敷引特約による原状回復費用(ハウスクリーニング)が認められた事例
賃貸物件を退去する際、原状回復費用の負担を巡って賃貸人とトラブルになることがあります。今回は、大阪簡易裁判所で行われた裁判をもとに、敷引特約と原状回復義務に関するルールや判例をわかりやすくまとめました。
この事例では、賃貸借契約に敷引特約が付されている場合、通常の使用による損耗や汚損の修繕費用は敷引金から充当すべきとの判断が示されています。
賃貸借契約における敷引特約の解釈と、賃借人の原状回復義務の範囲を明確にした重要な事例となっていますので、クロスや畳、襖などの退去時の原状回復費用でお困りの方はぜひ参考にしてください。
賃貸借契約における原状回復義務の範囲と限界を示す重要な事例となっていますので、クロス・障子・襖の張替えや、床畳工事、ハウスクリーニングによる退去費用についてお困りの方はぜひ参考にしてください。
敷金の返還請求、立ち退きや退去費用に関するトラブルなど、様々な問題について、適切なアドバイスをしております。
裁判所での訴訟等については、業務の範囲外となるため、サポートに限りはありますが、借主の皆様が、より安心して住まいを利用できるよう、最善の解決策をご提案いたします。
トラブル事例の概要
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賃貸借契約からトラブル解決までの経緯
賃貸借契約
1990年8月1日、賃借人Xは賃貸人Yと建物の賃貸借契約を締結し、保証金として170万円を預託しました。契約では、契約期間2年未満の場合は30%、2年以上の場合は25%を差し引いた残額を返還する敷引特約が付されていました。
- 保証金:170万円
- 敷引特約:有
- 2年未満:30%(54万円)
- 2年以上:25%(42万5,000円)
敷引とは、賃貸契約において、退去時に保証金から一定割合を差し引く特約のことです。敷引分は通常の使用による原状回復費用に充当されます。
契約解約と明け渡し
賃借人Xは契約を解約し、建物を明け渡しました。
退去費用の請求
賃貸人Yは、保証金170万円から25%を差し引いた127万5,000円を返還すべきところ、賃借人による使用で建物が甚だしく汚損されたとして、クロス、障子、襖の張替え、床畳工事、クリーニング費用など約45万円を差し引き、81万円余りしか返還しませんでした。これに対し賃借人Xは、通常の使用による原状回復費用は敷引分である42万5000円から充当すべきとして、残額46万円余りの支払いを求めて提訴しました。
- 敷引特約:有
- 2年以上:25%(42万5,000円)
- 原状回復費用:約45万円
- クロスの張替え
- 障子の張替え
- 襖の張替え
- 床畳工事
- ハウスクリーニング
大阪簡易裁判所判決
裁判所は、天井クロスの照明器具取付け跡や畳の汚損は通常の使用により自然に生じる程度の損耗であり、その修復費用は敷引金で充当すべきと判断。また、その他の損害については証拠不十分として認められず、賃借人Xの請求を全面的に認める判決を下しました。
- 敷引特約:有
- 2年以上:25%(42万5,000円)
- 原状回復費用:敷引金42万5,000円から充当
- ハウスクリーニング(照明器具の取付け跡・畳の汚れ)
まとめ:退去費用の内訳と合計
敷引特約は賃借人の通常の使用により賃借物に自然に生じる程度の汚損についての費用を充当する趣旨であり、その範囲を超える特別な損傷がない限り、追加の費用を賃借人に請求することはできません。
本件では、照明器具の取付け跡や畳の汚れは通常使用による損耗と認められ、その修復費用は敷引金42万5000円から充当すべきとされました。賃貸人が主張したその他の損害については、損傷の程度や修復費用が明確でなく、追加請求は認められませんでした。この判決により、賃借人は未返還の保証金46万円余りの返還を受けることとなりました。
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