この事例の概要
本件は、賃借人が敷引特約を認識していたにもかかわらず、裁判所がその特約の成立を否定し、敷金の一部返還を命じた事例です。賃貸人が主張した修繕費用についても、故意・過失による損耗と認められず、敷金の返還が認められました。
行政書士 松村 元
監修者
自己紹介文要約:
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
目次
事例の背景
賃貸借契約の締結: 賃借人Xと賃貸人Yは、平成17年10月に月額賃料8万5000円で賃貸借契約を締結し、敷金として42万5000円を支払いました。
敷引特約: 契約書には、敷金について明け渡しの1か月後に3.5か月分を差引いて返還するとの約定が記載されていました。
明け渡しと敷金返還: 賃借人Xは平成21年3月28日に物件を明け渡しましたが、賃貸人Yは敷金のうち12万7500円のみを返還しました。
訴訟提起: 賃借人Xは、敷引特約の不成立及び消費者契約法10条違反を主張し、29万5960円の返還を求めて提訴しました。
裁判所の判断
裁判所は以下の点を判断しました。
裁判所は、敷引特約が通常損耗による修繕費を目的とするものと認定したものの、契約書に通常損耗の範囲が明記されておらず、賃貸人や不動産会社が口頭で説明したと認められる証拠もないため、特約の成立を否定しました。
また、賃借人Xが敷引特約を認識していたことは認められるが、具体的かつ明確な説明を受けて納得する必要があったと指摘しました。
さらに、賃貸人Yが主張した修繕費用42万7088円については、賃借人Xが自認する1540円以外は故意・過失による特別損耗と認められないと判断しました。
その結果、裁判所は敷引特約の成立を否定し、賃借人Xに対して29万5960円の敷金返還を命じました。
まとめ
結論
- 賃貸人からの請求金額:42万7088円
- 裁判所の判決:1540円
- 預け入れた保証金:425,000円
- 保証金の返還額:423,460円
本判決から得られる実務的な示唆は以下の通りです。
- 通常損耗の範囲を明記にする
- 具体的かつ明確な説明を行う
- 故意・過失を立証する
敷引特約を有効とするためには、契約書に通常損耗の範囲を明記し、賃借人に対して具体的かつ明確な説明を行う必要があります。
また、賃貸人が修繕費用を請求する際には、その損耗が賃借人の故意・過失によるものであることを立証することが重要です。
これにより、トラブルを防ぎ、双方の権利を適切に保護することができます。
参照元:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)