
クリーニング特約に金額記載なしで無効の判例
退去時に管理会社から「ハウスクリーニング代は特約に基づいて負担してほしい」と言われたものの、契約書に具体的な金額が記載されていなかった経験はありませんか。
本記事で紹介するのは、国土交通省のガイドラインに収録されたクリーニング特約のトラブルです(ガイドライン事例集13)。
この裁判では、契約書の費用負担特約にフロア張替えやクリーニングの規定がないにもかかわらず、貸主が総額21万7857円を借主に請求したことが争点となりました。
仙台簡易裁判所は特約に明記されていないフロア張替え費用とクリーニング費用を借主負担の対象外とし、敷金5万9955円の返還を命じました。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
仙台簡裁が示したハウスクリーニング特約と費用負担の範囲

- 費用負担特約に記載のないフロア張替えとクリーニング費用が争点となった経緯
- 裁判所は特約に明記のない費用を借主負担の対象外と判断し敷金の一部返還を命じた
- ハウスクリーニング費用の耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる

「クリーニング代は契約書に書いてあるから払ってください」と管理会社に言われて困ったことはありませんか。
この仙台簡裁の判決は、特約に具体的な費用項目や金額が明記されていなければ借主にその費用を負担させることはできないとした重要な先例です。
費用負担特約に記載のないフロア張替えとクリーニング費用が争点となった経緯

まず、この裁判の背景として、借主は平成9年11月に敷金16万5000円を支払って賃貸物件に入居し、約1年半後の平成11年5月に退去しました。
賃貸借契約書には退去時の費用負担特約として「畳修理代」と「襖張替え代」の2項目のみが明記されていましたが、フロア張替え費用やハウスクリーニング費用については一切記載がありませんでした。
貸主はこの特約を根拠に、畳修理代や襖張替え代に加えてフロア張替え費用9万4500円とクリーニング費用3万6750円を含む総額21万7857円の退去費用請求を行いました。
民法第621条は通常損耗と経年変化を原状回復義務の対象から除外しており、特約に記載のない費用項目まで借主に負担させることができるかどうかが、裁判の最大の争点となりました。
契約書に明記されていない費用を請求された場合は、特約の内容を正確に確認することが大切です。
民法第621条:賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。
裁判所は特約に明記のない費用を借主負担の対象外と判断し敷金の一部返還を命じた


次に、仙台簡易裁判所が各費用項目についてどのように判断したかを整理します。
裁判所は契約書の費用負担特約条項を詳細に検討した結果、「フロアの張替え及びクリーニングの費用負担の規定はない」と明確に認定し、フロア張替え費用9万4500円とクリーニング費用3万6750円を借主負担の対象外としました。
さらに裁判所は、通常損耗について借主に負担を求めるためには「賃借人が義務を認識し又は認識し得べくして義務の負担の意思表示をしたことが必要」との厳格な判断基準を示し、敷金5万9955円の返還命令を出しました。
一方で、契約書に明記されていた畳修理代と襖張替え代については借主の負担義務が認められ、敷金16万5000円から畳・襖の費用を差し引いた残額が返還されることになりました。
特約に書かれていない費用は、借主が負担する義務がないのが原則です。
民法第601条:賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
ハウスクリーニング費用の耐用年数と残存価値の計算方法を把握しておくことが重要になる
クロス・カーペット・クッションフロア等の耐用年数は6年です。要は入居期間が6年以上であれば、原状回復費用は発生しない(0円)ということになります。
さらに、この判決のようにハウスクリーニング特約が争点となるケースでは、国土交通省のガイドラインが定める経過年数の考え方を知っておくことが重要です。
たとえばクロス(壁紙)の耐用年数は6年と定められており、定額法による計算では入居1年目の残存価値は約83%、3年目で約50%、6年目以降はほぼ1円となるため、長期入居であるほど借主が負担すべき金額は少なくなります。
この事例の借主は約1年半の入居期間であったため、仮にクロス張替えが借主負担となった場合でも残存価値は約75%程度に減額されるはずですが、裁判所はクリーニング代の全額否認という判断を下しました。
入居年数ごとに借主が負担すべき残存価値を計算ツールで確認できます。
民法第606条第1項:賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
この判決から学ぶハウスクリーニング特約の有効要件と退去費用への対処法


- ハウスクリーニング特約が有効となるには費用項目と金額の明記が必要になる
- 最高裁判所も通常損耗の原状回復特約には借主の明確な合意を求めている
- 特約に金額記載がないクリーニング費用を請求されたときは段階的に交渉を進められる


判決の要点を理解したうえで、実際にハウスクリーニング費用を請求されたときにどう対処すればよいのか気になる方も多いでしょう。
ここでは、特約が有効と認められるための法的な要件と最高裁判決との比較、そして不当な請求を受けたときの具体的な交渉手順を解説します。
ハウスクリーニング特約が有効となるには費用項目と金額の明記が必要になる


まず、この仙台簡裁の判決がハウスクリーニング特約を無効とした法的な理由を整理します。
裁判所は「費用負担特約条項にはフロアの張替え及びクリーニングの費用負担の規定はない」と明確に判示し、契約書に記載のない費用項目を借主に転嫁することはできないとしました。
国土交通省のガイドラインも、ハウスクリーニング特約が有効となるための要件として「クリーニングの対象範囲が具体的に明記されていること」「費用の金額が明示されていること」「借主がその内容を理解し合意したことが確認できること」の3つを挙げており、この事例では金額の明示がなかったことが特約無効と判断された決定的な理由です。
退去時にクリーニング費用を請求された場合は、まず契約書の特約にクリーニングの対象範囲と金額の両方が記載されているかを確認してください。


特約の有効性は「借主が内容を十分に理解して合意したか」が判断の分かれ目になります。
民法第90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
最高裁判所も通常損耗の原状回復特約には借主の明確な合意を求めている


加えて、最高裁判所も平成17年12月16日の判決で同様の判断を示しています。
最高裁は、通常損耗について借主に原状回復義務を負わせるためには「契約書に具体的に明記されているか」または「口頭で説明し借主が明確に認識・合意していること」が必要と判示しました。
この仙台簡裁の判決は平成12年に出されており、最高裁判決の5年以上前に同様の理論を示した先駆的な判例として位置づけられるため、退去費用の交渉では簡裁と最高裁の二重の判断基準を根拠に主張を組み立てることができます。
仙台簡裁が示した「借主が義務を認識し得べくして意思表示をしたこと」という基準は、後の最高裁判決の理論的な土台となった重要な法的根拠です。
最高裁の判断基準を知っていれば、退去時の交渉で有効な根拠として活用できます。
民法第415条第1項:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
特約に金額記載がないクリーニング費用を請求されたときは段階的に交渉を進められる


最後に、ハウスクリーニング費用が特約に金額記載なく請求されたときの具体的な対処法を解説します。
第一歩として、管理会社に「契約書の費用負担特約にクリーニング費用の金額記載がない」旨を書面で伝え、費用の法的根拠と内訳の提示を求めてください。
書面での交渉で解決しない場合は、国民生活センター(消費者ホットライン188番)や各地域の消費者センターへの無料相談、60万円以下であれば簡易裁判所の少額訴訟制度を検討しましょう。


すでに支払った過払い分については民法上の不当利得としての返還請求が可能であるため、泣き寝入りする必要はありません。
段階的に交渉を進めれば、不当なクリーニング費用を大幅に減額できるケースは少なくありません。
民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
よくある質問
まとめ
この判決は、金額未記載のクリーニング特約の無効を明確に示した先例です。
退去時にクリーニング費用を請求された場合は、まず「契約書の特約にクリーニング費用が明記されているか」「金額が具体的に記載されているか」を確認することが重要です。
この記事のポイントを振り返ります。
- 仙台簡裁は特約に明記のないフロア張替え費用とクリーニング費用を借主負担の対象外と判断した
- 特約に記載された畳修理代と襖張替え代のみが借主の負担として認定された
- 通常損耗の費用を借主に負担させるには借主の明確な認識と合意が必要とされた
- この判決は最高裁判決の理論的基礎となった重要な先例として位置づけられている
- 不当な請求には書面での交渉や消費者センターへの相談で対処できる


- 敷金ドットコムは、情報提供を目的としたサイトです。行政書士が記事の監修および執筆を行っておりますが、根本的な問題やトラブルの解決を目的としたものではありません。トラブルの解決については、弁護士または認定司法書士にご相談ください。










