
【敷金が返ってくる割合は69%】貸主が敷金を返すまでの流れ
「敷金は返ってくるもの」と「返ってこないもの」——あなたはどちらのイメージを持っていますか。実は調査データによると、賃貸退去時に敷金が何らかの形で返還される割合は約69%であることがわかっています。
一方で、全額返還されるケースはわずか12%に過ぎず、約3割の借主は1円も戻ってきていません。「返ってくる人」と「返ってこない人」の差はどこにあるのでしょうか。
この記事では、敷金返還率の実態データから貸主が敷金を返すまでの具体的な流れ、そして返還率を上げるための事前準備まで、データに基づいてわかりやすく解説します。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
敷金返還率の実態データ
敷金がどの程度返還されるかを把握するために、まず実際の調査データを確認しましょう。「返ってくる人」と「返ってこない人」の割合には、明確な傾向が見られます。
1-1. 全体の返還率と返還額の分布
リクルート住宅総研の調査によると、東京における敷金の返還状況は以下のような分布になっています。
- 100%返還:全体のわずか12%(約10人に1人)
- 50〜99%返還:約41.3%(最も多いゾーン)
- 1〜49%返還:約15.5%(半額以下の返還)
- 0%返還(全額没収):約31%(約3人に1人)
つまり、何らかの返還がある人は全体の約69%ですが、平均返還率は42%にとどまっています。2か月分の敷金を支払っていても、実際に戻ってくるのは1か月分に満たないのが現実です。
1-2. 世帯人数・居住年数による返還率の違い
返還率は、世帯人数や居住年数によっても大きく異なります。以下のテーブルで確認してみましょう。

| 世帯人数 | 100%返還の割合 | 平均返還率 | 0%返還の割合 |
|---|---|---|---|
| 1人世帯 | 約14% | 約43% | 約28% |
| 2人世帯 | 約11% | 約41% | 約32% |
| 3人以上世帯 | 約10% | 約39% | 約35% |
世帯人数が多いほど返還率が下がる傾向が見られます。家族での居住は使用面積や損耗の度合いが大きくなりやすいことが一因と考えられます。
データ上は69%の人が何らかの返還を受けていますが、金額面では十分とは言えない状況です。ガイドラインに基づく適正な精算がなされているかどうかが、返還率を左右する最大のポイントです。
同じ賃貸物件に住んでいても、敷金が返ってくる人と返ってこない人がいます。その差を生む要因は、主に3つのポイントに集約されます。
2-1. 原状回復ルールの理解度
国土交通省のガイドラインでは、経年劣化・通常損耗は貸主負担、故意・過失による損耗のみ借主負担と明確に定められています。しかし、このルールを知らない借主は、本来払う必要のない費用まで受け入れてしまうケースが少なくありません。
- 壁紙の変色・日焼け:経年劣化のため貸主負担
- 家具の設置跡:通常の使用による損耗のため貸主負担
- 画鋲の穴:日常生活の範囲内のため貸主負担
- クロスの耐用年数:6年で残存価値1円のため、長期居住で負担は軽減
2-2. 入居時の記録と証拠の有無
敷金返還でトラブルになった際に、最も強力な武器となるのが入居時の写真・動画記録です。「この傷は入居前からあった」と証明できれば、不当な原状回復請求を拒否できます。
- 日付入りの写真:各部屋の壁・床・天井を撮影(タイムスタンプ付き)
- 既存の傷や汚れ:クローズアップで撮影し、場所をメモに記録
- 水回りの状態:キッチン・浴室・トイレの詳細を撮影
- 物件状況確認書:管理会社と共同で作成し、双方で保管
2-3. 契約書の特約への対応力
賃貸借契約書には「ハウスクリーニング代は借主負担」「クロス張替え費用は借主負担」などの特約が記載されていることがあります。ただし、すべての特約が有効とは限りません。
- 特約が有効となるには「具体的な金額や範囲の明示」「借主の理解と同意」が必要
- 抽象的な「原状回復全額借主負担」のような特約は無効になりやすい
- 消費者契約法10条により、一方的に不利な特約は無効を主張できる
退去費用の交渉を専門家に依頼する方法は、以下の記事で解説しています。
貸主が敷金を返すまでの具体的な流れ
退去から敷金が返還されるまでには、いくつかのステップがあります。各段階で何が行われるかを理解しておくことで、不当な扱いにいち早く気づくことができます。
3-1. 退去から返還までのタイムライン
一般的な敷金返還の流れを時系列で確認しましょう。目安として退去から1〜2か月以内に返還されるのが標準です。
- 退去日:鍵の返却と退去立会い(所要30分〜1時間)
- 退去後1〜2週間:貸主側が原状回復の見積もりを作成
- 退去後2〜4週間:精算書(原状回復費用の明細)が届く
- 退去後1〜2か月:敷金から原状回復費用を差し引いた残額が返還
3-2. 退去立会いで確認すべきこと
退去立会いは、原状回復費用の算定に直結する重要な場面です。立会いに参加しない場合、貸主側の一方的な判断で費用が決まるリスクがあるため、必ず参加しましょう。
- 入居時の写真を持参し、入居前からの傷を証明できるようにする
- 指摘された各項目が通常損耗・経年劣化・特別損耗のどれに該当するか確認する
- 立会い時の状態を自分のスマートフォンでも撮影しておく
- その場で精算書への署名を求められても、即座に応じない
3-3. 精算書の内容をガイドラインと照合する
精算書が届いたら、各項目をガイドラインの基準と照らし合わせてチェックします。以下の表を参考に、不当な請求がないか確認しましょう。


| 精算書の項目 | ガイドラインの原則 | チェックポイント |
|---|---|---|
| クロス張替え | 経年劣化分は貸主負担 | 6年以上居住なら残存価値1円 |
| ハウスクリーニング | 通常は貸主負担 | 特約の有無と有効性を確認 |
| 床の傷 | 家具設置跡は通常損耗 | 故意・過失による傷との区別 |
| 水回りの汚れ | 通常使用の水垢は貸主負担 | 清掃不足によるカビは借主負担の場合も |
| 鍵交換費用 | 紛失でなければ貸主負担 | 次の入居者のための交換は貸主負担 |
精算書の内容に疑問を感じたら、すぐに管理会社に根拠の説明を求めてください。「ガイドラインではこの項目は貸主負担とされていますが」と具体的に指摘することが、返還額を改善する第一歩です。
敷金返還率を上げるための事前準備
敷金を少しでも多く取り戻すためには、入居前・居住中からの準備が欠かせません。ここでは、返還率を上げるために実践すべき具体的な対策を紹介します。
4-1. 入居前に確認・記録すべきこと
入居時の記録は、退去時の最大の武器になります。面倒に感じるかもしれませんが、以下のチェックリストに沿って準備しておきましょう。
- 契約書の特約確認:ハウスクリーニング代・クロス張替えなどの特約内容を確認
- 写真撮影:壁・床・天井・水回り・建具の状態を日付入りで撮影
- 物件状況確認書の作成:管理会社と共同で既存の傷や不具合を記録
- 設備の動作確認:エアコン・給湯器・換気扇の動作をチェック
4-2. 居住中に心がけるメンテナンス
通常損耗は貸主負担ですが、清掃を怠った結果生じた汚損は「特別損耗」と判断される可能性があります。日常的なメンテナンスを習慣化しましょう。
- 定期的な換気で結露・カビを予防する
- キッチンの油汚れはこまめに拭き取る
- 浴室・トイレは週1回以上の清掃を心がける
- 家具の脚にはフェルトパッドを貼り、床への傷を防止する
- 設備の不具合は放置せず、早めに管理会社へ連絡する
精算書の内容に納得できない場合でも、諦める必要はありません。段階的に対処することで、返還額を改善できる可能性があります。
5-1. 管理会社への交渉と内容証明郵便
まずは管理会社に対して、ガイドラインを根拠に不当と考える項目を書面で指摘しましょう。口頭でのやり取りだけでなく、メールや書面で記録を残すことが重要です。
- 書面での指摘:精算書の不当な項目をガイドラインを引用して指摘
- 内容証明郵便:交渉が進まない場合に正式な返還請求として送付
- 民事調停:裁判所の調停委員を介した話し合い(費用数千円)
- 少額訴訟:60万円以下なら原則1回の期日で判決
5-2. 無料で利用できる相談窓口
一人で対処するのが難しい場合は、無料の公的相談窓口を活用しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、交渉の根拠が明確になり、返還率の改善が期待できます。


| 相談先 | 電話番号 | 特徴 |
|---|---|---|
| 消費生活センター | 188(局番なし) | 退去費用トラブルの一般的な相談・助言が無料 |
| 法テラス | 0570-078374 | 法的情報の提供や弁護士の紹介が可能 |
| 都道府県の不動産相談窓口 | 自治体により異なる | 不動産取引に関する専門的な相談に対応 |
| 弁護士・行政書士 | 事務所により異なる | 有料だが内容証明作成や訴訟代理が可能 |
内容証明郵便を送付しただけで貸主が態度を軟化させるケースは非常に多いです。いきなり訴訟を検討する前に、まずは書面交渉と専門窓口への相談から始めてみましょう。
具体的な負担割合は、以下のガイドライン負担割合表で確認できます。
まとめ:敷金返還率69%の内訳を知り、適正な返還を受けよう
敷金が何らかの形で返還される割合は約69%ですが、全額返還はわずか12%。「返ってくる人」と「返ってこない人」の差は、ガイドラインの知識・入居時の記録・退去時の交渉力に集約されます。
この記事のポイント
- 敷金返還の実態データ
- 何らかの返還がある人は約69%
- 全額返還はわずか12%、平均返還率は42%
- 世帯人数が多いほど返還率は低下する傾向
- ガイドラインの知識が返還率を左右する
- 返還率を上げるための実践ポイント
- 入居時の写真記録で証拠を確保する
- 精算書はガイドラインと照合してチェック
- 退去立会いでは即座に署名しない
- 納得できない場合は書面交渉から段階的に対処
敷金返還率69%という数字は、裏を返せば31%の人が1円も取り戻せていないということです。入居時の記録とガイドラインの知識があれば、あなたは「返ってくる69%」の側に立てます。退去前に必ずこの記事の内容を見直してください。
- 本記事は一般的な情報提供を目的としており、実際の退去手続きや費用負担については契約書・管理会社・貸主の案内を必ずご確認ください。
- 記事中の返還率データは、リクルート住宅総研による東京都を対象とした調査に基づいており、地域や物件の条件により結果は異なります。











