と正確な知識があれば防げることが少なくありません。
入居時には、部屋の状態を詳細に記録しておくことが重要です。
壁、床、設備など細部にわたって写真や動画で記録し、日付入りで保存しておきましょう。
また、契約書や重要事項説明書に記載されている原状回復に関する条項を熟読し、不明点があれば必ず確認しておくことが大切です。
退去予定が決まったら、事前に国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に目を通し、借主と貸主のそれぞれの負担範囲について理解を深めておきましょう。
また、立会い前に自分で部屋の状態をチェックし、経年劣化と思われる箇所を事前に把握しておくことも有効です。
- 入居時・退去時ともに部屋の状態を写真や動画で詳細に記録する
- 立会い時は第三者(友人など)に同席してもらい、証人を確保する
- 提示された見積もりや説明内容はメモを取り、コピーをもらう
- 経年劣化と考えられる箇所は、使用年数や国交省ガイドラインを根拠に丁寧に説明する
- 立会い時に納得できない点があれば、その場でハッキリと異議を述べ、記録に残す
退去立会いのサイン拒否に関するQ&A
まとめ
退去立会い時のサイン拒否後の請求トラブルは、正しい知識と適切な対応があれば解決可能です。
この記事のポイントをまとめると以下の通りです。

- 退去立会い時のサイン拒否は法律上認められた権利であり、納得できない内容にはサインする必要はない
- 経年劣化や通常使用による損耗は借主負担ではなく、これを基準に請求内容を精査すべき
- トラブル防止の鍵は「証拠を残す」こと——入居時・退去時の写真や動画記録が最も有力な証拠となる
- 請求に納得できない場合は、国土交通省のガイドラインを根拠に具体的に反論する
- 話し合いで解決しない場合は、消費生活センターや法的手段の活用を検討する
トラブルに遭遇したら、まずは冷静に状況を分析し、証拠や法的根拠に基づいて対応しましょう。
また、事前の知識を身につけ、入居時からトラブル予防の意識を持つことも重要です。
この記事で解説しきれなかった関連トピックとしては、「原状回復費用の相場」「特約の有効性と限界」「連帯保証人への請求問題」などがあります。
これらについても知識を深めることで、よりトラブルに強くなることができるでしょう。
賃貸住宅は私たちの生活の基盤です。
適切な知識と対応で、退去時のトラブルを回避し、円満な契約終了を目指しましょう。
これは一般的な情報提供であり、個別の事例については専門家への相談をお勧めします。
