
用法違反とは?賃貸借契約が解除になるリスクをわかりやすく解説
賃貸物件に住んでいると、契約書に記載された使用ルールをどこまで守る必要があるのか、気になる場面があるかもしれません。実は、賃貸借契約には「用法違反」という概念があり、違反の程度によっては契約解除や退去を求められるリスクが存在します。
用法違反とは、民法594条1項に基づき「契約またはその目的物の性質によって定まった用法」に反して物件を使用することを指します。居住用物件での無断営業やペット禁止物件での飼育、無断転貸などがその代表例です。
この記事では、用法違反の法的根拠から主な種類、契約解除の判断基準、退去費用への影響、そして用法違反を指摘された場合の対処法まで、ガイドラインと判例に基づいて体系的に解説します。

監修者
1982年にサレジオ学院高校を卒業後、中央大学法学部法律学科に進学し1987年に卒業。法曹界を志し、様々な社会経験を経た後、2016年に行政書士試験に合格。2017年4月に「綜合法務事務所君悦」を開業。法律知識と実務経験を活かし、国際業務を中心に寄り添ったサービスを提供している。
日本行政書士会連合会 神奈川県行政書士会所属
登録番号 第17090472号
用法違反の定義と法的根拠
賃貸借契約における用法違反とは何か、その法的な位置づけを正確に理解することが、トラブル防止の第一歩です。民法の規定と賃貸借契約の関係を確認しましょう。
1-1. 民法594条・616条が定める用法遵守義務
用法違反の法的根拠は、民法594条1項にあります。この条文は「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」と規定しています。民法616条によりこの規定は賃貸借にも準用されるため、賃借人にも用法遵守義務が課されます。
- 民法594条1項:借主は契約で定まった用法に従い使用する義務がある
- 民法616条:594条の規定を賃貸借に準用する
- 民法541条:債務不履行(用法違反)を理由とする催告解除の根拠
- 民法612条:無断転貸・無断譲渡の禁止と解除権
1-2. 契約書で定められる「用法」の範囲
賃貸借契約書には、物件の使用目的や禁止事項が明記されています。用法は大きく「契約で定められた用法」と「目的物の性質から定まる用法」の2種類に分けられます。
たとえば、契約書に「居住用」と記載されていれば事務所や店舗としての利用は用法違反です。また、契約書に明記がなくても、マンションの一室を工場として使うような行為は「目的物の性質」から逸脱するため、用法違反に該当します。
賃貸物件で問題となる用法違反には、さまざまなパターンがあります。ここでは代表的な違反類型を具体例とともに解説します。
2-1. 使用目的に関する違反
居住用物件を本来の目的と異なる用途で使用する行為は、もっとも典型的な用法違反です。
- 無断営業:居住用物件で飲食店やネイルサロンなどを開業する
- 事務所利用:居住用物件を法人の事業所として登記・使用する
- ペット禁止物件での飼育:契約で禁止されている動物を飼う
- 楽器演奏禁止物件での演奏:騒音トラブルにつながる契約違反
2-2. 無断転貸・同居人の追加
無断転貸(又貸し)は、民法612条で明確に禁止されている行為です。貸主の承諾を得ずに第三者に部屋を使用させた場合、無催告での契約解除が認められることもあります。
また、契約書に記載のない同居人を貸主に無断で住まわせることも、用法違反にあたる可能性があります。特に、民泊やルームシェアとして不特定多数に利用させるケースは重大な違反と判断されやすくなっています。
2-3. 建物を損傷する行為
物件の構造に影響を与える改造や、著しい損傷を生じさせる行為も用法違反です。無断でのリフォーム(壁の撤去・設備の変更)や、ベランダへの大型物置の設置なども該当します。

| 違反類型 | 具体例 | リスクの程度 |
|---|---|---|
| 使用目的違反 | 居住用物件での無断営業・事務所利用 | 高い(契約解除の可能性) |
| 禁止事項違反 | ペット飼育禁止・楽器演奏禁止への違反 | 中〜高(程度による) |
| 無断転貸 | 又貸し・民泊利用 | 非常に高い(即時解除も) |
| 建物損傷 | 無断リフォーム・構造変更 | 高い(損害賠償も発生) |
| 迷惑行為 | 騒音・悪臭・ゴミ屋敷化 | 中〜高(近隣被害の程度) |
ゲン用法違反の判断は「契約書の記載」と「信頼関係の破壊の程度」がポイントです。軽微な違反であれば是正すれば問題になりにくいですが、無断転貸のように重大な違反は即座に契約解除につながることもあります。
各設備の耐用年数と負担割合の詳細は、以下の記事で確認できます。
契約解除が認められる判断基準
用法違反があったとしても、直ちに契約解除が認められるわけではありません。裁判所は「信頼関係破壊の法理」に基づき、違反の程度や経緯を総合的に判断します。
3-1. 信頼関係破壊の法理とは
信頼関係破壊の法理とは、賃貸借契約の解除には当事者間の信頼関係が破壊されたと認められる程度の債務不履行が必要とする判例法理です。最高裁判例(昭和39年7月28日)で確立されたこの法理により、軽微な用法違反だけでは契約を解除できません。
- 貸主の再三の是正要求を無視:注意や警告に従わず違反を継続した場合
- 近隣住民への重大な被害:騒音・悪臭などで他の入居者に深刻な影響がある場合
- 建物の安全性を脅かす行為:構造に影響する改造や危険物の持ち込み
- 無断転貸の継続:民泊運営や又貸しを貸主に隠して行っている場合
3-2. 催告と無催告解除の違い
通常、用法違反を理由とする契約解除には民法541条に基づく催告(相当期間を定めて是正を求めること)が必要です。ただし、無断転貸のように信頼関係の破壊が著しい場合や、契約書に無催告解除条項が定められている場合は、催告なしでの解除が認められることがあります。
いずれの場合でも、貸主側には「信頼関係が破壊された」ことを立証する責任があります。違反の事実だけでなく、是正の機会を与えたか、違反が継続的かどうかなどが総合的に判断されます。
用法違反と退去費用の関係
用法違反は契約解除リスクだけでなく、退去時の原状回復費用にも大きく影響します。ガイドラインと用法違反の関係を理解しておくことが重要です。
4-1. 用法違反による損耗は「特別損耗」に該当
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、借主の故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による損耗は「特別損耗」として借主負担とされています。用法違反による損傷は、この特別損耗に該当するため、修繕費用の負担を求められます。
- ペット飼育による損傷:壁・柱の引っかき傷、床の爪痕、臭い除去費用
- 無断営業による損耗:看板設置跡、油汚れ、不特定多数の出入りによる共用部の損傷
- 無断リフォーム:原状回復のための撤去・復旧費用の全額負担
- 迷惑行為によるゴミ屋敷化:特殊清掃費用や消臭費用
4-2. 違約金と損害賠償の違い
賃貸借契約書には、用法違反に対する違約金条項が設けられていることがあります。たとえば「ペット飼育が発覚した場合、違約金として家賃2か月分を支払う」などの規定です。
違約金は契約で定められた定額の制裁金であるのに対し、損害賠償は実際に生じた損害に対する補償です。違約金の額が不当に高額な場合は、消費者契約法9条により無効とされる可能性があります。平均的な損害額を超える部分は無効と主張できるため、高額な違約金を請求された場合は専門家に相談しましょう。
もし貸主や管理会社から用法違反を指摘された場合、適切な対応をとることで契約解除を回避し、費用負担を最小限に抑えることができます。
5-1. まず行うべき3つのステップ
- 違反行為を直ちに是正する:ペット飼育なら里親を見つける、営業利用なら速やかに停止する
- 契約書の内容を確認する:違反に該当する条項と、違約金規定の有無を確認
- 貸主・管理会社と誠実に協議する:是正後の対応について書面で合意を得る
5-2. 不当な請求への対抗手段
用法違反を理由に過大な違約金や退去費用を請求された場合、以下の対抗手段を検討できます。



用法違反を指摘されたら、まず違反行為を速やかに是正することが最優先です。是正の姿勢を示すことで「信頼関係の回復」が認められ、契約解除を回避できるケースが多くあります。一方で、不当に高額な違約金には消費者契約法による保護がありますので、冷静に対処してください。
具体的な負担割合は、以下のガイドライン負担割合表で確認できます。
まとめ:用法違反の理解で賃貸トラブルを未然に防ぐ
賃貸借契約における用法違反は、契約解除・退去費用の増額・違約金請求という3つのリスクにつながる重要な概念です。民法594条に基づく用法遵守義務を理解し、契約書の内容を守ることが最善の予防策です。
この記事のポイント
- 用法違反の基本と法的根拠
- 民法594条・616条が用法遵守義務を規定
- 無断営業・ペット飼育・無断転貸が代表例
- 契約解除には「信頼関係の破壊」が必要
- 用法違反による損耗は特別損耗として借主負担
用法違反は「知らなかった」では済まされません。入居時に契約書の使用目的・禁止事項を必ず確認し、不明点があれば管理会社に事前相談してください。万が一違反を指摘された場合は、速やかに是正し、誠実に対応することが最も有効な解決策です。
- 本記事は一般的な情報提供を目的としており、実際の退去手続きや費用負担については契約書・管理会社・貸主の案内を必ずご確認ください。
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は法的拘束力を持つものではありませんが、裁判や調停では重要な判断基準として参照されています。












